軍議が終わり、武将たちが席を立つ。
言い争いをしていた者たちを穏やかに諭した荀攸の顔には、疲労の色ひとつ見えない。
しかし、退出しようとしたその背を、李典は衝動のように手首を掴んで引き止めた。
「……無理しないで下さいよ、荀攸殿」
荀攸は振り返り、わずかに瞳を細める。
「……李典殿の前では、隠し事は出来ませんね」
その声に李典は、掴んでいた手首からゆっくりと指を滑らせ、荀攸の掌を包み込む。
指を絡めて握ったそれは、場には似つかわしくない。だが、どこか甘えるような熱を帯びていた。
荀攸は困ったように目を伏せ、けれど頬に僅かな朱を差して、李典の手を拒めずにいた。