朝雨ようやく訪れた、束の間の逢瀬。
戦や軍務に追われ、お互い思うように会えぬ日々が続いてましたが、昨夜、荀攸殿の屋敷を訪ね、一晩を共に過ごすことが叶いました。
翌朝。
そろそろ発つ刻限となるのに、どうにも身体が動きません。
(まだ、荀攸殿の側にいたい)
このまま屋敷を出てしまえば、また次に会えるのがいつになるのか…
そう思うと、とても名残惜しいです。
身支度に手を伸ばそうとしたその時、
ぽつり、ぽつりと屋根を打つ音が…
それはすぐに、本降りの雨へと変わりました。
「……雨が」
思わず漏らした私の言葉に、荀攸殿がそっと手を添えられました。
その手は、まるで昨晩と同じように、指を絡めて離さないように、穏やかで、優しくて……
…心臓が……その、興奮しかけました。
「楽進殿、この雨が止むまで…ここに居てはどうでしょう」
「そ、そうしたいですが、この後軍議が…」
「この雨ならば、軍議の遅刻の言い訳になるでしょう」
小さく微笑まれたその顔を見つめながら、私はただ、頷きました。
外では、雨が勢いを増しながら降り続いている。
白く霞む庭先。軒からぽつぽつと滴る雫。
鳥が一羽、枝で羽をすぼめたまま、じっと雨をやり過ごしているのが見えました。
おそらく、すぐには止まない。
「……この雨が、少しだけ恨めしく、そしてありがたいと思うのは、不思議ですね」
荀攸殿がぽつりと呟き、私は荀攸殿と同じ考えで嬉しくなりました。
雨音が響く中、私はそっと荀攸殿の肩に身を預けた。
互いの鼓動が静かに重なって、呼吸も重なり、とても心地が良い…
(雨に、感謝しなくては……)
お陰で、荀攸殿のそばに少しでも長く居られる。
楽進は急な雨に感謝を心の中で呟き、荀攸の手を握り返した。
終