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    桜田 (sakurada)

    @3kn_cherry

    女体化とか小説とか色々供養場所

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    桜田 (sakurada)

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    花怜小説

    夜が優しくなるまで 静かな夜だった。
    部屋の中はほんのりと暖かく、布団包まれた謝憐の呼吸がかすかに揺れていた。

    __眠れない。
    理由なんてものはなく、ただ、ただ、眠れない夜だった。

    瞼を閉じても、意識の奥が微かにさざ波のように騒いでいる。
    心に引っかかる棘のようなものがありそれが痛いわけでも、昼寝をしすぎたわけでも、泣きたい夜なわけでもなくて、ただ意味もないままに謝憐の眠りを邪魔していた。


    そんなときだった。
    隣から布団の擦れる音がして、謝憐の愛する伴侶が呟いた

    「……兄さん、まだ起きてたんだ」

    その声は囁きのようにやわらかくて、でも、しっかりと耳に届く。

    「……うん、ごめん。起こしちゃったかな?」

    「いいえ。気配でわかります、兄さんが眠れていない夜は」

    「理由は……わからないんだ。ただ、胸の奥がざわざわしてるだけで。なんて、子どもみたいだな」

    謝憐は小さく笑おうとしたけれど、その笑顔はすぐに揺れた。
    ふいに落ちる不安というのは、案外そういう顔をしている。

    「子どもみたい、でいいんです」

    花城はそう言って、謝憐の手をとった。
    冷えていた指先が、じんわりとあたたかくなる。

    「兄さんは、ずっと強くて優しくて……俺の愛するお方。だから、ずっと守りたい」

    「……三郎」

    「眠れないときは、俺を頼って。黙ってても、話しても。それで兄さんが安心するならどちらでもいい」

     
    言葉が、ゆっくりと謝憐の心に染み込んでいく。

    手の中のぬくもり。鼓動の音。
    耳を澄ませば、夜がやさしくなるような気がした。


    謝憐は目を閉じる。

    「……じゃあ、少しだけ、話してもいいかな」

    「はい。朝まででも」


    それからふたりは、ことばを重ねた。
    何気ない昔話、好きな食べ物、前に見た夢のこと。
    やわらかく編まれた会話の糸が、謝憐の心をそっとほぐしていった。


    気づけば、夜は深く、深く――
    そして、静かに明けてゆく。

    もう、眠れない夜は無い。

    花城が隣にいてくれるだけで、
    夜はこんなにも、やさしくなるのだと知った。
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