自分が知ってる貴方の癖「チリさんはそういう食べ方をするんですね」
アオキに言われてチリは大口を開けたまま、はたと止まった。今日のおやつは上下に別れたシューの間にホイップクリームがふんだんに入っている、ちょっといいシュークリーム。
チリはそのシューの上部分をスプーンのようにしてホイップをすくい、今まさに頬張ろうとしている時だった。
「そういう…って、こうやってすくって食べるやり方?」
「はい。初めて見ました」
「へぇ~そうなんか、チリちゃんずっとこの食べ方やな……実家でもそうやったし」
そう言ってやや気恥ずかし気に視線を逸らすチリを、アオキはわざわざ食べる手を止めてまで不思議そうに見つめる。
「いやなんか…変やった?」
「いえ、特には」
「こういう…食べ方一つといい、癖というか、行儀悪く見えへんかなって思ってまってな?」
「そんなことないですよ。むしろすくって食べるやり方もあるのか、と」
アオキもチリに倣って、かじりかけのシューでクリームをそっとすくって食べてみる。うんうん、と何やら納得した様子の彼を見て、チリも奇妙に思われていないことにほっとしてようやく相好をくずす。
「いいですね、この食べ方」
「アオキさんはなんでもかんでも一口でガーッといってまうからな」
「一気に食べてしまえば零れないだろうの精神です」
「でもショートケーキを手づかみでいったのは驚いたなぁ」
「それは……あの時のチリさんの表情は見ものでしたね」
「箱から出して早々に食べるんやもん、カルチャーショックやったわ」
「皿とかフォークとか出すのが面倒なんですよね。昔からやってた癖で、つい」
「まあ確かに洗いもんは減るけどな。でも情緒がないわな」
なははと笑ってチリも残りのシュークリームを頬張れば、口いっぱいに甘く幸せの味が広がる。遠くでカラミンゴとドオーが物欲しそうにじっとこちらを見ているが、これはポケモン向きではないので今ばかりは我慢してもらいたいところである。
「他にもそういった癖、みたいなものありますか?」
アオキが早くも三つ目に手を伸ばしながら尋ねる。その頬にホイップクリームがついているので、ちょいと指でとってやる。甘かった。
「う~ん?ああでも、アオキさん朝起きたら首を一回ゴキッて鳴らすな」
「それは…言われてみれば確かに。チリさんは考え事をしている時に前髪を触る癖がありますね」
「そうやろか?」
「ほら今」
「あっ」
「他にはカレーを食べる時、スプーンを一回コップの水に浸しますよね」
「ああそれは…すんません、チリちゃんの子供の頃からの癖です。アオキさんはラーメン食べる時、浮いとる油を箸で一つの塊にしがちやな」
「確かに。お見苦しかったら申し訳ないです。逆にチリさんはレンゲでミニラーメンをよく作りますね」
「ちょっと楽しいねん」
「器用に乗せるなあと毎回感心します」
二人してくすぐったい気持ちになって笑い合う。シュークリームの入っていたケーキ屋さんの箱は空っぽになって、その大半はアオキのお腹に収まって、それでもアオキもチリも幸福で胸がいっぱいだった。チリが温くなったコーヒーをゆっくり飲む。
「それにしてもお互いおもろい癖ばっかりやなぁ。もし変な癖とかあったら教えてな」
「それは自分もです。ちょっとずつ知っていきましょう」
「せやなぁ、なんせ今日から一緒に暮らせるんやし」
そういってチリは二人の部屋をぐるりと見渡す。青空からふりそそぐ太陽が部屋にひだまりを作り、その中で二人のポケモンたちがのんびり寝ている。ピカピカの家具もあれば、お互いの持ち寄ったコップや皿なんかもある。アオキとチリが二人映った写真立ては、これから増えていく予定だ。
「どっちが多く見つけられるか勝負やな」
そういって笑うチリがペロリと小さく唇を舐める。それが照れ隠しの癖であることは、アオキだけが知っている。