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    mnmsrbakirie

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    mnmsrbakirie

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    至って普通にcrちゃん大好きなaokさんと、ちょっぴり人外なcrちゃんのお話
    全年齢、ほのぼのしてるはずです

    丁寧に丁寧に首筋、うなじ、鎖骨。胸の辺りを滑る指は、そのまま肩甲骨から肩口をくるりとひと撫でし二の腕へ。背中を通って腰を伝い、太ももまで丁寧に撫でていく。
    湯の蒸気で煙る脱衣場でチリが自身の肌を丹念に撫でていると、控えめなノックが聞こえる。

    「チリさん、大丈夫ですか」
    「おん?どうかしたん?」
    「夕飯できてますが、脱衣場から出てくるのが遅いので…大丈夫ですか?」
    「もうそんなに時間たっとる?」
    「腹を空かせたドオーとカラミンゴが抗議のじだんだを始める勢いです」
    「そりゃあかん」

     そうは言うものの、チリはのんびり悠長にまた二の腕を擦る。傍らに置いてあるボディクリームを手に乗せ、丁寧にまんべんなく肌に塗り込んでいく。
     ドアの前にはまだアオキの気配がしている。なかなか脱衣場から出てこないチリを心配しているのだろうが、やっていることがことなだけに迷っているようである。チリの中に小さないたずらこころが灯る。

    「アオキさんちょっと入ってきてくれへん?」
    「えっ」
    「少しだけでいいから」
    「……体調でも悪いんですか?暑すぎるようならドアを開けますが」
    「はよ~~」

     トゲチックがたっぷり一匹通過するくらいの間の後、控えめに脱衣所のドアが開き、髪を下ろした部屋着姿のアオキがのっそりと上半身を入れる。そして。

    「っ、なんでまだ裸なんですか」
    「ええ~?だって仕方ないやん」
    「もう服を着てるものかと…!」

     蒸すような暑い室内、蛍光灯の下にはチリの一糸まとわぬ姿が露わになった。緑の長髪が身体のそこここを隠してはいるが、細く眩しい素肌がアオキの目に焼き付く。
     律義に目を逸らすアオキの様子に、チリはおかしそうに髪をかき上げる。

    「いっつも見とるやん」
    「……それとこれとは別です。それより」
    「うん」
    「何かありましたか?自分を呼ぶなんて」
    「いや?イケメンなダーリンの顔を見たくなっただけ」

     ペロリ。チリはいたずらっ子のように、常人より薄い舌をちろりと覗かせる。人工の光に照らされるその肌には、胸、肩口、太ももの一部と背中にと、ところどころ鈍く光る鱗が生えている。
     チリは人類ではない。

    「保湿クリーム減ってましたか」
    「大丈夫。この前安売りしとったでいっぱい買ったやろ」
    「部屋暑くありませんか」
    「アオキさんがチリちゃん見とるからドキドキして熱いわ」
    「いや、あなたの場合シャレにならんのですよ」

     心配したようにアオキがそっとこちらを見やるも、チリは胸の緑の鱗にクリームを塗っているところだった。慌てて脱衣所の向こうのバスルームに視線を飛ばす。仲良く並べられたムックルとドオーのぷかぷかマスコットがそろってこちらを見返してきた。
     まだらに鱗の生えた肌を持つチリ――「鱗類(りんるい)」と呼ばれる彼らは気温室温の急変にめっぽう弱い。全身を保湿するため裸にならざるを得ないチリのために、脱衣所は湯気で温められている。
    アオキは室温を下げないため、ドアを閉めて部屋に入る。人類であるアオキにはじっとりと汗ばむような温度だが、チリはさっきからずっと籠っているのにけろりとした表情でへその辺りを撫でている。

    「ドオーたちどんな感じでした?」
    「キッチンまで突撃するか否かをノココッチたちと相談してました」
    「おやつちゃんとあげたはずなんやけどなあ」

     誰かさんに似てまったな、と嬉しそうにチリはクリームのボトルを傾ける。アオキはなんともなしにその光景を眺める。チリは時間をかけてじっくり己の肌を保湿していく。どれだけ仕事でクタクタになろうが、どれだけ気分が落ち込もうが、どれだけ時間がなかろうが、決して欠かさず毎日毎日丹念に丁寧に、執拗に。習慣と呼ぶには些か穏やかではない日課を繰り返す。
     くるりとチリが背を向けたそこ、長髪から覗く腰の鱗がてらりと光る。じっとアオキが見つめる視線にチリは苦笑する。

    「ほんまいつもすいませんね」
    「え?」
    「めっちゃ時間かかるし、皆待たせてまっとる」
    「そんなことないです」
    「すいませんね、これしないと肌が目も当てられんくなるねん」
    「大丈夫ですよ、急がなくていいですから」

     本心でアオキは首を横に振る。チリは度々この日課を申し訳なさそうにアオキに謝った。
     こおりポケモンやほのおポケモンのように暑さ寒さに弱い鱗類は、乾燥にも弱かった。お肌のケアや乾燥とは無縁のこの時期でも、チリの肌は油断すればすぐにかさつき強張っていく。自他ともに認める「美人さん」で常に自信に溢れ皆の注目を浴びるチリだが、乾燥でボロボロになった姿だけは絶対に、頑なに誰にも見せない。アオキが初めてその姿を見た時だって不可抗力のようなもの。あの時のチリの怯えと絶望のない交ぜになった表情は、未だに彼の心をしくしくと痛ませる。

    「もう少しで終わりますんで」
    「ならここで待ってますね」

     ふわりと目元を緩ませるアオキに、チリは胸の辺りがぎゅっと甘く締め付けられる。
     チリは己の体質が嫌で嫌で仕方なかった。どれだけ長い時間をかけて行っても、少し手を抜けばそこからひび割れのように肌が崩れていく。この時間さえなければもっとアオキと触れ合えるのに、大切なポケモンたちとじゃれ合えるというのに。

    「ええよ。アオキさん熱いやろ」
    「チリさんの熱視線に比べれば、なんとも」
    「言ってくれるやん」

     自身が鱗類であることをチリは徹底的に隠していた。パルデア地方でこのことを話したのは上司のオモダカくらいである。鱗類であると知られていたチリの地元では、それはそれはじっとりじめじめした陰湿な嫌がらせを、幼い頃から何回も浴びてきた。暗い思い出を振り払って、チリはパルデアの地に降り立った。
     忘れもしないロースト砂漠での一件。四天王になって幾ばくかの時期に、同僚であり先輩でもあるアオキと一緒に行動していた際の出来事。猛暑に晒されながらアオキと共に一仕事終え、さあこれであとはタクシーに乗り込むだけだという時に異変が生じた。予想以上に荒れ狂う熱砂と灼熱の太陽に晒されたチリの肌は、深刻なほどのダメージを受け痛々しく悲鳴を上げ軋んだ。ささやかな違和感はすぐさまチリの全身を襲い、驚きで目を丸くするアオキの前で彼女は力なく地に伏した。

    「そいえば今日の夕飯なに?」
    「カレーとトマトのサラダです」

     嗚呼見られた。痛みで散る思考の中でチリは静かに絶望した。アオキさんに見られた。鱗類であることが知られた。気味悪いと思うだろうか。怖いと言うだろうか。

    「辛口?」
    「甘口もありますよ」
    「やったー」

     すいません。アオキの声が近くに聞こえると思った時、ふわりと何かがチリの全身を包んだ。アオキの上着だった。大丈夫ですか、肌に塗るものは持っていますか。耳元で呟かれる言葉にチリが鞄を差し出せば、察したアオキがその中からチューブタイプのクリームを抜き取り、断りもなく彼女の腕に塗り広げる。チリは節ばった大きな手が自身の肌を擦っていくのをただじっと見ていた。
     それからのことはよく覚えてはいない。やや汗臭いアオキの上着を羽織らされたままリーグの医務室に駆け込まれたであろうことは、清潔感のある静かな天井をベッドから見上げた時に理解した。アオキは既にいなかったが、チリが鱗類であることが広まることは一向になかった。
     それどころか、回復してアオキにお礼を言いに行った際「緊急事態であなたに触れてしまったとはいえ、断りもなく申し訳ありませんでした」と、ナマズンよりも真っ青な顔で懺悔された。迷惑をかけてしまったのはこちらなのに、アオキの方が菓子折りを持って腰を折り謝罪する勢いだったのが強く印象に残っている。
    「未だに辛口は無理なんですか」
    「んー。なんかあの容赦ない刺激がなー」

    なんやこの人、バトルは強いけど無口でつまらんおっさんかと思っとったのに。
     誰にも言わないし教えないと誓っていた身の上を、何故かアオキには伝えてもいいんじゃあないかとチリは思った。
    チリちゃん実は鱗類なんです、身体のあっちこっちに鱗あるし、乾燥にはめっちゃ弱い体質やし、毎日保湿せんとお肌はサンドみたいになってまうんよ。冗談めかして話すチリをアオキは茶化すことも何かいうこともせず、猫背のままじっと聞いていた。
     いやー美人は悩みも苦労も多いもんやで!いっそ全身ぬるぬるになれれば乾きもせず楽なんやけどなあ!
     そう言い切ったチリは、そのままじっとアオキの反応を伺った。見つめられた当の本人は顎に手を当てて何やら考え込んだ後に、ぽつりと一言。

    「辛口と甘口混ぜてみましょうか」
    「嫌やそんなん。辛いとこだけ避けて食べたるわ」
    「はは、なんですかそれ」

    「まるでドオーみたいですね」

     チリは手を止め脱衣所のドアにもたれかかるアオキを見た。アオキはきょとんとこちらを見つめ返している。

    「どうしましたか?」
    「……いや、なんでも。アオキさん好きやなーって」
    「なんですか急に」
    「アオキさん塗ってくれん?チリちゃん疲れてまった」
    「お口は元気なようですが?」

     ぱちん、とクリームの蓋を閉める。今日の日課はこれでおしまい。そしてようこそ、正真正銘二人と、みんなとの時間。

    「えー?今なら全身触り放題やのに?」
    「そういうことじゃないんですよ」
    「夜はい~っぱい触るやん」
    「………」

     図星だったのかアオキの視線が外れる。その反応がチリにはおかしくてたまらない。ベッドの中では吸い付くようにこちらに手を伸ばしてくるのに。チリの外も中もくまなく丁寧に撫でて、甘やかして優しい温かさで満たしてくれるのに。チリを翻弄する手は今はぐっと組まれた腕の下に隠れてしまっている。
    数時間後にはたっぷり味わえるだろうことを予想しながら、チリはようやく部屋着を手に取る。下着を身に着け、ズボンを長い足に通し、長髪を軽く持ち上げて上着を着ようとした時。

    「チリさん待ってください」
    「ん?」
    「背中に塗り残しが」
    「え」
    「ムラになってますよ」

     さっきまで見ず触れず動かずだったアオキが、さっとチリの背後に回ると背中に手のひらを這わしてくる。そっと上から下に撫で上げられ、塗り残しを丁寧に肌になじませていく。柔らかい肌から、鱗の乗った部分まで分け隔てなく。
     夜の色の気配など微塵もないアオキのその手付きと視線が、逆にチリにはくすぐったい。

    「はい、大丈夫です」
    「……アオキさんって」
    「はい」
    「そういうとこやで」
    「そういうとこ、とは」
    「食後の『デザート』の下ごしらえ、ありがとな?」

     アオキを振り向いてぱちんとウインクすれば、部屋の熱気ではなく彼の頬が赤く染まる。そのままアオキは何を思ったか、はぁと一つため息を零す。

    「……デザートのアイスにはカルシウムパウダーをたっぷり振りましょう」
    「ええー!?なんでや!?日光浴ちゃんとしとるやろ!!」
    「それと称してダグトリオたちと泥遊びしてたら意味ないですよ」
    「アオキさんのいじわる!いけず!非凡!でも好き!」
    「存じてます」

     その時タイミングよくリビングの方からポケモンたち、主にドオーとカラミンゴの抗議の声が聞こえてきた。アオキの腹も盛大に鳴った。思ったより随分時間をかけてしまったようだと、アオキとチリは顔を見合わせて笑い、いつもより火照った手を繋ぎ合わせて、二人仲良くリビングへと向かった。
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