クラカイ小話⑥夜の秋の里には、どこかしっとりと水気を帯びた匂いが漂っていた。地を這う風が吹き抜ける。乾きかけた紅葉がひとつ、はらりと落ちて、下の水たまりに淡く色を溶かしていった。
クラマとカイは、居酒屋ヤチヨを出たところだった。今夜は、クラマの結婚祝いという名目で酒を酌み交わした。
暖簾が背中で揺れるのを感じながら、ふたりは並んで歩き始める。とくにどちらが先でもなく、道の選び方に合意があったわけでもないのに、不思議と足並みは揃っていた。
今夜の月は低い。頼りなく、けれど真っ直ぐに、湿った石畳の上に光を落としていた。小さく虫が鳴いている。道には誰もいなかった。
分かれ道の角が目前だった。片方は龍神社へ、もう片方は、ひとりの家へ続いている。
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