クラカイ小話⑪春の里には、薄桃の霞が地表すれすれに漂い、光は若葉の縁を撫でてから、いろは茶屋の庇へ滑り込んでいた。
湧き水にとけた土の匂いと、お茶や団子の甘い香りが混じる。
カイは串団子をがぶりとかじった。焼いた米粉の香ばしさに、甘醤油が舌に残る。隣で湯呑みを両手で包むカグヤが、カイの言葉を反芻する。
「クラマさんの様子がおかしい、ですか?」
カグヤが囁くように言った。湯の表面で、春の空が小さく揺れた。
「おう」
カイは短くうなずき、また団子を頬張った。
言葉少なな肯定の奥で、カイの胸はざわついていた。ざわつきの正体を、彼自身はまだ言葉にできていない。
ただ、あの悪友とも呼べる秋の神が、最近よく目をそらすこと、ゲームに誘っても家に上げてくれないこと、そして何かを言いかけては唇を閉ざすこと――それらの断片が、胸の内側で細かい棘となって刺さっていた。詰め寄る気にはなれなかったのは、クラマの中で何かが変わり、その変化を扱いあぐねているようにも見えたからだ。
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