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    Lionsomps

    ラウヴァアアアアアアアン!
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    Lionsomps

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    うちのほんまる設定

    黄昏紀行「ダメだわ。ここも空き無し。」
    「やれやれ。なんならもうこのまま行ってしまうかい?」

    新大阪駅の長いコンコースに置かれているコインロッカーは何処も使用中ばかりだった。
    先ほどから歌仙と共に大きく膨らんだ土産袋を両手に吊り下げながらひたすら荷物を預けられる場所を探している。

    「目的地はそんなに遠くはないけど、この量を持ち歩くのはちょっとしんどいなあ。あっちいってみよ?」

    この時代の「今」は連休の真っ最中だった。疫病のおかげで世間は混迷を極めているが新幹線駅のここには沢山の人が往来している。
    しかし夏終わりのこの時期だというのに視界に入るすべての人が皆マスクをつけている。
    一見活気にあふれるいつもの様子だったが、それだけが今の非日常を醸し出す。

    「ふう、この布は軽くてさほど気にはならないけど、やはり息が籠って快適とまでは行かないね」

    そう言って口元を覆う不繊維の医療用マスクに手をかけ無意識に下ろそうとしてしまい、ごまかすように小さくパタパタと仰ぐ。いっそ外してしまいたいのだろうが神経質になりすぎるのも仕方なしという世情、何時誰がそれを責めにやって来るかも判らない緊張感にうんざりした様にくぐもった溜息を吐いた。
    歌仙はゆったりとした薄いグリーンの麻のシャツにコットンパンツを着ており一見普通の青年と変わらない。いや普通に青年ではあるのだがふわりとした少しクセのある前髪からのぞく目鼻立ちはたとえマスクで半分隠されても、長いまつげが濃く影を落とす麗しい瞳は零れる様な色気を醸し出している。緩やかなシャツもいつもの装束では分かりにくい意外と逞しい肩や腕の筋肉のシルエットに薄くまとわりつく。そして、隠しようもなく漂う、戦う者が持つ、凛とした隙のない透明な気配。

    「あ、あそこ開いてる。トランク用の大型か・・・ちょっとお高くなるのよね」
    「もういいから入れておしまいよ。大した額でもないだろう。面倒だ」

    マスクのいら立ちも含めた不機嫌な言葉に渋々そこに荷物を詰め込んだ。

    「さて、ここから外に出て、あそこに見える道を左に行くみたいだね」

    スマホの地図アプリの画面を右往左往させ進む方向を探しながら適当に一番近い出口から外に出る。そこはタクシー乗り場だったが階層的には二階に当たるらしい。
    では適当に端に行けば下に降りる階段でも見つかるだろうとぐるりと広場を回り込む。
    しかし行き止まりで眼下に見える道路に繋がるものは何も見あたらなかった。

    「・・・ここじゃないみたいだね。反対側にもそれらしい階段はないんだが」

    現代ということでほぼ道案内を私に任せた歌仙が投げやりに言う。

    「駅構内から一階に降りなきゃいけないか・・・」

    引き返し、下に降りるエスカレーターをまたあの通路でウロウロと探し回り、さらに外に出る出口をまた探す。

    「なんだってこんなに分かりにくいんだね。たかが外に出るだけというのに・・・」
    「旅行客は普通この駅から外に出ないから・・・出てもタクシーに乗るからなあ」

    目の前に、目的の道が見えている事に二人してややキレながらあみだくじを辿るように進み、ようやく外に出ることが出来た。
    日本三大都市の一つ。関西の玄関口ともいえるこの駅なのに周辺は至って地味なビジネス街だった。地下鉄周辺の人影もまばらな繁華街をスマホの画面をこねくり回しつつ進むと、今度は団地が立ち並ぶ地域に道は続いていた。

    「・・・肉じゃがかな?」
    「ちょっと濃い目の味付けの匂いだ。照り焼きだと僕は思うね」

    無機質に巨大な立方体が並ぶ昭和時代にありがちなデザインの建物に洗濯物が干された生活臭溢れるベランダ。
    今は夕刻で空はすでに暮れかかり薔薇色に染まった雲がぞろぞろと流れている。夕食の用意がされている時間帯なのだろう。
    こんな場所にあの有名な寺があるのか?と不安に思いながらも歩き続けると高い塀が続く横道に突き当たった。地図アプリのナビゲート通りに道を曲がるとその高い塀よりさらに高い、先が4角錐になった細長い墓石らしきものがいくつか姿を覗かせている。
    そこから読み取れる文字は日本軍の階級らしきもの・・・戦争で亡くなった軍人の物だろう。
    墓地の広さが実感できるほど長く塀沿いに沿って進み続けようやく曲がり角に来た。この寺の西門から複数のマスクをつけても判る上品なご婦人たちが若い僧に見送られて出てくる所だった。

    「もし、君。この寺は門を閉じてしまうのだろうか?」

    歌仙がその僧に尋ねた。

    「いえ、寺は閉まりましたが墓地には参っていただいて構いませんよ。でもここからは入れません。この次の角を曲がっていただいたら正門がありますから」

    何が目当てなのか解りきった慣れた様子で僧は答えた。今の時勢でなければそこそこ観光客も多いのだろう。その答えに礼を言い、先ほどの婦人達の後に付いてさらに進むと言葉通りにようやく正門に到着出来た。

    「ここだね」
    「すっかり薄暗いね・・・さすがにちょっとこの時間の墓地は不気味だな」
    「いきなり言い出すのだからね、君は。無駄足も覚悟したよ」
    「ごめんて」

    あまり常識的でない時間に来た自覚に遠慮がちに内部へ進むと綺麗に掃かれた境内の本殿前に大きくて立派な木が一本立っている。その向こうに広がる墓地の中、敷石を辿っていくと目的の場所があった。小さな雨よけの建物の中に並ぶ三つの墓。一つは細川玉・・・ガラシャの墓だ。
    どの墓にも丁寧に花が供えられ、彼女の墓の前にある水の入った美しい色のガラスのコップには枯れた花びらが浮かんでいた。

    散りぬベき時知りてこそ世の中の花も花なれ人も人なれ

    きっと、誰かがその時はまだ瑞々しく美しかったはずの一片の花びらにあの歌の面影を託して置いたのかもしれない。
    歌仙がそっと、それを指で優しくつまんで取り出した。

    「真ん中にあるのが足利義教の墓・・・この人も、まあ、中々激しい人だったみたいだね」
    「権力争いの真っただ中に居る人物など平穏に生涯を終えた者のほうが珍しいだろうさ」

    そういう時代だったのだ。

    一言で言えてしまった微妙な心持のまま彼女の墓前に小さく頭を下げ、両手を合わせた。
    時代の風の中揺れて散っていった一輪の花。今も人々の追憶の中に凛と立つ姿。

    「線香も何も持ってないからなあ」
    「十分さ。この寺の者が毎日面倒を見ていてくれてるのだろうから・・・気は済んだかい?」
    「まあね」

    隣で歌仙も手を合わせていたが、この小さな旅の同伴者の他人事のような態度はそれを見抜いていたのか、と思う。
    現代遠征の途中成り行きであの駅で降りることになり衝動的に言い出した事だった。ましてやこんな夕暮れの中で出発したいと言い出した私を歌仙はさして咎めずこうして付いてきてくれた。
    彼を修行に送り出した時私は彼が何かに傷ついてしまわないかとても心配だった。
    例え心というものがその為にあるのだとしても。
    帰ってきてからの彼は尊大な態度を益々デカくした様に見えたが、それもまた小夜と同じく何かを受け入れた覚悟の一つなのだろう。
    そして、私もその背中を追って見たかったのかもしれない。
    結局また私の我儘に付き合わせたのだ。


    寺を後にし、さらに宵闇の粒子が景色に降り積もり空の雲は益々その薔薇色を深めてゆく中を駅に向かって二人歩き出した。適当に来た道とは違う方向を辿ったが問題は無いだろう。
    途中に大きな葉を茂らせる木が立ち並んだ公園に差し掛かった。当たりはその落ち葉がこんもりと風に吹き溜まって積み重なりマメな手入れはされていない様相だった。その中にはペットボトルやコンビニのレジ袋、パンの袋なども混じっていてあまりよい眺めとは言えない。
    そして通路と花壇を分ける段差の石垣に若い男が一人腰かけていた。今流行のスニーカーとハーフパンツやTシャツから覗く手足は逞しくしっかりと筋肉が発達している。短く刈り上げたスポーティな髪型に、顔立ちは精悍でキリリとした眉に強いまなざしの目元。武将の恰好などさせて舞台の上に立てばさぞかし映えるだろうという美丈夫だ。
    そんな彼が気だるげに腰を下ろし、本当につまらなさそうにタバコを吸っていた。
    うまくいかない事でもあって機嫌を損ねているのか。それともこの周辺でアルバイトでもしていて休憩に抜け出し気を抜いているのか。どこか以前の歌仙に似ているな、と思った。
    何かを持て余しているような風情であってもいずれ成功を手に掴み、もしかしたら俳優としてお目にかかる事があるかもしれない。それともこの後仕事に戻り、仲間たちと笑い合いながらまた働き、それなりの人生の波に乗り続ける日々を送るのかもしれない。激しい人生かもしれないし、大きな流れに揺蕩う様な人生かもしれない。

    そしてふと思った。これが今という時代なのだ。

    「あのね」
    「ああ」
    「なぜ歴史を変えてはいけないのって聞かれてさ」
    「うん」
    「・・・誰かの願いが叶ったのが今なんだなって。人が生きた。それを無かったことになんかしちゃいけないんだなって」
    「そうか」

    歌仙は否定も肯定もせず、ただそう答え、それ以上は何も言わなかった。

    正しい事なんかこの世になぞきっとありはしないのだ。
    だからこそ。

    そんな景色を通り過ぎると大きな駅が見え始め、来るときには閉まっていた何軒かの酒場にも明かりが灯っている。

    「後は転移ポイントに行くだけだしさ、ちょっと飲んでいっちゃわない?急がないでしょ。時間なんか調整はいくらでも出来るんだし」
    「君はね、そうやってすぐ寄り道をして・・・今日だけでどれだけの店に入ったと思ってるんだ?ふらっぺだのぱすただの・・・その上昼過ぎにだってぱんけーきとやらを食べたろう?」
    「いいじゃんさーもう夜だよ?。そこの海鮮酒場でお刺身なんかどう?」
    「まったく。少しだけだぞ」

    どうせ我儘ついで、と開き直った駄々で結局また彼を巻き込んでみた。



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