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    かいこう

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    かいこう

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    ラブレター、こわい。/花流
    花流の日まで後8日~

    #花流
    flowerFlow

    ラブレター、こわい。「…今日のは怖い…かも」
     下駄箱に入っていた手紙を読んでそう呟く流川を廊下の曲がり角から伺っていた桜木は、よっしゃと歓声を上げながら飛び出しそうになって慌ててリーゼント頭を引っ込める。そんな桜木に気づかない様子で、流川は便箋を封筒に戻すと肩にかけていた鞄にしまい、階段を上がっていった。その後ろ姿に口元を手で隠しながらぷくく…と笑う。今日こそ流川を怖がらせてやれた。天敵である流川の強い物を知って、それを与え続けて八日目。ようやく効果があったようで、桜木は嬉しかった。明日はもっと怖がらせてやろう…流川が怖いと言う、ラブレターで。流川の姿が完全に階段の向こうに消えてから、桜木はこそこそと忍び足で階段を上った。踊り場をひとつ過ぎ、一年生の教室がある階で、またさっきのように少しだけ顔を覗かせる。流川は教室の手前で眠そうに大きな欠伸をしていた。天才による天才的な策略に嵌っているとも知らずに呑気なもんだぜ。教室に入り姿が見えなくなった流川を追うべく、見つからないように隠れながら廊下を進み、開いていた窓の隙間から、いけ好かないキツネ野郎を観察した。何せラブレターを書くには、情報が必要だから。

    「うーむ…」
     今朝は意気揚々としていたが、部活を終えて帰宅した桜木にはラブレターを書く気力がなかった。部活で疲れているわけではないし、文面が思いつかないわけでもない。それなのに便箋を前にして、どうにも、ペンを走らせる気分になれないでいた。桜木が、恋敵であり性に合わないムカつく相手でもある流川にラブレターを書いているのか。流川がラブレターが怖い、と言ったからだ。あれは朝練の後で、着替えるために部室に向かっている途中で、朝練のない他の生徒たちも登校し始めていて、そんな生徒の中の人に、流川が呼び止められ、いくらかのやり取りをしていたかと思うと、生徒は反対側に走っていき、流川は面倒くさそうに頭を掻く。他の部員たちは素知らぬ顔で先に部室で着替えていたが、入ってきた流川に、誰かが、どんな用だったんだよ、と聞いて、あー断ったけど好きだからつって手紙押しつけられた、と流川が答えた途端、わっと色めき立った。流川がモテることなんて今さら騒ぐほどのことじゃない。桜木はけっと思いながらその喧騒には加わらないでいた。
    『読むのか?それ』
    『読むわけねー』
    『まあ断ってるしなぁ』
    『そういうの、どうしてるんだ?』
    『家に帰って捨てる』
     だよぁ、と流川に頷く誰かの声に頭の中がかっと燃えて、反射的にロッカーを強く閉めてしまう。この野郎、スカした言い方しやがって、それをどんな気持ちで書いたかなんて知らねぇんだろ…と、過去に五十回告白してきては振られた自分と、流川に手紙を渡した生徒が重なった。桜木の過去と流川は、あの生徒は、何の関係もないのに。つい、じろっと流川を睨んだ。流川も何だと言わんばかりに見返してくる。
    『さすが冷酷キツネだぜ、読みもしねぇで捨てるとはな』
    『おい、よせよ桜木』
    『どあほうには関係ねー』
    『貰い過ぎて読んでる暇はねぇってか』
    『そもそも流川は断ってるんだし、どうするかは流川の自由…』
    『人の気持ちなんてどうせてめぇには分かんねぇよな、このバスケバカめが』
    『ここにいる全員がバスケバカだと思うよ、言っちゃなんだけど』
    『あーっもう、いちいち横からうるせぇっ』
     懸命に流川に対して凄んでいるのにものともしない部員たちに桜木はプリプリと怒鳴った。
    『うるさいのはお前だ!さっさと着替えろ、桜木!』
     おまけに赤木からげんこつされ、桜木は悔しい気持ちで痛む頭を抑える。
    『ぐぬぬ…』
    『どあほう』
    『この野郎!何でちゃんと読みやがれねぇんだ、ラブレター書くのになぁ、どんだけ緊張すると思ってんだっ』
    『いやそれは知らないだろ』
    『すげぇ数だろうしな』
    『別に読むのも読まないのも…』
    『そうそう、流川次第ってこと』
    『桜木こそ口挟んでんじゃねぇよ、もう、ほっとけほっとけ』
    『…読みたいとは思ってる』
    『へー』
    『でも、できねー』
    『何でだよ』
    『ラブレター、怖い』
    『は?』
    『昔読んだら急に目がシパシパしてきて気づいたら寝てた』
     真面目な顔つきで言い放った流川に、桜木は衝撃を受ける。桜木の想像では一通たりとも読まずに捨てていた流川がそうではなかったことに、どう言葉にすればいいのか分からない気持ちに陥った。自身の情動に気を取られる桜木に流川が続けて言う。
    『だから、ラブレター凄ぇ怖い』
     それが怖いって思ってる奴のツラかよ、と本当ならキツネの弱点知り得たり、と訝しめばいいのかにやつけばいいのか桜木は惑う。
    『信じらんねぇな』
    『何で』
    『ライバルたる俺様にあっさり弱点さらすなんて、キツネらしくねー』
    『別にどあほうが読め読めうるせーから言っただけ、分かったら黙ってろ』
    『てめー!』
    『桜木、いい加減にしろっ』
     再びげんこつを落とされて桜木は痛みにうずくまった。そんな桜木に、先に着替えた流川が上から一瞥を落とす。見下されているようで嫌な気分だ。腹立たしくてならない。こうなったら流川が怖いと言うラブレターを書いてやる、桜木はそう決意した。次の日、ノートのページを切り取ったものに、好きだとだけ書いて、二つ折りにした後で読まれなかったら意味がないと、絶対に読むようにとの一文を表につけ加えて流川の下駄箱に滑り込ませる。嫌いな相手に好きだの三文字すら苦痛なのに、下駄箱を開けて、桜木のラブレターを一瞥した流川は言ったのだ。これっぽっちの短いラブレターじゃちっとも怖くねー。影で様子を伺っていた桜木は怖がらない流川に悔しさで歯噛みした。さらに翌日、二通目は宛名と好きだと書いたら、封筒に入ってないんじゃ怖くねーと言われる。三通目、屈辱にぷるぷると震えながら文房具店で買ったレターセットに同じようにしたためたら、俺のどこがいいのか書いてねーから怖くねーと言われた。それならばと四通目に名前と告白とどうにか捻り出したよく寝るところと書いてみたら、まだまだとため息をつかれる。五通目は天才には負けるが身長とつけ加えたものの怖がられず、六通目にバスケがちょびっとと足した。全然俺のこと見てねー奴のラブレター読んでも…ってどういう意味だぁっ?と切れながら授業中や休み時間、部活の間もちらちらこそこそと流川を観察して、昼休みの中庭で猫に逃げられてたところと書いてやった七通目。読みながら笑っていたので桜木こそ怖くなり、次の瞬間には、笑いやがって、と怒り心頭で、八通目、早食いなとこ、字が丸っこいところ、バスケ以外はぼーっとしてやがるところ、先公に怒鳴られても寝てやがるところ、ムカつくことしか言わねぇくせにクラスメイトとは普通に話してるところ、宿題のプリントが机からぐちゃぐちゃになって出てくるところ、部活の時間になったら寝ぼすけキツネじゃなくなるところ…ととにかく思いつく限りのことを便箋につづった。それが今朝。この調子でいけば、明日の九通目が流川をいっそう怖がらせ、トドメとなるはずだ。憎たらしい野郎をやっつけられる。そう思うのに…今日も観察してきた流川の様子を頭に思い浮かべた。一日中見ているなんて苦痛に他ならない。だが、喧嘩するでもなく、素っ気ない言葉を投げつけられるでもなく、嫌々ながらじーっと学校で過ごすさまを眺めて、夜、家に帰ってから、手紙に書きつけて、流川楓の名前と、好きだと恋する気持ちを続けると、できあがったラブレターを見ていると、まるでこれこそが本心のような感覚になるのだ。そんなのは錯覚だと自分に言い聞かせる。自分の席で窓からの風に髪が揺れている横顔、いつも眠そうな顔、机に寝ながら遠慮なく垂らすよだれ、部活の時とは打って変わって鋭さのない目つき、それが六時間目が終わった途端にぱっと光が入る…見つめ続けたせいで、気を抜くと、思い出すようになってしまった。そして見たことを字にする時、ペンを握る手は熱くほてっている。これではだめだ。桜木は目の前の便箋をぐしゃぐしゃと丸める。それからぽいっとゴミ箱に捨てた。

    「おい」
     ラブレターを書かないなら流川を観察する必要はなく、とは言え授業を受ける気にもなれなくて、屋上で寝転んでいれば、上から呼ばれる。
    「何で今日は書いてきてねー」
     返事をしまいが、目を開けまいが、流川は構わないようだった。このまま無視してやろう。ごろっと背を向けたところで尻を蹴っ飛ばされた。
    「てめぇ…!」
    「ラブレター、今日はねーのか」
    「何で俺様がてめぇにラブレターなんか書くと思ってんだよ」
    「あんな自己主張強い手紙、どあほう以外いねー」
    「知るか」
    「俺を怖がらせたいんじゃねーの?」
    「つか最初から別に怖がってなんかなかっただろうが、適当言いやがって…」
     桜木はぼやきつつ、起こしかけたからだを戻す。話は終わりだ。態度でそう言ったつもりが、流川は意に介さず、どかっとすぐ近くに座られる。
    「ほらよ」
     視界を覆う距離で封筒を差し出された。
    「何だこりゃ」
    「ラブレター、どあほう宛の」
     流川の言葉が終わる前に背中を起こし、ぱっと奪い取る。俺様へのラブレターを何でルカワが持ってやがる?気になるが、人生で初めて貰ったラブレターに心が浮き立った。ああ、もう、ルカワなんてどうでもいい。封筒の表と裏を舐めるように見つめ、いそいそと中の便箋を取り出した。二つ折りにされたそれをそっと開く。字体に見覚えがあった。人には短いと文句を言ったくせに、そこにあるのは句読点を含めてたったの九文字。どあほうが好きだ。市販の便箋に書かれている。
    「俺も書いた」
     すぐ隣に居る流川の声がどこか遠かった。からかってんのかと握り潰せばいいのか。それとも、八通のラブレターを書いている内に気持ちの方向が変わった俺みたいに、てめーもどうにかなっちまったのか…いやいや、貰い慣れてるこいつが、たったあれだけでそうなるとは思えねぇ…視界の端で流川が笑っているのが見えた。酷く嬉しそう。お前は違うんだろうが、俺はラブレターが怖い、と桜木は思った。
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    かいこう

    DONEタオル/花流
    花流の日まで後6日~
    タオル 自分の洗濯物を片づけるついでに、流川のシャツや下着類もしまってやろうと棚の引き出しを開けようとすればがたがたと引っかかる。ふぬっと強引に開けてやった。中の衣服は雑然としていて、これが開けにくかった原因かと、桜木は呆れる。
    「あいつはよぉ…」
     バスケ以外はずぼらなところがある男の引き出しの中身を、仕方がないなと整理してやることにした。ここのところ、遠征や取材で忙しかったのを知っている。甘やかしているな、と思いながら、それでも普段の生活で、不得手ながら家事に勤しむ姿に接しているので、まあいいか、と畳み直し、きれいに詰め始めた。
    「ぬ…?」
     引き出しの奥に古びたタオルが入れられている。見覚えのある薄れた色合いや洗濯を重ねて薄くなってしまった生地の具合に、目を瞬かせた。それは、桜木の親が桜木が生まれる前に赤ん坊の肌かけにと桜木のために買ったもので、赤ん坊の時分から、幼稚園、小学校、中学校と育つ中、ずっと桜木の手元にあったタオルである。おしゃぶりの代わりにタオルの角をよく吸っていたと言われたり、そのタオルがなければ、昼でも夜でも寝られないと泣き喚いたり…自身の記憶に残っているもの、いないもの、合わせても思い出がたくさん刻まれている桜木の大事なタオルだった。小学校を卒業する頃にはもう肌かけにはしておらず、代わりに枕カバーとして使っていたものの、高校入学を翌日に控えた夜、中学校での最後の失恋から立ち直れなくて、可愛い恋人なんてこの先現れないんじゃないか、もしいるなら顔が見てみたい、好きになった相手とつき合いたい…と、布団に入って枕を、大事なタオルを、べそべそと涙で濡らしていれば、視界の端で模様がひとつ、すっかり消えて元々のタオル地の色が露わになっていることに気づき、束の間失恋の辛さも忘れて、桜木は起き上がると慌ててタオルを確認する。白いタオルに淵をぼやかせた青空と、元気よく飛び跳ねているキツネたちが描かれているはずだった。これまでの洗濯で全体的に色が薄くなってきたとは言え、一匹のキツネが、まるまる消えてしまったなんてことはない。初めての事態に、これ以上使って残っているキツネたちも褪せて見えなくなってしまうのは嫌だと、桜木はその夜から、タオルを使わなくなった。畳んで大事に取っておく。しばらくは長年使っていたタオルが手元にないことが寂しかったが、高校生活が始まれば、バスケに出会
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    かいこう

    DONE最高のバレンタイン/花流
    14でバレンタインだなってなったけど、たくさんのチョコをもらうるかわに嫉妬を爆発させて暴れるはなみち、を回避しようとして中途半端
    最高のバレンタイン 恋人がいると公言していようが、流川のバレンタインは盛況だった。本人はむっつりと面白くなさを前面に出して靴箱に入れられているチョコレートをスポーツバッグに詰めている。朝練を終え、いつもなら教室に上がる時には素通りする玄関で、中に入れられたプレゼントのせいで閉まらないロッカーから中身が落ちてくる前に片づけを始める流川を待つために、桜木も玄関に立っていた。色も形も様々なチョコレートの箱を、流川は、もう何度もこういうことをしてきたと分かる手つきでバッグへ放り込む。去年の秋の終わりからつき合い始めた男の横顔を桜木は見やった。桜木から告白してつき合うようになって、いいけど、と交際を了承したものの、果たしてこいつはバスケ以外の交流はできるのかと危ぶんだ桜木の予想に反して、一緒に登下校したいと言ってみれば頷いてくれたり、帰り道でまだ別れたくねーと呟かれたり、バスケ同様、流川は恋人としても、最高で、流川と恋人になってからというもの、桜木の心はぎゅんぎゅんと甘く満たされている。廊下の奥や背後の階段の上から、朝練の最中にチョコレートを入れたのだろう生徒たちの忍び笑いや囁き声が聞こえてきて、ぐるりと首を捻って視線を巡らせる桜木の足元で、流川がため息をつきながら、スポーツバッグから紙袋を取り出した。最初からバッグじゃなくてそっちに入れりゃよかったんじゃねぇの。流川の杜撰さやものぐさに対して呆れたが、口には出さなかった。
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