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    LAlove_Kucheat

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    LAlove_Kucheat

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    本性が判明する前にウォロさんに告白していたショウちゃんの話です。初っ端から振られますがハピエンです。

    初恋は叶わないと言うけれど。ウォロさんに振られた。
    振られたけど。
    あたしの心はとても軽くて、頭もスッキリしていた。

    初めて会った時から、少年のように笑う人だと思っていた。大人のお兄さんなのに無邪気で、自由奔放神出鬼没。それなのに、あたしが弱っている時に支えてくれる。一番欲しい言葉を、たくさんかけてくれる。
    優しくて、暖かくて、透き通る程に美しい、
    本当に綺麗な人。
    ずっと、ずっと、気持ちを伝えたかった。

    別にどうこうなろうと思っていた訳じゃない。ただ、貴方が好きです大好きですと、貴方のおかげでここまで頑張れたんですと伝えたかった。
    プレート集めの途中、誰もいない草原に二人で並んで座っていた。ポケモンも周辺には居ない。心臓がバクバクとうるさいくらいに鳴って、喉が張り付くほどに喉が渇く感覚がした。極度の緊張。けれど、今を逃せばきっと伝えられないと思った。
    大きく息を吸って、吐いて。
    瞳に彼だけを映して。
    ウォロさんに、好きですと告白した。

    ウォロさんは一瞬、驚いたように目を丸くしたけれど、すぐにいつもの笑顔を浮かべた。
    「アナタにそんな風に思っていただけるとは!光栄ですねぇ。」
    そうにこやかに言ったウォロさんは、「ですが」と言葉を続けて、今度は眉を下げた慈しむような表情であたしを見た。
    「ジブンは、アナタが思っているほどいい男ではありませんよ。……どうか、生涯の伴侶には、もっといい男を選んでくださいね。」
    そう言って軽くあたしの頭の上に手を乗せて、優しく撫でてくれた。

    振られたけれど、悲しいだとか悔しいだとかよりも、嬉しいが勝った。あたしの初恋の人は、振るときでさえもこんなに優しい言葉をかけてくれるのかと思ったら、目頭が熱くなった。素敵な人だと、改めて強く強く思った。
    あたしの初恋は、実を結ぶことは無かったけど。思い出のアルバムには淡くて優しい記憶が詰まっている。……だから、実らなくてもいい。初恋の人が、あの人で良かった。とても素敵な思い出を、どうもありがとう。
    ウォロさんを好きになれて、ウォロさんに振ってもらえて良かった!


    ウォロさん、あたしの、初恋の人。
    優しくて、笑顔が素敵で、穏やかで、それで、

    ───なら、今、目の前にいるのは?


    ずっと、ずっと、騙されていた。
    優しくて穏やかで無邪気で暖かい人だと思っていた初恋の人は、神ですら手中に収めようとする野心の持ち主だった。
    自身のルーツを探していると言っていた。
    身に流れる血を、
    自身の優位性として示していた。
    血筋に強く拘り囚われている人。
    心優しい人に懐くポケモンを連れているのに、独りだと言い続ける人。

    あたしの初恋の人。

    まるで別人のような本性を隠していた人。
    あたしが心惹かれた人とは、全然違うのに、
    騙されていたと知っても、本性を知っても嫌いになれない。なれるわけが、ない。

    深い深い海の底で、息をしているような人だと思った。海藻に手足を縛られ身動きが取れない状況、海藻には重い石が乗せられていて、退かすことも動くことも出来ない。
    そんな風に、見えた。

    きっと、人間くさい人なのだ。
    あたしが本当に憎たらしくて嫌いなら、追放されたあの時も見捨ててしまえばいい。あの状況では、仕方ないで済むのだから。
    決戦の時もそうだ。いくらだって少し卑怯な手を使えばこんな小娘簡単に潰せてしまえたのに。そんな手で勝つことは自分のプライドが許さないから、正々堂々勝負を挑んできたんだ。
    ───真っ直ぐで、気高くて、誇り高き人。

    決して『悪人』では無い。
    純粋なんだ。純粋だったんだ。
    歪んでしまったけれど、彼の始まりは、きっと明るい感情だったんだ。
    卑怯な手を使ってあたしを始末するほど悪人にはなれない。けれど、あたしの全てを許せるほど聖人にもなれない。
    神に選ばれない事実に何故と泣けるほど子供にはなれない。泣きじゃけるほど子供にはなれない。けれど、それに諦めがつくほど大人にもなれない。
    アンバランスな人なんだ、と思う。悪人みたいな野望を持っているのに純粋で、あれだけ大きな身体をしているのに子供のようで。
    それがひどく、人間らしく見えた。

    あぁ、あたしはこの人が好きだ、って。
    心の底からそう思った。

    あたしは裏切られたその日に、本当の彼に、
    また恋をした。



    それから、月日は流れて。

    今、あたしの隣には、ウォロさんが居る。
    文句ばかり言いながら、あの頃の笑顔なんて露ほども感じない無愛想な表情で、それでも同じ家に帰ってきてくれる。

    「『ジブンはアナタが思っているほどいい男ではありませんよ。どうか生涯の伴侶にはもっといい男を選んでくださいね』……」

    「いつまで言ってるんですか、それ。もういいでしょう、結局アナタに捕まってやったんですから」

    ぽそりと呟いたあたしの言葉を拾って、本を読んでいたウォロさんが目線をこちらに向ける。パタリと本を閉じる音が聞こえた。邪魔しちゃったかな。……と、思ったらグイッと肩を引き寄せられた。珍しい、と思いつつ嬉しいのでそのまま彼の体に寄りかかる。
    〝捕まってやった〟
    確かに彼の言葉は正しい。あの決戦の後、一方的に別れを告げた彼を探し出して、村に戻ってきて欲しいと懇願したのはあたしだ。…けど、意外なことに商会で借りている宿舎に寝泊まりしていた彼が、あたしの宿舎に寝泊まりすることになったのは彼自身の願いだった。この時代に男女が同じ家に住むことは、その相手と添い遂げるのだと判断される。彼はそれを承知の上で、同居を提案してくれた。提案というか、大荷物を持って来たなと思ってたら、そのまま住み着いたという感じだったけれど。

    「…ふふっ……そうですね。やっと捕まってくれましたもんねぇ。『ここまでワタクシの心を乱した責任、取ってくださいよ。ワタクシと夫婦に
    「忘れろ!いいですか、アレは一応、オマエも女性ですから、少しくらいは夢を見せてやろうと思って施してやっただけです。」

    あの日の求婚の言葉が忘れられなくて、復唱してしまう。あれから三ヶ月は経ったというのに、未だに実感が無くて、けれど昨日の事のようにあの時の緊張感も感情も声も、全部全部覚えてる。嬉しくて、信じられなくて、思い出す度にぽーっとしてしまう。その度あたしは、ウォロさんに『だらしない顔』だとか『しゃきっとしろ』だとか怒られる。それすら幸せだと感じてしまうのだから、もう、救えない。
    とにかくウォロさんがあたしの傍に居てくれるのが、嬉しくて幸せだ。ウォロさんはあたしが彼の心を乱したと言っていたけれど、あたしだって、彼と同じかそれ以上に心を揺さぶられているのだ。

    「……聞いてませんね、その顔は。何度も言ってますが、研究対象の一つであるアナタが他の男に奪われるのが癪だっただけですからね。ワタクシは己の好奇心に従ったに過ぎない!アナタを近くに置いておくには、夫婦になるのが一番選びやすく且つ確実だっただけ。つまりはワタクシにとって、結婚とは研究対象を手放さないためのただの手段。そこにアナタへの特別な感情何てものは全然!これっぽっちもありませんから」

    勘違いしないように、と付け加えて、ウォロさんは言葉を区切る。……と思ったら、聞き取れないけどブツブツ何か文句を言っているみたい。要は『全然お前に愛情なんて無い』と言うような内容の言葉だったけど、それが照れ隠しな事を、あたしはよく知っている。興味のあること以外には意外と静かなウォロさんが、こうして早口で捲し立てるように喋るのも、あたしから顔を背けて絶対に目が合わないようにするのも…いつだって、彼は図星を突かれた時や羞恥を感じた時にそうする。だから、照れ隠し。
    最初は全然分からなかったけれど、今は少し、彼の感情が分かるようになった。今だって髪の間から覗く耳が、真っ赤に染まっていることに気づいてる。あたしが調査隊として成長したことで、人の感情の変化を読み取れるようになったのか。……それとも、少しは好意を持ってくれてるのかな、なんて自惚れかな。

    「気持ちがなくても、何でもいいですよ。愛の反対は無関心って言うでしょう。あたしが貴方の好奇心の対象であるならば……嫌いでも、関心を寄せてくれているなら、それでいい。
    興味が無くなるまででいい。
    貴方と一緒いられること、夫婦になれること……。こんな夢みたいなこと、今だって信じられない。……ありがとう。
    ……愛してますよ、ウォロさん。」

    ウォロさんがどれほど照れ隠しのような態度で居ても。夫婦という関係になれるとしても。
    あたしはそれに溺れることは出来ない。もちろん嬉しくて、とても幸せだ。……だけど、怖い。ウォロさんのことは大好きだ。愛してる。けれど、骨の髄まで信用しきって、ボロ雑巾のように捨てられるのが怖い。そんなことはしないと信じたい、仮に捨てられたとして酷い捨て方はしない。そういう人じゃないと分かってる。なのに、怖い。自分のこういう所が、嫌いだ。大好きなのに信じられない。幸せを掴むのが怖い。弱い自分が憎たらしくて、大嫌いだ。

    ……笑っていたつもりだけど、顔に何か出ていたのか、ウォロさんは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。それから暫く黙りこくっていたけれど、小さくため息をついたかと思ったら、そっとあたしの手を握ってきた。

    ───あたしの手を握ってきた!?!?

    「……今すぐ信じろとは言いませんがね。好奇心の対象として、アナタに関心を寄せているのは事実です。……ですが、嫌いなんて言っていないでしょう。今まで、一度たりとも。」

    両手で包むように優しく握られているあたしの手。大きな掌から伝わる体温が心地良い。
    白磁器のような指が、あたしの手の甲を撫でる。そのまま包み込まれて、触れ合ったまま少しだけ両手が持ち上げられる。
    動く手を目で追っていると、バチッとウォロさんと目が合った。……一拍置いて、ウォロさんは静かに言葉を紡ぐ。

    「今は信じなくていい。けれど、夜毎に見る夢だなんて、そんなもので片付けるなよ。祝言の日は刻一刻と近づいているんです。アナタはそのことだけ考えていればいい。ワタクシと夫婦になることは紛れもない“現実”なのだと、その身に、その記憶に、焼き付けろ。」

    手を握ったまま、ウォロさんはそんな言葉を言い放った。たまに口調が荒くなるそれは、きっと、彼の本心だ。胸も目頭も喉も、燃えるように熱い。流れ出しそうになる涙を必死に堰き止めて、潤む目でウォロさんを見る。
    滲む視界に映る彼は、顔を背けて、少し何かを考えているように見えた。
    そうして暫く逡巡しているなと思ったら、握る手の力が少しだけ強くなった。覚悟を決めたのか、今まで頑として見せなかったのに、真っ赤な顔でも目を合わせてくれた。
    握られた手は、さっきよりも高い熱を感知していた。

    「『特別な感情なんてこれっぽっちも無い』とは言いましたけど。……本当にそうなら、求婚なんて、しない…!」

    あたしを真っ直ぐに射抜く銀色の瞳が、キラリと光った気がして。
    ───ウォロさんの唇が薄く開かれる。

    「ショウさん、」

    「あい、してます、よ。」

    その言葉を聞いたら、もうダメだった。
    耳に入ってきた途端に反射のように涙が流れる。頭で理解したらもっとダメで、ボロボロとこぼれる涙で畳はどんどん色が変わっていく。気道が首の後ろに張り付くんじゃないかってぐらい熱くて痛い喉からは、言葉らしい言葉なんて出てこなくて、ただ意味の無い呻き声をあげることしか出来ない。
    プライドの高い彼が呟いた、舌っ足らずな少年のような。不慣れな愛の言葉が、こんなにも嬉しくて。

    「なっ……何故泣く!!」

    上擦った彼の声が聞こえる。どんな表情をしているかは、滲んで見えないけど…困っているような気がする。暖かい手はあたしの両手から離れて、あたしの肩や背中を軽くさすって、そして離れてを繰り返している。
    何がいけなかったんだ……と自問するような声が聞こえて、泣いている場合じゃないと自分に喝を入れる。感謝を何とか伝えたくて、声を絞り出す。

    「ちがっ…うれっ、うれし、くて……っ……!
    あたしのこと、嫌いじゃ……っ、ないのかな、とか……!すこ、しはっ、きょうみ……あるかなって、おもってた……けどっ……!!」

    しゃくりあげながら喋るあたしの話を、ウォロさんは黙って聞いていてくれた。背中を優しく摩られる感覚が伝う。……あぁ、本当に、優しいなぁ。

    「ひぐっ……言葉で、言われるのは……!ちが、う……っ!うれしい……うれしいよぉ……うぉろさん、うれしい……うれし、くてっ……」

    遂にわんわん子供みたいに泣いてしまった。
    小さい子みたいにわあわあ言いながら、意味の無い泣き声をあげる。止めたいのに体が言うことを聞いてくれない。恥ずかしいのに、嬉しくて幸せで、抱えきれなくて全部涙として流れてしまう。
    ───潤む視界の端に、揺れる金糸が映って、
    それからあたしの体は、暖かい体温で包まれた。肩口が濡れてしまうことも気にせず、ウォロさんはあたしの体を抱きしめる。びっくりして一瞬涙が引っ込んで、え、と声をあげると、更に腕の力が強くなった。そのままとん、とんと一定のリズムで背中を軽く叩かれる。それが心地よくて、安心感がジワジワと身体中に広がっていった。

    そのうち涙は治まって、ちゃんと喋れるようになった。まだ喉は痛むけれど、これならもう大丈夫そうだ。

    「ごめんなさい……ありがとうございます」

    大泣きしたことが恥ずかしくて、お礼を告げて体を離そうとする……が、ビクともしない。あの、ウォロさん、なんて声をかけるけど、応答は無し。あたしが泣いているのを黙って聞いていてくれたのはとてもありがたいけれど、今何も言われないのはちょっとだけ怖い。どうしたんだろう。顔も見えないから、何を思っているのか全然分からない。

    「……アナタの、泣き顔は、嗜虐心がそそられるので好ましいですが」

    喋ってくれたと思ったらとんでもないことを言い出した。身の危険を感じるからやっぱり逃げたいんだけれど、体格差がありすぎて全然動かせない。
    あたしが身動ぎしたからか、ウォロさんはちょっと力を緩めてくれた。そしてさっきの言葉よりずっと静かな声で続ける。

    「悲しい顔や、不安そうな瞳は、見たいとは思いませんから。……今後は、もう少しくらいは、優しくしてやりますよ。
    ……大切に、してやります。
    アナタのことが、好きなので。」

    そう言ってウォロさんはあたしの髪を梳く。
    つまりそれって、あんなに照れ屋さんで、普段はツンツンしてるウォロさんが、好きだとか愛してるだとか、そういうのを言ってくれるってことだ。
    予想を遥かに超える程、ウォロさんはあたしを愛してくれている。それがビシバシ伝わってくる。あの日。黒曜の原野で振られたあの日には、こんな未来が待っているなんて想像も出来なかった。ウォロさんに好いてもらえるなんて、あの時は思いもしなかったのに。

    「あたしも、大好きですよ、ウォロさん」

    そう言葉を返すと、ウォロさんは抱きしめていた腕を解いて、大きな掌をあたしの頬に添えた。キュッと目を瞑り、唇に触れる柔らかな感触に集中する。何度も、何度も、食むように口付けされる度、ウォロさんの愛が深く身体に流れ込んでくるような感覚を覚える。
    多幸感に浸りながら、あたしは愛しい人に全てを委ねた。
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