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    kinakonakonaki

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    kinakonakonaki

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    夏の終わりに商店街の人達と交流する📿
    ・カプなし
    ・エセ名古屋弁
    📿とモブしかでないです
    勿体無いのでここで上げておく

    名古屋の夏は蝉も鳴かない「暑ッ…」

    まだ午前中だというのに、じりじりと肌を焼く太陽に、空却は思わず声が漏れた。わざわざ外出するほどの用事はないが、ようやく盆の忙しさを乗り切ったのに、父親に仕事を頼まれては堪らないと寺を抜け出してきたのである。

    馴染んだ商店街に向かい、日陰を確保する。店の並びを眺めながら、何をしようかと足を進めていると、食欲をそそる香りがした。

    「お、生臭坊主!来たな!」
    「おっちゃん!唐揚げくれ!」

    空却のお気に入りの唐揚げ専門店だ。ここ暫く精進料理続きだったこともあり、迷うことなく注文する。大ぶりの唐揚げが揚がるのをわくわくと眺める空却に、店主は機嫌良く笑った。

    「今年は特に暑うて大変だったな〜」
    「おう、えらかったわ…」
    「お疲れさん、ひとつおまけしといたる」
    「!!おっちゃん最高!ありがたくいただくわ」

    山盛りの唐揚げに口角をあげる。代金を支払い、唐揚げを受け取ると空却は再び歩き始めた。

    「うめぇ〜」

    狐色の衣にかぶりつけば、サクサクとした食感と肉汁が口の中に広がる。揚げたての熱さを堪能しながら食べ進めれば、柔らかいもも肉の食感と馴染んだスパイスの香りが口と鼻に広がり、求めていた味に気分が上向いた。

    唐揚げをぺろりと食べ終え、歩いていると大きな荷物を抱えてフラフラ歩く年配の女性を見かけた。

    「ん?おー、ワタベのばぁさん!重そうだな」
    「あらあ、くぅちゃん?ちょっとねぇ、買いすぎてまって…あららら!!」

    ぐらり、と体が傾くのを見て空却はすぐ手を伸ばして支える。そしてパンパンに詰められたエコバッグ2つをひょいと持ち上げた。

    「こんなんであの階段上がれんだろ、無理せんで」

    彼女は空厳寺の檀家で、商店街で酒屋をやっている。空却の小さい頃はもちろん、空却の父である灼空の幼少期も知っているほどの高齢にも関わらず、未だ現役だ。

    「ありがとねぇ、孫呼ぼうかと思ったけど携帯忘れてまって」
    「家にちゃんとあっかあ?着いたらちゃんと確認しておけな」

    彼女の歩く速度に合わせながら酒屋兼自宅を目指す。それほど距離は遠くないがこの荷物の量は彼女1人では無理だっただろう。
    15分ほど歩いたところで目的の場所に着いた。居住エリアは2階だ。空却自身、何度かお邪魔したことはあるので、慣れたように狭く急な階段を上った。彼女が鍵を開け、ドアを抑える。一言断ってから玄関に上がり、入り口付近の和室にバッグを置いた。

    「ここに置いとくでな」
    「助かったわあ…これ、お礼ね。くぅちゃん瓶のコーラ好きだがね?」
    「ええの!サンキュー!」

    唐揚げを食べた後ということもあり、ちょうど飲み物を欲していたところだ。冷蔵庫から出したばかりのキンキンに冷えたそれを受け取り、手を合わせた。

    「あー!うみゃー!」
    「ふふ、飲み終わったら裏にあるケースに入れておいて」
    「おう!あ、携帯あったか?」
    「あったわ〜ありがとう」

    BATのステッカーでデコられたスマートフォンをこちらに見せてくる。ストラップはアルゴξ楽団のグッズだ。

    ───そういや、ばぁさんの孫ってアルゴのファンだったな

    80歳にしてファンキーな状態になっているスマートフォンにイカしてんな、と言うと、彼女はBATのハンドサインを返して来る。思わず空却は吹き出した後、最高なファンの応援にハンドサインを返しその場を後にした。

    古着屋、雑貨、気ままに顔を出しては知り合いと会話をする。空却にとっては、商店街ごと身内のようなものだ。お節介で温かなこの街を空却は気に入っている。



    商店街を巡ること約1時間。
    空却は男達の首根っこを掴みながら彼らを睨みつけていた。

    「で?言い訳は?」
    「うう…すんません…」

    みたらし団子でも食べるかと向かった先。怒号と何かが壊れる音が聞こえたため、空却が様子を見にきたところ、酔っ払って暴れる男達が視界に飛び込んできた。
    相手が誰か分かってないのか、チビだの生意気だの絡みに絡みまくり、マイクではなく殴りかかって来たのだが、素人のパンチなど空却に当たるはずもない。あっさり回避し、最低限の応戦で力の差を見せつけて大人しくさせた。
    彼らの纏う酒の匂いに顔を顰めた後、全員が正気に戻ったのを確認し、解放する。

    「煩悩に塗れし者は酒に溺れるってな!拙僧が修行つけてその煩悩ごとぶっ飛ばしてやろうか?」
    「「え、遠慮しときます!」」

    大学生くらいの集団は、相手がナゴヤディビジョンのリーダーであることにようやく気づいたらしく、おとなしく肩を落としていた。

    「しっかし派手にやったなぁ」

    転がっている椅子、汚れたテーブルに酒の缶で溢れたゴミ箱を見て、空却が言う。食べ歩きができるよう、商店街には外にイートインスペースを設けているところが多い。この店では酒は提供していないはずだが、散らばった空き缶を見る限り、どうやら近くのコンビニで酒を調達し、勝手に酒盛りを始めたらしかった。

    「ったく、ちゃんと元に戻せ!拙僧も手伝ってやっから!おばちゃん!布巾とゴミ袋、あと…あー掃除用具一式借りてえーか?」
    「ありがとう、くぅちゃん。アンタ3丁目のデカい家の息子でしょ!ちゃんと元に戻さな父ちゃんに言うでよ!」
    「ひえ、すぐに片付けます!!」

    掃除用具やゴミ袋を一人ひとりに渡し、指示をしていく空却。これほどの惨状は流石にないが、伊達に毎日掃除はさせられていない、手際よく進めながら、モタモタしている者には時に蹴りを繰り出しながら片付けていった。

    「もうすんなよ」
    「はいぃ!!」

    空却より大きな体を縮ませ、彼らは答える。使う前より綺麗になったイートインスペースに満足した店主により許された学生達は、自分たちの出したゴミを片手に彼らはその場を去っていった。

    「んじゃ拙僧もそろそろ行っから」
    「ほんと助かったわぁ、今度食べに来る時サービスしてあげるでよ」
    「おー!楽しみにしとくわ!」

    軽く手を上げ、空却もそこを離れる。少しだけ日が傾いたとはいえまだまだ暑い。額に滲む汗を手の甲で拭い、団子屋の方へ足を進めた。
    目的地に辿り着いた空却は、早速店の入り口を覗き込む。

    「じいさん!団子5つ!」
    「はいはい…ああ、赤坊主か。灼空さんの用事は済んだのか?」
    「うるせー、今日は休みなんだわ」
    「はッ、どうせ勝手に抜け出したんやろう」

    団子を器用に炙りながら、団子屋はくくっと低く笑う。慣れた手つきでタレを足し、くるくると串を回していく様子を空却は眺めていた。少し離れた空却でも、団子を炙る火の熱風を感じる。

    「あっちぃな、真夏な上に一日中火扱ってんの大変だろ、ぶっ倒れんなよ」
    「んなヤワじゃにゃあ」
    「怖ぇんだぞ、熱中症てのは。ジジババは軽くみやがるかんな」
    「へー、へー、ちゃんと水飲んで休んどるで大丈夫だがや」

    ほれ、団子ができたぞと指で示される。ちょうどの金額を渡し、それらを受け取った。

    「気をつけなかん、じいさんの経は拙僧が立派な坊さんになってから読んだるからよ」
    「はー、そりゃあ長生きしんとな。何十年かかるか…」
    「ひゃひゃひゃ!そーそー、簡単にくたばんなや!」

    軽口を叩きながら団子に頬張る。柔らかく舌触りのいい小ぶりな団子は香ばしく相変わらず美味しい。ぺろりと1本食べ、2本目に食いつく。

    「こんにちは、お団子1つお願い…ん?空却くんじゃない」
    「あ、おばさん。どーも」

    空却が振り向くと、元同級生の母親がいた。元同級生といっても特別仲が良いわけではなかったが、以前近所の祠にイタズラして祟られ、祓ってやったことがきっかけでよく話すようになった。

    「毎日暑くてしんどいねぇ〜、空却くん体壊してない?」
    「まーなぁ、親父のしごきで鍛えられてるもんで」

    ひゃははと笑いながら空却は4本目の団子を食べ始めた。

    団子を食べ終えた空却は伸びをしたあと、次はどうするかと腕を組む。あと1時間くらい時間をつぶせば、父親が出かける頃なため、納骨堂あたりで昼寝にちょうどいいのだが。

    そんなことを考えていると、バタバタと忙しない足音がこちらに向かって来た。

    「あー!くーこーくんいた!!」
    「くーちゃんたすけてーー!」
    「…あ?お前ら…ぐあっ!」

    空却の尻や太ももに突撃して来たのは、檀家の子供達だ。なんだなんだとしゃがんで顔の高さを合わせる。

    「しゅくだい!」
    「は?」
    「しゅくだいてつだって!」
    「はあああ〜〜〜お前らまたかよ!」

    がくりと肩を落とす。どうやら自由時間は終わりらしい。グイグイと腕や服を引っ張る子供達を見てガシガシと頭を掻いた。

    毎年、夏休みの終わりになると空却に宿題を手伝ってもらおうと子供達が集まってくるのである。それは空却がブクロから帰って来た年に始まり、夏と冬の休みの恒例行事となっていた。特に夏は人数も増える。

    「5人か?」
    「んーん!あと3にん、しゃっくうさんのとこにさきにいってる!」
    「仕方ねぇな!ったく!んじゃ寺に帰るぞ!」
    「わーい!」
    「くーこーくんすきー!」
    「くぅちゃんさいこー!」

    手を繋いだり服の裾を掴んだり、きゃらきゃらとはしゃぐ子供達を見下ろしながら、空却は目を細める。とりあえず電話で十四を呼び出してこちらの戦力に加えて、獄にはアイスキャンディーでも買って来て貰うかと考えながら、帰路につくのだった。

    【END】
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