名古屋の夏は蝉も鳴かない「暑ッ…」
まだ午前中だというのに、じりじりと肌を焼く太陽に、空却は思わず声が漏れた。わざわざ外出するほどの用事はないが、ようやく盆の忙しさを乗り切ったのに、父親に仕事を頼まれては堪らないと寺を抜け出してきたのである。
馴染んだ商店街に向かい、日陰を確保する。店の並びを眺めながら、何をしようかと足を進めていると、食欲をそそる香りがした。
「お、生臭坊主!来たな!」
「おっちゃん!唐揚げくれ!」
空却のお気に入りの唐揚げ専門店だ。ここ暫く精進料理続きだったこともあり、迷うことなく注文する。大ぶりの唐揚げが揚がるのをわくわくと眺める空却に、店主は機嫌良く笑った。
「今年は特に暑うて大変だったな〜」
「おう、えらかったわ…」
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