冷めた珈琲の味は、覚えてない閉店30分前、普段はそこそこ客が居るカフェも、数分前に一組が帰って僕一人になった。
密かに特等席と呼んでいるカウンターの端の席。その日も、よく注文するオリジナル珈琲をお供に、求人誌と睨めっこをしていた。
他のテーブルを片付けるのを眺めて、そろそろ出なきゃなぁ、って考えながら雑誌に視線を落とせば隅の方で手がヒラヒラ。見慣れた白くて細い指。
顔を上げればよく会話をしてくれる店主が居た。
ゆっくり動く口から鋭い歯が覗いて、一瞬目を奪われる。
それから口全体に目を移して、その動きを読む。なんとなく言われそうな事は分かる。
「また、それ見てるんだね」
ほら。少し気まずくて、つい苦笑い。
「前、決めた所、良くなかったのかい?」
1901