valentine day Kisses お互いの家に泊まり合って半分同棲のような関係になり、夜な夜なオクタビオがふざけておかしな服を着て見せて俺を驚かせ、色んな意味でイライラさせられる事にも慣れた頃にふと目に留まったネットの広告。
たまには俺からも驚かせてみようと二人分のメンズサイズを頼んでから取り寄せの知らせが届くまでの数日間は妙に落ち着かなかった。
一応サプライズで、その日は恋人に贈り物をするのが世間では通例らしいのもあって、受け取りは自宅でなく近くのストアに指定し、試合後いつもなら2人で帰ることも当たり前だったのがファンサービスに忙しそうな背中を尻目にそそくさとシップを後にする。
一度も立ち寄ったことなどない、女性客やカップルの多いショップは入る事すら躊躇われる。受け取るだけだと足早にカウンターへ進んだ。
「こちらで間違いありませんか?」
「ありがとう」
選んだのは着心地重視の、今の時期に丁度いい柔らかく暖かなルームウェアだ。ちょっとした悪戯心でフードにウサギの耳があしらわれているが、ごくシンプルな真っ白い上下のセット。オクタビオのセットは、メンズデザインにショートサイズがなかったのでそれだけレディスのショートパンツに。それには小さな尻尾もデザインされている。着た姿を想像しても間違いなく似合うと確信していた。それを女性的なデザインの箱とショッピングバッグにラッピングされて、ご丁寧に赤いリボンまであしらわれていてあまりに自分に不似合いな見た目に胸がざわつく。
家に届かないのはいいが、これを出先で受け取るのもリスキーだと感じた。
らしくないとわかっているが、誰に見られているか常に気にする性分が災いしている。
店内の女性客や店員から刺さるような視線を背中に感じながら帰宅して、その梱包を解いて脱衣所に置いておくか、もしくはそのまま箱ごと渡そうかで相当悩みながら風呂をピカピカに磨き上げ汗だくになった。
「ただいまーーーーークリプトー??」
ドアが当たり前のように開き独特の義足の音で恋人の帰宅に慌てて平静を装って顔を出す。
「おかえり」
「なんで黙って先帰ったんだよー」
ファンからのプレゼントらしき紙袋を何個もソファの脇に置きながら寝そべるように腰掛けた。
「〜、づがれだ」
「今丁度風呂を洗ったところだ 入るか」
「入る、」
特に不審がられてないようだが、俺に興味がないようにも見える。
端末で給湯の設定をして、オクタビオの傍らに腰掛けると、ゴロリと膝の上に頭をもたれかけてサングラスを外す仕草が愛らしい。
長いことファンの対応をしていたのか、複数の甘い香りが鼻をつく。早く洗い流してやりたいと独占欲が疼く。
無防備に投げ出された身体をまじまじと爪先から目元まで眺め回し、試合後のシャワーで解けたセットがラフな短髪を指で梳きながら耳の後ろをそっと擽ると、
「んんふ」
くすぐったそうに含み笑いをして顔を俺の腹に擦り付けて抱きついてくる。
「クリプト汗かいてる 何してたんだ?」
すんすん、と匂いを嗅がれてくすぐったい。
くぐもった声に「掃除だよ」と知らぬふりで答えて、
「だから風呂にしよう」
「んー?うん」
腹部を唇で食むようにキスをされ、期待で腰回りに熱が集まるのを感じながら、オクタビオの腿へ手を伸ばし義足を片脚ずつ外して立て掛けると、慣れたように上半身を起こして俺の首に腕を絡めてしがみつく。
絡んだ視線をさらに強く引き寄せるように何度か軽いキスを交わすと、そのまま抱き上げてバスルームへ向かった。
─────────
浴室で存分に睦み合って、…なんなら一度や二度はセックスもしてすっかり盛り上がったタイミングで上せそうに全身が真っ赤に染まったオクタビオを抱き上げて寝室へ運び、広げたバスタオルの上へ寝かせてやる。
「ふぅん…」
幾度かの浴室での情事ですっかり出来上がってしまったオクタビオは、トロンとあまったれた瞼が定まらない視点で俺を探している。既に外も中も敏感に育ち、僅かにピクピクと身体を震わせる様は何度達しても直ぐにまた熱を持たせる威力がある。
思わずギシリとベッドを軋ませて覆いかぶさるように四つ這いになると、
「てじゅん…」
あまく蕩けた声で股を拡げて続きをせがむ姿に、股間は勝手に臨戦体制を取っている。
だが今日はそうはいかない。本当ならすぐにでも再び中へ入りたい衝動をなんとかギリギリのところで抑えて
「待、ちょっと待ってろ」
慌ててベッドから降りて、クロゼットへしまっていた紙袋をバタバタと取り出して来た。
「なんだぁ?それ…」
身体を投げ出して横になりながら、俺の見慣れない汗ばんだ緊張の面持ちをきょとんとしながら見ている。
「あ…その、何というか…ちょっと買ってきたんだが」
「???」
まるでわからないという顔でくったりしている。もっとシラフの時渡すべきだったか、しかし笑い者にされるかも、などとぐるぐる考えていると
「開けてくれよ」
快楽の余韻なのか、にへっと笑いながら、俺いま力入らないから、頼むよと言われ慌てて箱を開ける。
「何?服?」
「ああ」
「へえーめずらし」
そう言うのも無理はない。贈り物なんてしたことが無かった。笑わせれば満足だと冗談半分のつもりが、いつの間にか本気のプレゼントになってしまっているようでこっちがのぼせそうになっている。
嬉しそうに微笑む笑顔がとてつもなく可愛い。我慢の限界が近い。
「そろそろ身体が冷えるだろう。部屋着だから着ないか?」
「ん」
オクタビオはのそりと起き上がり、バンザイをして『着せろ』のポーズをする。可愛くて押し倒してメチャクチャにしたいが、どうにか堪えて着せてやる。俺のものよりひと回り小さいサイズでも少し緩めに見える。アスリート体型とは言えやはり細いなと改めて思う。
真っ白でふわふわした生地にピンクに火照った肌がより引き立つ。
白にして良かったと心底思った。
上下揃えで買ったものの、お尻の下まで丈が充分に足りたデザインだったので下心もあって下は履かせなかった。裾から白い腿とところどころ赤みの差す断端へと短く途切れた姿はひどく扇状的だ。
俺のとは違い袖のないデザインもよく似合っている。つるりとした脇は赤くて、食欲すらそそる。
フードまですっぽり被せてやると暖かそうに目を細めて「きもちい、サンキュ」と小さく囁く。
おもむろにボトムスを穿き、上も手早く袖を通している俺に、
「お前のもあるの?もしかしておそろ?」
「ああ」
俺の顔を見てオクタビオが目を見開く。
「待ってそのフード被って」
赤面しているのが自分でもわかる。頰が熱くなりながら被ってみせると、自分にも生えているウサギの耳を揺らしながらケラケラ嬉しそうに笑った。
「お前これ、やべーw買ったの?やべえw」
「あまり深く聞くな…店で受け取るのがどんなに恥ずかしかったか…」
オクタビオはがばっと起き上がり、フードごと俺の襟を掴んで引き寄せ、短い腿で腰を挟み込んだ。
「きょーさ、バレンタインだからファンいつもより多くて…遅くなっちまったからお前、怒って帰ったのかと思ってた」
俺は目を見開き首を振った。
「そんな事思ってない、俺は俺で…今日の事で忙しくしていた」
クククっ、と肩を震わせて笑うオクタビオも耳や頬が再び赤くなっていくのがわかる。
「お前のファンもすげーいたし、待ってたんだぜ。可哀想に」
「思ってもない事を言うな」
にたりと笑っていた目がギュッと閉じられて、ついに噴き出してゲラゲラ笑うオクタビオに、
「お前は優しいが俺はそうでもないからな」
「その本心、他所では言うなよ?」
釘を刺すオクタビオこそ、思ってもないことを言っている。
オクタビオによって狂ってしまった俺の心は、もう他の誰かに絡め取られることはないだろう。こんな恥ずかしいことまでさせてしまう目の前の小悪魔は、兎の耳もよく似合って悪戯っぽく笑う姿に目が離せない。
じっと見下ろしていると、オクタビオがやや不満気な眉を寄せて色っぽく睨みながら
「いつまで待たせんだよバーカ」
言葉尻を自分で掻き消すように、首に回した腕を引き寄せて、キスをした。
もう何もかも食べ尽くしたいほど甘いキスの合間に、
「バレンタインプレゼント、嬉しいぜ」
オクタビオの紳士な礼の言葉を聞いても、もう冷静ではいられない俺がいた。