未定「お? 意外なプレゼントだな、アミーゴ」
女性客の多い人気店。昨日フラフラ立ち寄ったそこで調合して貰った、世界に一つしかない香りがシンプルな瓶に注がれる。
箱に入れて綺麗にラッピングしてもらったそれを、試合後ブースを訪ねオクタンに贈った。突然のプレゼントにも不審がられなかったのは、最近香水の話をしたおかげだろう。
「これってSNSで見たことあるぜ。『世界にただ一つの貴方だけの香りを』ってヤツだろ?……アンタ香水とかつけるのか?」
「お前に影響されて、たまたま寄ってみたんだ」
自分用……というより、贈り物目的だったが、オクタンのイメージを説明するのは気恥ずかしく、自分には場違いに思えた空間から一刻も早く脱出したくなった。自分をイメージした香りを調合して欲しいと伝え、調香師と相談──と言っても相槌を打つくらいだが、好きな香りか嫌いか選別しながら調合してもらった。一瓶だけ。
自分用と言っておきながらラッピングして貰ったのだから、俺はプルタッを食べた時のように顔が熱くなり汗が滲んだ。気を利かせた調香師に「恋人にご自分の香りを贈られる方も少なくありませんよ」なんて小声で言われて、洒落た紙袋を受け取る手まで汗で湿る。
「自分のを作ったついでだ。迷惑だったか?」
「まさか! で、アンタの香水は? 今つけてねえよな? どんなのにしたんだ?」
「俺のは、……調香師に任せて作ってもらった。無難なのを」
「ふ〜ん……そのうちつけてきてくれよ」
「からかうつもりだろ?」
悪戯っぽくオクタンが笑う。ゴーグルとマスクで表情は見えなくとも、喜んでくれているのが伝わってきて嬉しかった。瓶に詰めた香水は醜い独占欲でも、いい香りが上手く誤魔化してくれるだろう。気づかないまま、この匂いを纏うオクタンを想像して心拍数が上がる。