「スタンリー、ジョンがまた悪戯するんだ」
閑静な住宅街の一角、仔犬を抱えた少年がその家のドアをノックすれば、中なら現れた目鼻立ちの整ったブロンド髪の男性にそう告げた。
「またか。ちゃんとその都度、コイツに言い聞かせてっか?」
両手に抱える程の大きさだが、まだ仔犬の域を出ないラブラドールレトリバーの黒い短めな毛並みの頭をスタンリーと呼ばれた男が撫でれば、仔犬は嬉しそうに尻尾を振っている。
「うん。でも、中々言う事を聞いてくれないんだ」
「まぁ、コイツん場合まだ甘えてんだろう。そんまま、しっかりコマンド使って躾けてやんな」
不安そうにしている少年に、スタンリーはニヤリと笑いかけワシワシと少年の頭を撫でてやっていれば、後ろから別の男性の声が聞こえた。
「おぉ。彼がこの前話してくれていた、散歩友達かい?スタン」
「あぁ、何時もエマん散歩、付き合ってくれんよ」
ひょこりと背後からプラチナブロンドの額に特徴的なヒビがある男が顔を覗かせていた。
急に現れた男に警戒心を露わにした少年は少し怪訝な顔をしながら首を傾げる。
「おじさん、誰?何でスタンリーの家にいるの?」
「おじっ・・・んんっ。僕は、Dr.ゼノ。スタンとはパートナーだからね。この家は彼の家であり、僕の家でもあるんだよ」
少年の言葉に吹き出して笑っているスタンリーの脇を突けば、Sorryと笑いを堪えつつ小さな声で返してくる。
「パートナー?家族なの?スタンリーもゼノも男なのに?」
「お前ん、とーちゃんとかーちゃんと一緒なんよ。たまたま、俺んとっての最愛のヤツがゼノってだけだ。好きんなんのに、男か女かなんざ関係ねぇんよ」
よくわからないと首を傾げる少年にスタンリーは、優しく笑いかけおもむろに指を綺麗にリップが塗られた口へあてピューイと指笛を吹く。
その音に反応して、室内の離れた所からBOW!と鳴き声と共に石の床を駆ける音がし、毛艶が良いゴールデンレトリバーの仔犬が嬉しそうに駆け寄って来た。
「Down」
スタンリーのコマンドにゴールデンレトリバーが即座に反応し伏せをすれば、良く出来たとばかりにワシャワシャと頭を撫でてやる。
「コイツもそろそろ遊びてーみてぇだからよ、ウチん裏庭で一緒に遊んでやってくんねぇか?」
「うん!わかったよ!!」
大人しく伏せをして待つ仔犬とスタンリーを交互に見返し、頬を高揚させながら頷けば抱えていた黒い仔犬を降ろし、裏庭へじゃれ合うようにして二匹と少年が駆けて行った。
裏庭へ消えていく姿を見送れば、思い出したように背後に居たゼノが口を開く。
「君は僕の事をそんな風に思っていたんだね」
「アンタは俺を何だと思ってたんよ?」
心外だとばかりにジト目で見遣れば、何故か待ってましたとばかりの顔をしたゼノと目が合う。
「それは勿論!僕の唯一無二にして幼馴染みで最愛のパートナーさ」
「へーへー、そーかよ」
何処となくこっ恥ずかしさに頭をかきながら煙草に火を点け、誤魔化すように深く吸い込む。
それを見ている言った本人は満足そうに頷きながらスタンリーを肩を叩く。
「あぁ・・・、ゼノ」
思い出したように向き直り正面に親友の顔を見据えれば、どうしたんだい?と首を傾げている姿も愛おしい。
「愛してんよ」
「・・僕もだ。愛してるよ、スタン」
一瞬キョトンとした顔をした親友が嬉しそうにはにかみ、言葉を返してくる。
笑い合いながら軽く唇を合わせれば、名残惜しげに離す。
顔を見合わせ二人で吹き出して笑えば、笑い声が聞こえる裏庭へ足を運んだ。