スタンリー・スナイダーは今、ピンチに陥っていた。
親から最近仲良くなったゼノと二人で行って来いと、移動遊園地のチケットを貰って来たは良いものの、まさかゼノが絶叫系が好きな奴だとは思ってもいなかった。
俺はあのジェットコースターの浮遊感が苦手なのである。
絶対に乗りたくは無い!
そう思いながらも、ウキウキとジェットコースターの方へ向かう自分より低い頭の旋毛を盗み見ながらスタンリーは溜め息を付いた。
だがしかし、楽しそうにしている彼に水を差すのも野暮である。絶対に避けたい。
そんな事を悶々と考えていれば、前を歩くゼノがこちらへ顔を向けてくる。
「おぉ、スタンっ!話には聞いていたが、ここのアトラクションの一つなのだが・・・、聞いているかい?」
「聞いてんよ、センセ。つか、コケんよ。前見てねぇと」
言っている矢先、前方からやって来た大人によってぶつかり、よろけるゼノの身体を咄嗟に支えればビックリした様子の彼と目が合う。
「・・っすまない、助かったよ」
「いーよ、ほら。行くんだろ?」
彼を真っ直ぐ立たせ、背中を軽く押せば思い出したように早足で歩き出す。
「あぁ!見えてきたよっ!スタンっ、あれだっ!!」
ゼノが指差した先には、移動遊園地の規模にしては大分デカすぎるジェットコースターが見えてきた。
ついでに、絶叫する声も。
何とか顔には出さないように澄ましているが、ロリポップを持つ手は汗でベタベタだ。
「さぁ、スタン!早く乗ろう!ん?身長制限?こんな物があるのかい?」
今まで見てきた彼の中で一番年相応に見える顔で駆け出すも、入り口に立て掛けてある看板を前にゼノは足を止めた。
「まぁ、意味ねぇかんね。安全バーがとどかねぇと」
「確かに・・・、人命は優先すべきものだね・・」
そう言いながら、看板に書かれている4フィートの線の所へ立つゼノはこれっぽっちも身長が足りていなかった。コイツの事を小さい小さいと思っていたが、本当に小さかった。
これで、このブツには乗らなくて良いだろうと内心胸を撫で下ろすも、ションモリしているゼノからの一言でギョッとする。
「仕方無い、ルールはルールだ。スタン、僕の分まで楽しんで来ておくれよ」
「っ!!・・や、アンタが乗んねぇのに、俺だけでは乗んねぇよ。別のに乗んぜっ!」
なるべく一緒が良かったと思わせる口振りで何とか乗らなくて良い方向へ誘導する。
一緒でも無理だが、一人は尚更イヤだ。
「そうかい?すまないね、合わせてくれて・・・。ならば、あれに乗ろう!」
そう言って指差した先には、一等デカい観覧車が鎮座している。あれならまぁ、まだ良いか。
「あぁ。良いぜ」
先程とは打って変わって、こちらからゼノの手を掴み先に歩けば、楽しそうな横顔が隣に並ぶ。
「フフッ、君とこうやって遊ぶのも楽しいな!」
「そーだな」
にこやかに笑い合いながら、来年までには絶叫系を克服してやると心に誓うスタンリーであった。