第1話 出会ッチャッタネ、ヒジカタサン②男は何もなかったかのように席に座り、ざるそばを注文した。そして、それから俺の方を一切見ずに、普通の客としてそこにいた。
もしかして、俺が過剰に反応しすぎたのか?生娘でもねェのに。
思えば名前なんて、胸元のプレート見れば分かるし、それにいくらゾッとしたからって、あんな露骨な態度をお客様に取るだなんて失礼だよな。俺はだんだんと申し訳ない気持ちが勝ってきた。
「はい、カウンター5番ね」と、店主から男が頼んだざるそばを渡される。俺はそれを反射的に受け取るが、そのまま突っ立ってしまった。それに、店主は怪訝そうな顔を俺に向ける。そこで、俺は一大決心かのように、店主にある頼み事をしたのだ。
「はい、こちらご注文のざるそばです。あと、これは、その、サービスです。さっきはすいませんでした」
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