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    yae_suehiro88

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    yae_suehiro88

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    現代陰陽師パロ 7.5 その夜、古備前の屋敷の客間には、久しぶりに兄妹が揃っていた。
     重厚な机の向こうに並ぶのは、長兄の鶯丸、次兄の大包平、そして四男の八丁。
     対するは、末っ子の唯子と笹貫、そして三男の信房だ。三人の兄を前にしても怯まぬ唯子に比して、信房と笹貫は何とも言えず気まずげな顔をしている。
    「さて。妙なことになったな」
     湯呑を傾けながら、鶯丸が静かに笑った。
    「久しぶりに顔を見たと思ったら、唯子の式神になったとは。兄と妹に挟まれるなんて、お前は両手に花だな、笹貫」
    「たはは……いやホント、なんて言えばいいか……」
    「鶯兄様。笹貫は唯子の式神ですよ。信兄様と取り合っているわけではありません」
    「ほぉ。自信たっぷりだな」
    「当然です。笹貫は私を選んだのですから」
     ふむ、と顎を引いた鶯丸が、愉快そうに隣を見やる。視線の先で、当主である大包平は、わなわなと肩を震わせていた。
    「くるぞぉ」と八丁が口パクで呟き、耳を覆ったその瞬間、雷鳴のような声が座敷を揺らす。
    「──唯子! お前というやつは! 兄上の式神を横取りするとは何事だ!」
    「横取りじゃありません! 笹貫は唯子が呼んだのです!」
    「なに!?」
     ぎろりと睨まれた信房が、さっと視線を下方に逸らす。信房と唯子の間に座る笹貫はといえば、引き攣った苦笑を浮かべていた。
    「……いや〜……久しぶりだなこの感じ……」
     笹貫のぼやきを掻き消すように、声の大きい兄妹喧嘩はどんどんヒートアップしていく。
    「そもそも! お前が式神を持つこと自体許可していない!」
    「許可なんて必要ありません! 信兄様も八兄様も、私と同じ頃には既に使役しておられました!」
    「こいつらは男でお前は女だ!」
    「まあ! このご時世に、古備前の当主ともあろう兄様が男女差別をなさるんですか!?」
    「っ減らず口を……!」
     畳を打つような大包平の怒声に、唯子も一歩も引かない。すると、
    「まあ待て、落ち着け二人とも」
     髪色に負けず劣らず真っ赤に顔を染めた大包平の肩を、鶯丸がぽんと叩いた。
    「縁とは流れ移るものだ。ほらこの茶葉も、たまたま入った店で買ってみたんだが、これがなかなか──」
    「ええい、茶で例えるな! 話が余計ややこしくなる!」
    「う〜ん、俺は信房の兄さんと唯子がいいならいいと思うけどな〜。ほら、細かいことは流しちゃったほうがいいってこともあるしっ?」
    「簡単に流せるか! だいたい信房! お前はどう考えているんだ!」
    「ん〜……どうって……」
     信房と笹貫が、困ったようにちらりとお互いを見遣った。
     信房が緩く首を傾げると、笹貫が肩を竦める。言葉はなくとも、何かを問い、何かを答えた、そんな仕草だった。
    「──ふふ」
     ふっと息を吐いた信房が、緊張が解けたかのように正座を崩し、胡座をかいて座り直す。
    「まあ、俺も笹貫も、波を掴むのは得意だからさ。このまま乗っても悪くないとは思うんだけど」
    「……なんだと?」
    「ねえ、オオチャン。俺だって試したんだ。百鬼夜行の後、何度も呼び戻そうとした。だけど、ダメだった」
     凪いだ海のように穏やかな声だった。
     しんと部屋が静まり返り、皆の視線が一斉に信房へと集まる。
     信房は、優しく笑って言った。
    「ゆいちゃんが笹貫を呼んで、笹貫がゆいちゃんを選んだ。それが答えだよ」
    「……信房」
    「わかってる。光って待てばいい、なんて言っておいて、迎えに行けなくてごめんね、笹貫。……戻ってきてくれて、ありがとう」
     緩く目を瞬かせた笹貫の手を、唯子の小さな手が掴んだ。
     唯子の瞳はまっすぐに彼を見つめ、それを受け取める笹貫もまた、彼女を──彼女だけを見つめていた。
     鶯丸が、茶をすすりながらしみじみと呟く。
    「結局、縁に逆らうのは、誰にとっても難しいということだ。なぁ、大包平」
     黙り込んだ大包平に、唯子が凛と言った。
    「兄様がなんと言おうとも、唯子は笹貫を離しません」
     その瞳には、誰に似たのか、鋼のように揺るぎない光が宿っていた。
    「……まったく……」
     やがて、大包平がはあっと大きな溜息を吐いた。表情には未だに険しさがあるものの、当主としての鬼のような迫力が引き、代わりに妹を想う兄の面持ちが前に出る。
    「お前は、言い出したら聞かんからな」
     ぽつり。柔らかく響いたその言葉に、唯子はぱっと頬を染め、嬉しそうに笹貫を見上げた。笹貫も、目尻を緩めて頷いている。
    「ただし、唯子。選んだのなら最後まで責任を持て。古備前の名を汚すような真似は、決して許さんぞ」
    「承知しています」
     しゃんと背筋を伸ばし、きっぱりと答える唯子に、信房が眩しそうに目を細める。
    「大丈夫だよ、オオチャン。俺たちは兄妹だろ。どんな波にも結束して立ち向かえるよ」
    「うんうん、それじゃこれにて一件落着〜、ってことで!」
     八丁がぱんっと両手を叩く音を合図に、空気がふわりと和らいだ。笹貫が、唯子の肩に腕を回す。
    「それじゃ、オレは正式に唯子の──」
    「おい。その呼び方と距離の近さは許可していない」
    「兄様! 笹貫をいじめないで」
     がやがやと騒がしい声が客間に重なって、笑い声へと収束していく。
     月も星もない夜を、屋敷の灯りが優しく照らしていた。
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