水着回(ココ×夢主さん)猛暑の続く夏のある日、僕はようやく一週間に渡るハントを終えた。
炎天下での戦いは過酷を極め、獲物を追うために険しい山道を何度も駆け巡り、滝のように汗をかいた。
そんな厳しい日々を耐え抜き、久々に彼女の元へ戻ってきたのだった。
「そういえば君は休みの間、何してたの?」
問いかけると、嬉しそうに笑った。
「友達に誘われて、海に行ってきました」
海。
その単語を聞いた瞬間、脳裏にある疑問が浮かんだ。
(……海ってことは、水着を着たのか?)
その考えを押し殺しながら、いつもと変わらぬ穏やかな口調で続けた。
「へえ、楽しかった?」
「はい!すごく綺麗な海で、景色も最高でしたよ」
そう言いながら彼女はスマホを操作し、何枚かの写真を見せてくれた。
どこまでも澄んだ青い海、真っ白な砂浜、輝く太陽。
……だが、どう見ても海の風景しか映っていない。
「……水着、着なかったの?」
「……え?」
肩がわずかに震えた。
「…………着ましたけど、写真は撮ってないです」
嘘だ。電磁波が揺らいでる。
「本当に?」
「ほ、ほんとです!」
スマホを持つ手が微かに強張るのを、見逃さなかった。
「……ふーん」
そう言いながら自然な動作でスマホを覗き込もうとすると、彼女は慌ててスマホを背中に回して防御してきた。
「……あるんじゃないの、写真」
「ないですってば!」
しばらくの間、攻防戦が繰り広げられる。
しかし僕の手は彼女よりも大きく、動きも素早い。
細い手首を掴んで、優しく力を込めた。
「……観念してくれる?」
「…………」
渋々とスマホを操作し、友達とのメッセージ画面を開く。『この間の水着、可愛かったよ!写真送るね!』の文面に添えられた一枚の画像をタップした。
そこに映っていたのは──
黒色の少し胸が開いたワンピースの水着に、薄手の白いパーカーを羽織った彼女がいた。パラソルの下で日差しを避けながら、困ったように、だけれどかわいらしく微笑んでいる姿があった。
「…………」
一瞬、思考が止まった。
「……私、泳ぐの苦手だから……水着は着ないで荷物番しながら海を眺めてるねって言ったんですけど……せっかくだからって友達がこれ着なよって……仕方なく……」
言い訳が小さく聞こえたような気がしたが、それどころじゃなかった。
「……無防備すぎる」
冷静に言ったつもりだったが、そこに滲む怒りを彼女は敏感に察したようだった。
「こんな姿で人前に出たら、変な輩が寄ってきたんじゃないの?」
「そ、そんなこと……」
「本当に?」
「…………」
やはり絡まれたのか。
「けどちゃんときっぱり断ったので何にもなかったですよ!」
必死に弁解する姿を見て、わずかに息を吐く。
だが、それでもモヤモヤした気持ちは消えなかった。
「……もっと警戒心を持つべきだ」
そう言うと、彼女は少し俯いた。
「……じゃあ、似合ってないですか、この水着」
「は?」
「……何にも言ってくれないから」
「…………似合わないわけがない」
そう低く呟くと、彼女はびくっと肩をすくめた。
「控えめに開いた胸元はさりげない色気があるし、黒い水着が白さを際立たせていていつも以上に肌が綺麗に見える。裾のフリルは可愛らしさも演出してていい。白いパーカーは羽織ることで適度に露出を抑えていて上品さがあるし、日焼け対策としても完璧だ。それから……」
「すみません! もういいです!!」
「君の友達には感謝しかない……お金を払いたいくらいだ……」
「払わなくていいですから!!」
「……僕も、見たかった……」