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    ジュナイン

    恋心を隠そうとしてたジュナと、勘違いから墓穴を掘るンド様の小話。
    ※1h

    アスチルベお題 花言葉から「恋の訪れ、心のまま、控えめ」


    体を射抜く熱視線に、インドラは相手へ気づかれないようそっと意識を向ける。予想通り、だいぶ遠く。インドラでなければ気づかないような位置に息子のアルジュナが何か言いたそうな表情で立っていた。

    (今日も見ているだけ、か)

    ここ1週間ほど、アルジュナがあの調子のため、インドラは息子と話を出来ていなかった。
    勿論、初めからこうだったわけではない。
    カルデアに来た当初こそ上手く話が続かずもどかしい思いをしていたものだが、回数を重ねる内インドラも息子との会話に慣れ、談笑を出来るようになっていた。共に周回やシュミレーターでの散策などもして、部屋で二人酒を酌み交わした夜だってある。
    だというのに、近頃急にアルジュナはインドラが近づくと逃げるようにどこかへ行ってしまうようになった。かと思えば遠くから視線を送ってきていることも多く、どうにも嫌われたわけではないように見受けられる。

    (大方、父の偉大さに触れ続けたことで気後れするようになってしまったのだろう)

    避けられたショックで意気消沈していたインドラだったが考えを改め、気持ちを持ち直した。
    そうなると今度は息子への心配が頭を占める。

    (真面目で控えめなところも美徳ではあるが、それでは損をしてしまうことも多かろう)

    何より、自分はアルジュナの父親なのだ。天上の存在である神に畏怖を抱くのは仕方ないこととはいえ、肉親くらいには遠慮などせず接して欲しい。息子の今後のためにも、自己主張の大切さを諭してやるべきではないだろうか。
    幸い、表情から察するに、アルジュナはインドラと話をしたいはずだ。場を用意してやりさえすれば、きっと応えてくれるだろう。

    (となれば、ここはオレが水を向けてやるほかあるまい)

    思考をまとめるや否や、インドラは神速を活かしてアルジュナへと詰め寄り、壁際へと追いやることに成功した。

    「うわあっ!?会議の資料が!!!」

    近くを通行中だった藤丸の書類が、インドラの巻き起こした突風に吹き飛ばされ辺りへ飛び散ったことなど些細なことである。

    「っ!インドラ、神、何を……」
    「……用があるのはおまえの方ではないのか?穴が空きそうなほど見つめておいて、神がおまえの本心を見通せないと、本当に思っているのか?」
    「……」

    逃げようと思えば逃げられるだろうが、それを許すつもりはない。
    腕を組んで見下ろせば、アルジュナの顔に絶望の色が浮かぶ。暗く淀みそうになる瞳は見たくない。

    「待て、勘違いをするな!神は何も咎めるつもりで声をかけたのではない」
    「……では、いったい、何故私の心を暴くような真似をなさるのですか」
    「それは勿論、神がおまえの親であるからだ。子が望むことを叶えてやるのも親の務め。ましてや神は天を統べる神々の王だ。肉親一人の願いくらい叶えるのは造作もないこと……まあ、つまり、なんだ……そう、おまえもたまには心のままに行動してみるが良い。この神がそれを許そう」

    おまえの、あれだけ見つめてくるほど話したいことというのを、教えて欲しい。
    怯えさせないように、しかし王としての威厳を損なわないよう苦心して言葉を紡ぐ。
    すると、アルジュナは元々大きな目を更に見開き、呆然とこちらを見てきた。そこには先ほどまでの仄暗い色はなくなっており、内心安堵する。

    (父の寛大さに驚いたようだな、無理もない)

    一人頷く。と、アルジュナはウロウロと視線を彷徨わせた後、書類を懸命に拾う藤丸へと目を留めた。それで何故か決心がついたらしく、実に戦士らしい闘志に溢れた顔でこちらを見据えた。

    (まるで獲物にでもなった気分だな)

    勿論、そのようなことはあるまい。彼に狩られるような覚えは、今のところない。

    (ならば、これは稽古でもつけて欲しいといったところか?)

    であればインドラとしてもやぶさかではない。照れが勝り、未だそういったことをまともにしてやれていないことは気にかかっていた。アルジュナから提案してくれるのであれば僥倖だ。

    「インドラ神」
    「うむ、決意が固まったようだな。何なりと言ってみろ」
    「では、少しの間。私が何をしても動かずに居て頂いても宜しいでしょうか?」
    「ふむ?それがおまえの願いなのか?」
    「はい」

    拍子抜けだが、特にこちらへ不利益になるようなものではない。

    「良かろう。神は暫くこうしてただ佇んでいることとしよう」
    「……ありがとうございます。では、失礼します」
    「?」

    息子の顔には緊張の中に期待が見え隠れしている。肩へと手を置かれ、アルジュナの踵が持ち上がり顔が近づく。

    「申し訳ありません、少しだけ頭を下げて頂いても?」
    「……不敬極まりない。とはいえ、願えと言ったのは神だ。特別に許してやる」

    王として頭を垂れるなどしたくはないが、子の我儘を聞いてやるのもたまには良いだろう。心持ちアルジュナの顔へ自身のそれを近づけてやる。これほど至近距離で彼を見るのは初めてのことだ。
    黒曜石のように美しい瞳がよく見えて、自然顔へ熱が集まってくる。
    頬と後頭部へそれぞれ手を当てられ、もう少し、引き寄せられる。鼻先が触れ合い、アルジュナの長いまつ毛の感触。そして、唇が温かい。

    (は???????)

    柔らかなものが口に触れていることを自覚した。それが何であるのか、明晰な頭は瞬時に答えを出したが、心が理解を拒んでいる。

    「……ぁ」

    ぬくもりが離れたかと思えば湿った生温かいものにベロリと唇を舐められ、思わず声を漏らしてしまう。その隙をアルジュナは見逃さなかった。
    ほんの少しの間を柔らかなモノ、彼の舌がこじ開けてくる。それは、慌てて奥へ逃げ込んだインドラの舌を追い、捕まえ、器用に引きずり出してしまう。

    「ンンッ!……ン~~!!!」
    「……ふっ…ん」

    抵抗したいが、動かないと約束してしまった以上何もできない。反射で掴んでしまったアルジュナの肩を押しそうになるのをどうにか踏みとどまる。
    端から見れば縋っているように見えることには気づけないまま、好き勝手に口腔を蹂躙するアルジュナの舌の感触に耐える。

    「ふっ……はぁ……はぁ……」
    「……」

    ひとしきりインドラを弄んだ後、アルジュナが身を離す。呼吸の乱れから肩を激しく上下させるインドラの顔を掴み、もう一度漆黒の瞳と視線を合わせられた。そこへ映り込む自分の顔は情けないことにすっかり上気している。

    「インドラ神。覚悟しておいてください。私は必ず、あなたを撃ち落としてみせましょう」
    「え?」

    何故自分は息子に口づけをされたうえで、宣戦布告(?)されたのか、理解できない。ただ前のように普通に話をしたかっただけだというのに、どうしてこうなってしまったのか。
    想定の範囲を遥かに越えた事態に、思考が追いつかないが、アルジュナは待ってはくれなかった。

    「私を暴いたのはあなたであることをゆめゆめお忘れなきよう。では、作戦を練りますので、本日はここで御前を失礼いたします」
    「いや……え?」
    「また明日、会いに来ます」
    「あ、ああ?……」

    耳をすり、と意味深に撫でられ反射で身体が跳ねる。そんなインドラに微笑んだアルジュナは、憑き物でも落ちたような顔で挨拶をして去っていく。
    逆にこちらは混乱しきりだ。当初の目的はほぼ達成したものの、嫌な予感で冷や汗が今更湧き出て止まらない。

    (もしやオレは、とんでもないことをしてしまったのではないか?)

    「インドラ様」
    「…………」

    離れた位置から見守っていたらしい藤丸が、掻き集めた書類を手に声をかけてくる。言葉を発する気力もなく視線だけを向ければ、書類を片手だけで持ち、空いた手の親指をグッと突き出してきた。

    「GOODLUCK」

    それだけを言いそそくさと逃げていく後ろ姿に、インドラは顔を手で覆い、天を仰いだ。
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