「行ってらっしゃい」とハツナを見送り、がらんとした自邸で一人、大きな溜め息を吐く。結局、共に暮らし始めてから旅に出るまで、彼女が心から笑う姿を見ることはなかった。本当は私に対して思うところがあるのかと訊ねても、そうではないと首を横に振るのみだった。今日に至るまで真意を聞き出せなかったが、それでもおおよその察しはつく。
どれだけ愛していると伝えても、幸せになって欲しいと伝えても、いつもハツナは切なげに「ありがとう」と頷くばかりだったからだ。
「……私では、君の力になれないのか」
独りごちたその言葉は、ひどく虚しく響く。
以前、ハツナは旅の途中で命を落としても不思議ではないと口にした。それを聞いたとき、彼女のために出来ることは少ないのだと痛感した。気の遠くなるような旅路の中、もしも彼女の命が尽きるのならば、その知らせはイシュガルドにも届くことだろう。そしておそらく私は、亡骸に寄り添うことも、触れることもできないのだろう。
想像するたび行かないでくれと叫び、ハツナをこの腕に閉じ込めてしまいたくなる。彼女が悲しみに暮れているときに、どうしてそばにいられないのかと心の内では嘆きが止まない。その選択をしたのは、他でもない私自身だというのに。
「どうか彼女の旅路に、ハルオーネの加護があらんことを」
イシュガルドの守護神に最愛の少女の無事を祈る。これほどまでに心から祈りを捧げたのは、生まれて初めてだ。