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    10ri29tabetai

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    12/24 チャンみど 展示物

    イマジネーションイルミネーション「うふふ〜『めりぃくりすます』〜☆ こんばんは〜『りゅうせいたい』です…☆」
    「深海殿!! カメラこっちでござるよ!!!」
    あはは、と笑い声と共に奏汰がいっぽ後ずさる。明後日の方向を向いていた彼を引っ張ってきて、5人が横並びになっているのをカメラで確認しながら、ピースを決めた。
    「こらこら奏汰っ、ダメだぞぅ! そんなところで1人だけ目立とうとしないでくれっ!」
    「でもこれももうお馴染みになってきてないッスか? さっきスタッフさんたちから『深海さん、立ち位置そこでいいんですか?』って言われてたッスよ?」
    「時間もないから早く進行しない…? 俺、今日早く帰りたいんで…」
    「オープニングから自由だなお前たち!! そんなわけで皆さんこんばんわ! 我ら、5人揃って…」
    「「「「「流星隊!」」」」」
    おそらく、このコールの後には、メテオレンジャーとかのイントロが入るんだろう。ルーティーンとなったやりとりを聴きながら、千秋は笑ってみせる。久々の5人での収録は、思った以上に自由度の高いものになりそうだった。


    「ソロでの仕事が増えてしまったから、できれば5人での仕事があるといい」と行ったのは、翠からの提案だったことを覚えている。数年前、『流星隊』がユニットの動画チャンネルを開設した時の話だ。
    毎週1回必ず上がる動画は、何本かまとめて収録することが多いが、今日はクリスマス前、ということで特別生配信を行うことになっていた。数日後に行われるクリスマスライブに合わせたレッスンの後。ESビル内の会議室で行われている生配信ということを、すっかり忘れたやりとりに、千秋も自分が緊張感が程よく抜けていることを自覚する。
    「いつの間にか世間はもうクリスマスでござるな〜? 拙者、今日あまりの寒さに布団から出られなかったでござるよ」
    「わかる。もう一生行きたくないって思った。レッスン朝からだったし…」
    「さむいですよね〜 ぷかぷかもできませんし」
    「はっはっはっ! だけどちゃんときたな、2人とも! 偉いぞ!」
    「 お、コメント早いッスね〜 『今日みんなでレッスンだったの?』そうッス!今日は朝からずっとみんな一緒ッス!」
    練習着に身を包んだメンバーたちは、先ほどから取り止めもないような話を繰り返していた。高校時代に戻ったみたいな時間に、千秋は思わず言葉を無くしていた。
    MC役は忍におおむねは任せてある。千秋が全てを任せないように、と5人で話し合って決めたことだ。状況を見て、タイムキーパーをして。今日の企画に移るか、と目配せをした。
    5人の後ろにある、会議室の机の上に並べられた荷物は、今日のメイン企画だ。クリスマスにちなんだプレゼントの交換会。大小様々な包みが並べられたそこを見ながら、千秋はうむ、と頷いてみせた。
    「明後日がもうクリスマスライブでござるしな。楽しみでござるよー!」
    「クリスマスはぜひ俺たちと一緒に楽しい時間を過ごしてほしい! しかし現地の来られない人、もきっといるだろう…ということで、今日の生配信では『流星隊』でプレゼント交換会をするぞ!!準備はいいか!?」
    おおー、と腕を突き上げる仕草をする。いつも通りのやりとり、少しだけ気が抜ける時間。配信のコメントでも同じように拳を突き上げるアイコンが表示されていた。


    後輩たちが卒業してから、五年という月日が流れていた。
    クリスマスのライブは千秋が夢ノ咲の三年生の時から慣例のように行われていて、サンタクロースの格好をして会場を盛り上げるというものだ。
    子供も一緒に楽しめる昼の部、大人がメイン層の夜の部。クリスマスに夢と希望を振りまくヒーロー ーーサンタクロースとなって、幸せと輝きを届ける。
    それは、『流星隊』の恒例行事となってしまったライブだ。毎年規模が大きくなるクリスマスライブは、ファンももちろんだが、千秋自身も楽しみにしているものだった。
    「あんた、寂しがりですもんね。クリスマスで1人で仕事とか耐えられなさそうだし」
    配信を終えた会議室で、2人きりになった時に翠がそう言った。奏汰たちが先に帰ったのは、多分「配慮」というやつなのだろう。今夜から明日の昼が終われば、後は年末まで駆け抜けるだけのスケジュールが待っている。そうなる前に「2人の時間」というものを確保してくれた、ということなのだろう。
    「アイドルである以上、クリスマスが仕事なのはありがたい話だろう? まあ、そりゃあ1人よりはお前たちが一緒の方が楽しいが」
    「そういう意味では毎年固定の予定ってありがたいですよね。…みんなでいる時間が増えるのは、俺も嬉しいし」
    「そうかそうかっ! ならよかった」
    「……まあ、なんというか、先輩とも一緒に過ごせるし?」
    「そっ……」
    突然、そんなふうに翠がいうものだから、千秋は言葉に詰まる。「配慮」ーーが必要な理由、クリスマスに自分たちが一緒にいたい理由。そういうものを、仕事の流れで感じさせられて、一気に顔が熱くなっていった。
    「あんたいつまで経ってもうぶ過ぎません? もう別にクリスマスで照れるような歳でもないでしょ…」
    はああ、とため息をついた翠がいう通りだった。千秋と翠が付き合い始めてからもう5回目のクリスマスだ。
    「それでも嬉しいものは嬉しいだろう? お前いつも俺といると拗ねてるみたいな顔するじゃないか」
    「……してないし」
    「あっ!今したぞ!今の顔だぞ高峯!」
    「っ、やめろ!! じゃれつくんじゃねえ!」
    ほっぺたを掴もうとした千秋の手を翠が振り払う。静かで寒かった会議室が一気に2人の声で埋まっていった。
    抱きつくように飛びつきながら、千秋はふふ、と笑う。翠を見上げると、その碧い瞳は少しだけ、罪悪感を覚えている。ちょっとだけなら寒いから別にいいですけど。ボソボソという言葉に千秋は答えるように体を抱きしめる。
    「ていうか、もう帰りません…? そろそろ鉄虎くんたちも行った頃でしょ」
    「…うむ。そうだな…」
    付き合い始めた、ということを奏汰たちに話してからずっとそういう微かな配慮はある。千秋も、翠も、そういうのは要らない、と言って憚らなかったのだけれど、鉄虎からこっちが気にするッスよ、と言われてしまっては何も言えなくなってしまうという話だ。
    結果として、5人仕事の後に妙な気遣いをされてしまうことが増えたのは、いいのか、悪いのか。それでも、今日もどちらかの家に行く予定にはなるんだろう。
    悪いことをしているわけじゃないことも、仲間たちに思われていることもわかっている。それに乗っかって、甘えてしまうことを千秋は受け入れているし、ありがたいとも思っている。
    クリスマス前の細やかな時間を、翠と2人過ごせるのだ。嬉しくないはずがない。
    頭の中で考えてしまったことが、指先に乗っかってしまったようだ。ぎゅ、と翠の背中を抱く指先に力がこもってしまう。嬉しいのに、どうしてか後ろめたさがある。
    「……帰りますよ、先輩」
    ほら、と体を引き離されて、千秋ははっと我に帰った。笑顔を作りながらすまないな、と快活に笑い声を上げると不機嫌そうになった翠がため息を吐く。
    目は口ほどに物を言う、と言うやつだ。またあんた余計なこと考えているでしょう。そんな声が聞こえてきそうな視線に、千秋は翠の背中をバシバシと叩いた。
    「痛いってば… ああほら、カバン持って。うちがいい?」
    「ああ!もちろん!」
    「あ、でも、うーん……どうしようかな…」
    会議室をでながら、翠が首を傾げる。自分の家でもいいけれど、と口に出しかけた時だ。エレベーターを待ちながら、翠が意を決したように千秋を覗き込む。
    「……うちに行く前に、なんですけど、駅前寄っていきません? イルミネーションやってるところあって、この時間ならギリギリ見れるかも」
    「……イルミネーション」
    「先輩は何考えてんのか知らないけどさ…せっかく2人にしてもらったんだから、たまにはいいでしょ」
    「……た、高峯、もしかして、俺は……デートに誘われているか…?」
    答えは聞けなかった。エレベーターがチーン、と鳴って扉が開く。うるさいな、と視線を逸らしたまま、上階からやってきた客の中に言葉が溶けていく。
    地上に着くまでの間、千秋はただ黙る。そうして思考する。2人になること、してもらえること。その意味とか、理由とか。何よりも、翠がこうやって心を寄せてくれることの貴重さとか。
    そういうことを考えていたらなんだか胸がいっぱいになってくる。目元に込み上げてくる熱いものが、どうしようもなく止まらない。
    エレベーターが開いた瞬間、千秋は真っ先に飛び出す。冬の冷たい空気が千秋の頬を冷ましていく。
    「高峯!」
    「うう、恥ずかしい… 他の人もいるんだから静かにして…」
    「早く行くぞ! 光っている時間には限りがあるんだろう?!」
    「うわっ」
    そうして、千秋はその手を掴んでいた。昔にみたいに強引に引っ張って、行き先もわからないままがむしゃらに走る。恥ずかしい人、と悪態をつきながらも、どこか楽しそうに、千秋のスピードに合わせて翠も走り出す。
    手袋もつけていない指先が冷えるけれど、それよりもずっと、体の方が熱い。
    根拠もないし、確信もないけれど、もうすぐ消灯時間のイルミネーションは、2人で見られる気がした。見たこともないけれど、冬の空に輝く星みたいに、綺麗なのだろう。きっと。
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