手持花火、どっしりとした入道雲、白くて飛行機の残骸が散らばった砂浜、日が落ちて黒く見える海。
目の前で広がる光景は、あたしにとっての今年の夏の情景ランキング上位に入る。手に持った花火がシュワシュワと弾けて手元を明るくするのを、暗闇なのを良いことに真顔で見つめる。
「ユキ、この炎色反応に使われている素材は?」
「えっ、えっと、緑色だから……バリウム?」
「そう、正解。もう少し詳しく言うとバリウム化合物」
「よ、よがったぁ、さっき教わったばっかですから、間違えてたらどうしようかと……」
「………別に、間違えてたらもう一度教えるだけだから」
「ゆ、ユミルさま〜!!」
甘すぎる。あたしの前方約2メートル付近で花火片手にいちゃ、じゃなかった。楽しげにしている二人の空気が花火の煙に負けないくらいピンク色で、正直胸焼けがしそうだ。
「夏に燃え上がるのは花火だけじゃなかったか……」
「おっ、なになに?独り身さみしいオトシゴロ?ならオレ様とかどお?」
「間に合ってますぅ」
背後から突然ぬっと突き出た明るいオレンジ頭を軽く小突く。リューはあたしの拳を受けて不敬罪だ!暴行だ!などとやかましく喚いてみせた。あたしはそれをしら〜っと無視して火花を散らしきった花火を近くのバケツに入れる。ジュッと小気味いい音を立てて、そのまま底に沈んでいった。
「2本目……これにしよ」
「なんだそれ、七変化花火ぃ〜?ぜってー面白いやつ!仕組みは分かっててもやりたくなっちゃうお年頃!」
(あたしは全然仕組みわかんないんだけど……まあいっか)
リューに倣って蝋燭の火を先に灯す。別にあたしが魔法でつけても良いんだけど、なぜだかカリンとチトセに止められてしまった。全く信用がない。
「おお〜、勢い速すぎるけどまあ虹っぽくて良いな〜」
「あっ、これ二刀流で持てばよかった……失敗したなあ、これラストだったのにぃ」
「それでいうとオレ今頃この花火出来てなかったってことぉ〜?ラッキ〜!」
「そこは普通さぁ、『こちら、使いかけですがどうぞフウカ様……』ってするとこでしょ!」
あたしが自分の髪を払ってキメ顔で手を差し出す真似をすると、リューは大口を開けて笑いながらその手を振り払った。
「オレ様王子様だけど今は学生様なので接待しませぇ〜ん」
「うわうざ!!でもいいよ許す!!」
「でもま、まさかカレストリアの奴らで花火やるとは思わなかったな〜」
「え、なに、もしかしてやったことないの!?人生半分損してる……」
「そんなに言う?……まあお前らと違って、勉強勉強結果結果!……って感じで、ザ・青春なこととは程遠い生活送ってるし」
まあ、それに不満は無いはないけどさ。
「でも、嬉しいんだ、オレ」
「ずっとこうやってさ、家族とか、仲間?友達?みたいなやつらと笑いたかった気がする」
視線の先にはユキちゃんにユミル、それにミーナが一緒になって笑いながら花火をしている。
「そっか」
「ま、これからじゃんじゃんこういう時間作りなよ。勉強ばっかしてたら絶対頭おかしくなっちゃうって!」
「それはフウカだけだろ?」
「たった数日であたしに対しての理解が深まってるわね……」
「ガハハ!まあ見てれば分かるっしょ」
ミーナー!線香花火対決しよーぜ!そう言ってリューは向こうに走っていった。