全部撮ってました☆酔っ払いというのは時にヴィランよりも厄介である。
…と、言うのはお酒で後悔したことのある人間なら誰もが肝に銘じているだろう。けれど、成人したて…まして20歳になったばかりの人ならば、自分の許容限界がどれほどかも知らずしこたま飲んでしまってもしょうがない事なのだ。お酒特有の苦さが苦ではなかった場合など、結末は悲惨というものである。
これは、そんな人達のお話。
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「おいこらクソ…てめぇおれのこと好きだろ」
と、トックリに入ったそこそこ高価な日本酒を秒で飲み干し、4本目の日本酒をヨレヨレの状態で飲む酔っ払いが居た。据わった目をした爆豪勝己は、目の前に座っている緑色の毛玉に向かってお猪口を掴んだままの手で指さした。パッと見ではほんのり顔が赤い程度なのだが侮るなかれ、お酒は人を変える。表情に出なくてもそれは同じである。
「あにあたり前のこと聞いてるのさ…そんなのフレミングの法則くらい当たり前じゃないか。と言うかかっちゃんもぼくのことすきでしょ?」
指をさされた本人である緑谷出久も同じく据わった目をしており、本日7杯めのカクテルであるカシスオレンジを両手で飲みながら真っ赤な顔で爆豪を睨んだ。こちらは既に目が半開きであり、いかにも酔っ払いといった風貌だ。現に1度寝落ちて今しがた起きたばかりである。寝起きに酒である。
「あ?ンなわけねぇだろ」
「うっそら〜!」
「うっせうっせ好きじゃねぇ」
「ぜったいウソらね!かっひゃんの嫌い嫌いは大好きのうちだもん!」
「きっめぇわ!くっそなーどが!!はっ倒すぞ!!」
「…それじゃあ嫌い?」
「クソほど愛しとるわしねかす」
「ほらぁ〜大好きジャーン!」
もしもシラフの彼らが見たらゾッとするような光景だろう。けれど、緑谷は何がそんなに面白いのか終始ケラケラと笑ってご機嫌であり、爆豪の方もいつもの仏頂面ではありながらテンポよく会話をしているから機嫌がいいのだろう。
「んで、てめぇはおれとだい・ばく・さつ・しん・ダイナマイトのどっちが好きなんだよ!?」
ダァンと音を立てて大事そうに握りしめたままのお猪口をテーブルに叩きつけながら吊りあがった目で爆豪は緑谷を睨んだ。こんな昼ドラのような台詞は普段の爆豪なら絶対に吐かないだろう。駄菓子菓子彼らは酔っ払いだ。
「え〜とね〜、どっちも好きじゃないよ〜」
緑谷の踏んだ地雷は氷属性だったようだ。途端に周りの温度が急激に下がる。ヒヤヒヤした目で見られているにもかかわらず、緑谷がさらにケラケラと笑いながら爆弾を落とした。
「ん〜、えっとねぇ〜 だいなまいと はねぇだいすきらからぁ!あ!かっちゃんは嫌いだよ〜」
流石の酔っぱらい爆豪もこれには茫然自失。テーブルに叩きつけた時でさえ握ったままだったお猪口がゴトッと音を立ててテーブルに落ちるくらいには衝撃的だったようだ。「どっちもおれじゃねぇかよ!!」とキレつつも喜べばいいのか凹むべきなのか酔いのせいで幾分豊かな表情は微妙な顔になっていた。
「…いまさら嘘ついてんじゃねぇよ」
「えへへ〜、嫌いだよ〜?」
ニコォッ!と、緑谷の満面の笑みによって爆豪はトドメを刺された。死因は日本酒の飲み過ぎによる睡魔と緑谷の鋭利な言葉の刃物である。ズゥゥウンッとテーブルに突っ伏しながら、たまたま通りかかった店員に「日本酒追加ァ!!!」とキレながら注文する。1番哀れなのは睨まれた店員だ。まだ飲むのかという周囲の視線を気にも止めず「あ、ぼくもかっちゃんとおんなじやつ飲みたーい」と酔っ払いはさらに日本酒をオーダーしていた。止める者はいない。誰だって命が惜しい。
完全にヤケ酒ルートに入った爆豪をよそに、緑谷は更に爆弾を投げるどころか花火が上がった。
「でもねぇ、かっちゃんは嫌いらけど〜、それいじょうに憧れでー、かっこよくてー、ずっといっしょにいらいくらい大好きー!」
花が舞っとる…そう見間違えるほどの満面の笑み。なるほどここは天国かと、機嫌が一気に良くなった爆豪の周りにも緑谷から飛んできたかのように花が舞っている様な錯覚。糖度が高いどころかゲロ甘である。
「…天使か?」
「かっちゃんぼくはヒーローだよ?」
「うそつけこんな酔っ払いひーろーがいるわけねぇだろ」
「ん〜?ぼかぁ酔っ払ってないよ?かっちゃんだっておかおまっかだ〜あはは!!」
「ぁあ!?あかくねぇわ!!よゆうだボケ!おら!!さっさと飲め!!」
「おっとっとっとー!」
届いた日本酒をグイグイと緑谷のお猪口に注いでいく爆豪。緑谷はケラケラと笑って様式美であるやりとりを楽しんでいた。1口飲んだ日本酒は口触りもよく、ほんのり甘くて飲みやすいものだった。初めて日本酒を飲んだ緑谷もハイペースで注文したお酒を飲み干していく。ちなみに先程言った通り、爆豪の顔色はさほど変わっていないが、緑谷には真っ赤に見えているようだ。
「かっちゃんすごい!こえオイシイ!」
「…ぁあ?たりめーだろ。こちとらてめぇよか早く酒デビューキメて飲んでんだよ」
「すごいすごい!さすがかっちゃんー!」
「だろう?あ、てめぇおれのこと好きなら、おれのジムショにこいや」
ブーーーッと、周りで噴き出した音がするが、コイツらは酔っぱらいである。なんの脈絡のない話も違和感なく進んでいく。だって酔っぱらいだから。
「いてんするってこと〜?バクゴーヒーロージムショ??」
「お〜。つーか、お前もともとバクゴーヒーロージムショのメンメンだろうがよ」
「…ハッ!そうらった!!ぼくぁバクゴーヒーロージムショのメンメンらった!!」
「てめぇショゾクわすれるとかほんとうにでくの坊だな」
「あははは〜ごめんかっちゃーん」
ゲラゲラとした酔っぱらい共の会話が響く。しかし、色々衝撃的な事がさらに続いていくのだった。
「でもさ〜かっちゃん」
「あぁ?」
「ぼくがー、いまのジムショぬけちゃったらさぁ、 こうはいにイクジホウキだー!ってなかれちゃう」
「…あー?てめぇこどもいたんか?」
「かっひゃんとのこどもはほしいねぇ…でも、わんふぉーおーる の事もあるしさぁ…いてんはむずかしいかも〜…うっ、ぼくはバクゴーヒーロージムショにもどれないんだぁぁあ!!」
びぇぇぇええええんっ!!と、どこでスイッチが入ったのか寝取られ嫁の如く大量の涙を吹き出す緑谷。笑い上戸で泣き上戸である。こうはい…つまり、後輩とは、緑谷が雄英生徒の時のインターンで助けて以来ファンで追いかけてきた後輩ヒーローである。何かと不器用なところが自分に似ているとかで緑谷はたいそう可愛がっていた…後輩として。ここ大事。
爆豪はそんな緑谷に大事なお猪口をぶん投げて黙らせた。ちなみにお猪口は緑谷のおデコに吸い込まれるようにスコーンッ!!と音を立てて当たった。ナイスコントロール。
「あだっ!!かっひゃん〜〜」
「ビービーないてんじゃねぇ!!ばかいじゅく!!!!おれがおまえの最弱ジムショをきゅうしゅうがっぺいしたらぜんぶ解決じゃねぇか!!!」
「…かっちゃん天才??」
ツッコミは不在である。スンッっと緑谷の涙は一瞬で引っ込んで行った。どこから取り出したのか2つ目のお猪口を握りしめながら爆豪はさらにツラツラと語る。
「それによぉ、ワンフォーオールをどうのいうなら、てめぇがでっけぇジムショにはいりゃあ無個性にもどったときケガをいいわけにしやすいだろうが」
「…ん…たしかに」
「それに、うちのジムショはうめぇカツ丼がランチメニューにある。フクリコウセイも充実のアンシンホショーなしんながいきくんってやつだ。いまならおーるまいとのこらぼかふぇを作ってやらんこともない」
「きゅうしゅうがっぺいの手筈をよろしくおねがいします」
「いえいえこちらこそ根回しよろしくしやがれください」
「まかせろください」
オールマイトが居たならカツ丼とカフェに負けたと顔を青くしていただろう。しかし、緑谷はグラン・トリノの弟子でもある。彼が電子レンジをこよなく愛していた様に、緑谷も好物には勝てない。2人は深深と向かいあわせで手をついて頭を下げあっていた。つまり向かい土下座である。
「…あ、かっひゃん!思ったんだけどさ」
「あ?」
緑谷はガバッと突然顔を上げる。爆豪は大音量で叫ばれたことで訝しげな顔をして日本酒を煽っていた。
「ぼくらおたがいのことらい好きじゃん?」
「おー」
「ならさぁ…もうぼくら結婚しちゃうべきじゃらい?」
「…あー…??」
シーンッとその場が静まり返った。その場には面倒くさくなったのかトックリから日本酒を直飲みしだした爆豪のゴクゴクと言う音だけが嫌に響いていた。緑谷は終始ご機嫌でにこにこしていた。
カァンッ!!!!
爆豪のトックリが悲鳴をあげてテーブルに叩きつけられた。底の方からピシリと音を立てて線が伸びていたが、トックリにあんな模様あっただろうか?ゴゴゴゴと地鳴りがしそうな程凶悪な目付きの爆豪が緑谷を見る。
「…テメェ天才か?」
「でしょー!!!」
デジャブ!!!…と言うツッコミは無い。けれど、アホなくらい頭が回っていない爆豪は少し考え込んだあとハッとした様子で頭を抱え始めた。
「いずく、やべぇぞ…」
「ン〜?」
爆豪がテーブルの上でゲンドーポーズを取りながら真剣にそう話し出した。緑谷も、何が何だかわかっていないがとりあえず真似てテーブルの上でゲンドーポーズを取り始め、ケラケラと笑っていた。
「…オレは…やべぇことに気がついちまったのかもしれねぇ…」
「…聞かせてもらおうか…」
何故かキリッとしたドヤ顔で役になりきり始める緑谷。なお、モノマネは微塵も似ていない。オールマイトのモノマネのクオリティが家出をしている。そんな中、真面目な顔(笑)の爆豪がさらに続ける。
「…そもそも、オレたちは付き合ってねぇから結婚できねぇ…」
「…なん…だと…」
ピシャーンッ!!と、雷が落ちたかのような衝撃が緑谷に走っていた。別にフルカウルを使った訳では無い。そして、一応言っておくが、付き合っていなくとも結婚出来る。けれど、緑谷はともかく爆豪がしっかりと段階を踏んでの結婚を望んでいるところを見ると、口が悪く粗暴だが緑谷のことが如何に大好きかが伺える。
「それじゃあ付きあわらいと!!かっちゃん!ぼくと付きあってくらしゃい!!」
「うっせぇあほでく!!てめぇがおれに付き合うんだよくそなーど!!」
「やったー!!かっちゃんらいしゅきー!!」
テーブルを飛び越え緑谷は爆豪に抱きついた。爆豪は軽々とそれを受け止めると、緑谷を抱えたまま荷物を手に取り始めた。ちなみにこの間に、緑谷は爆豪にだいしゅきホールドをかました。
「おいけだま、デートしにいくぞ」
「ん〜?ろこ⤵︎ まで⤴︎ いくの⤵︎ ︎〜⤴︎ ⤴︎♪」
「おれんち」
「やった〜!!いく〜かっひゃんのおうち〜!!」
緑谷はそのままグリグリと爆豪の強靭な腹筋に頬擦りしながら至極満足そうにしていた。爆豪も満更でも無い様子で、そのままヨロヨロと覚束無い足取りで個室を出ていった。すると、開けっ放しにされた部屋の入口の方から
「困りますお客様!!別会計でお支払いは済んでいますのに、そんなホイホイと10万円置いていかれても困ります!!困ります!!お客様ぁぁあ!!!」
と言う悲痛な店員の声が聞こえたが、直後にBoooooM!!!と言う爆発音が聞こえたので爆速で帰ったようだった。途中でビルに突っ込んだりしていないといいが…。
「エンダァァァァァァァァァァァァァイヤァァァァァァァァ!!!wwww」
「…ぶっ…ぶっはははは!!待ってやべぇってアレ!!」
「おい上鳴!!ちゃんっと録画回してたか!?!?」
「バッチリに決まってんだろ!!!ww」
「うっ…うぅっ…デクくん…恋が実ってよかったねっ…うっ…」
ゲラゲラと笑い転げるは爆豪派閥のメンツ。そして涙ぐんでいるのは酔っ払いの麗日であり、それを介抱するのは我らが姉御の梅雨ちゃんだ。
「いつかおっぱじまるとは思ってたけどなぁ!!ww」
「おいこの映像A組のグループ載せようぜ!!!」
「麗日…大変だ…飯田がこんなに小さくなっちまった…」
「ぶふっ!!轟くんそれおしぼりや!!」
「轟ちゃんはお水を飲んだ方が良さそうね。今潰れているのは何人かしら?」
「むむ!泥酔が8名、ほろ酔いが5名、飲んでいないが5名、失踪が2名だな!!」
「…飯田ちゃん、そっちは壁よ」
…お分かり頂けただろうか?そう、今日はA組の同窓会だったのだ。ヒーロー職が忙しい中、奇跡的に…と言うよりもA組諸君の弛まない努力により休みをもぎ取り、爆豪の休日に合わせて(本人が同窓会の参加を頑なに拒否するため)同窓会が開かれていたのだ。
「さて、縁もたけなわな事だし、そろそろお開きにしましょうか」
「いえぇぇえい!!二次会行く人ー!!!」
「「「「うえ〜い!!」」」」
こうしてA組の夜はまだまだ終わらず、翌日皆々二日酔いに苦しんだとか記憶が飛んだとか飛んでないとか…。
追伸:翌週、ヒーローデクの事務所が爆豪ヒーロー事務所に吸収合併された事が大々的に報道され、そのさらに翌日には恐ろしいヴィラン顔で左手の薬指に嵌る指輪をかざす爆豪と、顔を隠すも耳が真っ赤になって同じように左手の薬指の指輪をかざす緑谷の写真がそれぞれのアカウントから投稿され、世界中がお祭り騒ぎになったとかならないとか…
おわり