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    torinokko09

    @torinokko09
    ♯♯一燐ワンドロシリーズはお題のみお借りしている形になります。奇数月と偶数月で繋がってますので、途中から読むと分かりにくいかもです。

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    torinokko09

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    1月「雪遊び、帰り道、電話」一燐ワンドロ
    まとめて掲載 単品でも読めるようにした連作自主企画でした

    ##一燐ワンドロ

    「ったく、なァんでお前らはそう・・・」
    燐音は新年早々頭を抱えていた。向かいには正座をさせた弟と、葵兄弟。三人がしょんぼり顔でこちらを見上げているが、燐音は出てくるため息を抑えられなかった。

    「はぁ」
    「ごめんよ兄さん・・・」
    「いや、もういいけどさァ・・・なんで葵兄弟の分まで俺なワケ?」
    「そこはコズプロの縁でしょ」

    にかっと笑うひなたの顔を軽くデコピンし、またひとつため息をついた。
    先生がいなくなった空き教室の椅子にまたがるように座っていた燐音は、机に置いてある没収したバナナを見た。濡れているそれは、夢ノ咲学院の隅にあったと言う。なんでも、年末に大雪が降ったせいで雪かきのアルバイトを募集したらしい。それに手を挙げたのがくだんの3人。やっているうちに楽しくなったのだろう、校庭の、教師が普段来ないような場所で葵兄弟が雪山を作り始めた。それに一彩が注意しに来たところを有耶無耶にして巻き込んだと言う。

    それにしたって、と燐音はひょいと濡れたバナナを手に取った。微妙に溶けてはいるが、まだまだ簡単には剥けそうにない。バナナ、ねぇ。積み上げた雪山にそれぞれ好きなものを突っ込んだまでは良かったが、盛り上がりすぎて何を入れたのか忘れてしまった三人の動かぬ証拠となった。
    年末年始の少し暖かだった気温に溶けていった雪山は、周囲を水浸しにして教師の仕事を無事増やした。そして、そこにぽつんと残るバナナが、証拠物品として三人の前に突きつけられた。アルバイト代は半分に減り、一彩の保護者である燐音が夢ノ咲学院に足を向けなければならなくなった経緯である。

    燐音は何度目か分からないため息をつくと、
    「こういうのはな? ちゃんと計画立ててやらなきゃしっぺ返しがくるンだよ」
    「重々承知しております・・・」
    「ホントかァ?真面目ちゃんの俺の弟は置いておくとして、お前らはイタズラの代名詞じゃないのかよ」
    「いやァ、ね?燐音先輩、はしゃいでると楽しくっていろいろ忘れちゃうんですよ」
    「そーいうのは分かるけどさァ」
    「先生にはもうたっぷりお叱りをいただいてますので!
    ここはどうか!」
    「そちらのバナナは差し上げますから!」
    「いや、年末のバナナ貰ってもな・・・食えんの?」
    「・・・」

    ひなたとゆうたはちらりとお互いを見て、曖昧な笑みで濁した。その横で一彩だけがしょんぼりと真面目に反省している。同い歳の性格の違いに、まァアイドル学校なんてこれくらい個性が違って当たり前か?と思うことした。

    立ち上がり、椅子とテーブルをなおしはじめると、葵兄弟は嬉々として一彩を立ち上がらせて、「もう大丈夫だって」「第一燐音先輩激甘だし」「たまにいじわるされるけど」「それはゆうたくんだからだよ」「えぇ、意味わかんない」とコソコソ話し始める。そこに燐音はぽいとバナナを投げ入れた。

    「うわっ、掴んじゃった! びしょびしょじゃん!」
    「ナイスコントロール! あ、やめてひなたくん渡さないで!」
    「なんかここだけ妙にぐにゃってんの!」
    「知らない! おれ知らないから!」
    「お前ら、ちゃんと処分しろよ」
    「はーい!」
    「はーい、燐音先輩またね」
    「またサークルでな」
    「今度はおれも顔出すから!」
    「いいぜ、ボードゲーム探しとく」
    「楽しみ!ばいばい」
    「ばいばい」

    ひらひらと手を振って双子の嵐を見送る。ぽつんと残された一彩は、しょげた犬のようだった。顔は下を向いていて、瞳だけこちらを見上げている。キラキラと光る青色の瞳が、燐音の加護欲を刺激した。

    「ほら、お前も帰るぞ。今日は終わりなんだろ」
    「うん。・・・ごめんなさい、兄さん」
    「何が」
    「呼び出してしまって。予定があっただろう?」
    「これくらい別にいいさ。俺は安心したけどな 」

    そう言ってにやりと笑うと、一彩は顔を上げてきょとんとした。大きな瞳が不思議そうにこちらを見つめる。
    「何に安心したの? 僕は怒られることをしたのに」
    「んー、なんだろうな?」
    「とぼけないでほしいよ!」
    「教えなくてもいいっしょ」
    「嫌だ、教えてくれ!」

    一彩はぐっと燐音の両腕を掴んだ。その勢いを受け止めきれず、燐音はがたりと後ろの机にもたれ掛かるような姿勢になった。一彩は力をゆるめることなくこちらを見ている。その必死な顔に、燐音はたじたじになりながらも言葉を紡いだ。

    「ちょ、勢い良すぎっしょ、なんでそんなにピリピリすんの」
    「だって、褒められたわけじゃないのに」
    「はぁ」
    「学校は成績や内申が大事なんだろう? 僕はそれに響くようなことをしたんだよ? どうしてそんな安易なことが言えるんだい」
    「安易って、お前なぁ。・・・ったく、天才すぎておばかさんになったのか? ン?」

    燐音は落ち着けるように一彩の頭を撫でた。その頬をに手を当てながら、優しく諭すように話す。
    「人生ってのは、成績で決まんのか? 学校の成績だけが大切なんじゃない、友達との思い出だって大切なんだよ。それこそ、いいことも悪いこともな。だから、俺はお前が友達とばかやってるって聞いて嬉しかったんだよ」
    「・・・」
    「故郷じゃ何やるにも俺しかいなかったもんなぁ。俺は嬉しいよ、お前がたくさんの友達をもって、たくさん思い出を作ってるのが」
    「・・・兄さん」

    ぽすりと、一彩の頭が胸元へと預けられる。その頭をまたよしよしと撫で、背中をポンポンと叩いてやる。一彩はしばらくじっとしていたあと、はぁ、と息を吐いて、顔を見上げた。
    「・・・兄さん、」
    「なんだよ」
    「僕は確かに、ここに来てたくさんの友達を持ったし、たくさんの思い出ができたよ。それこそ、故郷で生きてきた分をぎゅっと詰め込んだくらいにはね」
    「おう、いい事じゃねぇか」
    「だけどね、兄さん」
    「うん」
    「ぼくの一番はいつだって、いつだって兄さんだからね?」
    「・・・ありがと、一彩。愛して・・・」

    燐音が弟の言葉に返事をしようとした時、入口の方からかたりと音がした。二人がばっとそちらを見ると、こちらを覗く緑色の瞳が四つ。
    「やだ、バレちゃいましてよ」
    「やだ、バレちゃいましてだわ」
    「・・・忘れモンか」
    「一彩くんにバイト代返却まとめてするよーって言いに来ただけでーす」
    「あ、ありがとうゆうたくん」
    一彩はさっと燐音から立ち退き、自身のカバンから財布を探し始めた。燐音はなんだか変なところを見られてしまったな、と学校で話し始めてしまったことを後悔した。入口からぱたぱたとひなたが駆け寄ってくる。ぐいとひっぱられ耳を貸す。
    「一彩くんね、学校じゃいっつもお兄ちゃんのことばっかりなんだよ」
    「ふぅん」
    「もう!だからね、一彩くん、あ」
    言葉途中でひなたはひょいと燐音から離れた。燐音は催促するようにひなたを見た。しかし、いたずらっ子のような笑みを浮かべたひなたは何も言わずにゆうたと手を振って去ってしまった。一体何を言おうとしてたんだろあ、と燐音は首を傾げる。そこにぐいと腕を引っ張られ、燐音は体勢をくずして弟に抱きしめられるような形になった。
    「ちょ、」
    「兄さん、何か言われた?」
    「え? いや何も、お前が俺の事ばっかり話してるって言われただけ・・・」
    「本当に?」
    「本当だよ! なんか言おうとしてたけど、逃げられたし」
    「・・・そう、ならよかった」
    一彩の腕から開放された燐音はなんなんだ、と弟を見た。夕日の逆光であまりよく見えないが、そこには頬を少し赤くした一彩が、見たことの無い笑みで立っていた。



    ///


    「それでね、」
    夢ノ咲学院からの帰り道、一彩はご機嫌によく喋っていた。座学の話、体育の話、部活の話。校内アルバイトや、学院内のライブイベント。それは叱られた教室を出てから始まり、止まることはなく続いている。燐音はそれに時折相づちをうちながら、ぼんやりと聞いていた。
    年明けの寒空は、すっかり夕日が落ちて星を浮かべている。吐く息は白く、一月の寒さを視覚で訴えた。ダウンのポケットに手を突っ込んで、もう少し着込んでくればよかった、と燐音は後悔した。スマートフォンが告げる滅多にない場所からの電話に気が急いてしまい、薄手のトレーナーにそのままダウンを羽織っただけだったのだ。びゅうと吹く風に、思わず身を縮ませる。一彩はふとおしゃべりをやめ、兄を見やった。

    「兄さん、そういえばその格好寒くないのかい」
    「アァ? んなのどうでもいいっしょ。ほら早く帰ろうぜ。それともファミレスでも寄るか?」
    「兄さんと食事は是非したいよ! けれど、その前に兄さんだ」
    一彩はそう言うと、自身の首に巻いていたマフラーを手にかけた。止める間もなく、燐音の首にくるりとマフラーを巻く。暖かな弟の体温と、そこからふわりと香った弟の匂いが燐音の鼻をくすぐった。幼い頃から慣れていたはずのそれは、すこし変わっているように感じた。混じっている人工的な香りはきっと柔軟剤か何かだろう。燐音は弟が一人の人間になってしまったような、複雑な感情を覚えた。

    「ウム、これで寒くないだろう?」
    「ん、ありがとな。お前は寒くないの」
    「これくらいは平気さ…っくしゅ」
    「オイオイ、ホントかァ?」
    言ったそばからクシャミをしだした一彩の頭を、燐音は撫でた。記憶より随分と高くなったその位置に、思わず笑みがこぼれる。それを見た一彩は、ぶすりとした様子で燐音を睨んだ。
    「なんだい兄さん、笑うことないだろう。別に平気だよこれくらい」
    「はは、成長したなって思ったんだよ。俺がいた時は頭の位置こんくらいだったろ?」
    燐音はそう言って、自身の腰あたりで手をひらひらと示した。あからさまに低いその位置に、一彩ははっきりと不満を示す。
    「そんなわけないだろう! 僕はその頃十二だったんだよ!?」
    「そうだったかァ? じゃあこんくらいか」
    次に示した膝下の位置に、今度こそ憤慨した一彩は勢いよくその手を取って、威厳を示すように自身の胸下まで持ち上げた。しかし、その手をぎゅっと握ったまま、動かない。燐音は弟の様子に、何か気に触れてしまったか、と顔を覗き込んだ。端正な顔を悩ましげにひそめた弟は、心配そうな感情を隠さないまま、口をゆっくりと開いた。

    「兄さん、こんなに手が冷たいよ」
    「冷え性だしな」
    「手袋を持っていたはずだ」
    「あー、いらねぇかなって」
    「いや、違うね。・・・ごめんよ兄さん。やっぱり不安にさせてしまったんだね、今日のこと」
    「・・・そういう訳じゃねぇよ」

    潜めた眉を戻さないまま、一彩は一度兄の手を離した。自身がつけていた手袋を外し、ぶらりと垂れた兄の手をすくいあげ、両手ではさむ。その指先へゆっくりと息を吐き、自分の体温が兄へ移るようにと祈るように優しく力を込めた。

    一彩の暖かな体温は、燐音を優しく溶かす。燐音は弟の行動に、心まで暖かくなるのを感じた。なんて優しい子なんだろう。伏せられた弟の瞳のまつ毛が青い虹彩と交じっている。その景色に、燐音は静かに瞳を閉じ、幼い頃を思い出した。
    小さな一彩も、昔同じことをしてくれたのだ。冬に抜け出した時、興奮して街の様子を語ろうとした燐音の手を取って、「冷たいよ」と言った小さな弟。柔らかくて小さな手ではなくなってしまったが、今目の前にいる一彩は確かに弟なのだと、燐音はそう感じた。匂いが変わっても、身長が変わっても、大切な弟だ。燐音は暖かな気持ちを覚えながら、「ありがとな」と一彩に言った。

    「これくらい、別にいいよ。気づかなくてごめん」
    「俺が慌ててただけっしょ」
    「やっぱり慌てさせてしまったんだね」
    「ま、教室でも言ったけど、安心もしたんだから気にすんなって」
    「う、あまり納得は行かないのだけど・・・。仕方ない」
    諦めたように一彩はため息をついた。そして当たり前のように燐音の手を取り、コートのポケットへと一緒につっこんだ。その行動に、燐音はぴたりと体を固まらせる。なぜ、同じポケットに入れる必要があるんだ?
    「兄さん?」
    ころりと首を傾げた一彩は、足を止めたまま動かない兄を見た。握った兄の手は細い。絡めるようにして握り、ぎゅうと力を込める。はっとした燐音が、戸惑うように声を上げた。
    「な、なんでコートの中に俺の手までつっこんだの」
    「え? その方が寒くないよ。あいにく手袋をふたつも持ってないんだ」
    「そりゃ大抵の人は持ってねぇと思うけど、いや、あのな、兄弟でもこういう事しないの。つか誰に習ったんだよ」
    「クラスメートから借りた少女漫画、という作品だよ」
    「えぇ、つまり恋愛モノじゃん。いい? こーいうのは好きな人にすんの」
    「兄さんのこと、僕は愛してるよ?」
    「あー、そういうんじゃなくてさぁ、てか、あー、くそっ、もう、今回だけだぞ」
    「教えなくていいのかい?」
    「あ? いいよクラスメートに習え。そういうのは同年代に聞いた方が早いっしょ」
    「・・・そう」

    はいはいとあきらめ顔でそっぽを向いた燐音に対し、一彩はこっそりと微笑んだ。絡めた指に力を入れなおす。歩きながら、一彩は兄が踏み込まなかったことにわくわくした気持ちを覚えた。
    借りた少女漫画のワンシーン。片思いの男子生徒が、先輩の手をコートのポケットに入れるシーンだ。それに恥ずかしがった先輩が、「こういうのは」と恋愛を語る。男子生徒はそれを聞いた上で告白して・・・。その先はまだ借りていないから分からない。しかし、現実は告白しない開になってしまった。漫画通りにはならなかったちょっぴり残念な気持ちと、心の奥底を語らずに済んだ安堵感が一彩の中をぐるぐると駆け回る。一彩はそのギャンブルのようなわくわくと鼻歌でごまかしながら、遠回りしていた道からはずれ、セゾンアベニューへ続く道へと足を向けた。


    ///


    「いただきます」
    「いただきます」
    ふたり手を合わせて、箸をとる。ファミリーレストランで少し早い夕飯を食べることになった燐音は、お味噌汁に橋を入れる。白味噌がぶわりと舞い上がるそれに口をつける。少し熱いが優しい味が舌の上を通る感覚に、燐音は思わず頬が緩んだ。
    「はぁ、やっぱいいなぁ」
    「美味しいね」
    「外寒かったし、体に染みるぜ」
    「うん、分かるよ」

    一彩は定食のカキフライへ箸を向けた。さくさくと聞こえる衣の軽い音が、燐音の食欲を誘う。燐音は自分が頼んだ天ぷら定食から、エリンギをひとつ摘むと、天つゆを軽くつけて口に運んだ。つゆを吸ってしっとりした厚めの衣とエリンギの肉汁がじゅわりと溢れる。かさましにも見える衣は燐音の好みではないが、それでも一定の美味しさを約束してくれるファミリーレストランはいいものだ。

    燐音は手元にある鶏肉の天ぷらをひょいと一彩の皿へと移した。
    「え、兄さん食べないの」
    「ちげーよ、その代わりにこれ貰うから」
    そう言って燐音は齧られて半分になったカキフライを自身の皿へと移した。一彩はえっ、という顔をしてそれならと言った。
    「こっち食べなよ、それは僕の食べかけだ」
    「天ぷら多いからこれでいいっしょ」
    「しかし、食べかけは」
    「俺がいいって言ってんの。ここ衣が少し分厚いんだよ」
    燐音はなんでもないようにカキフライを食べた。カキの濃厚な味とやっぱりちょっと分厚い衣に、まぁファミレスなんてこんなもんだよな、と燐音は納得しながら咀嚼する。向かいの一彩は食べられたカキフライを見て諦めたのか、鳥の天ぷらをひょいと掲げた。
    「天つゆがほしいな」
    「どうぞ」
    燐音が差し出したつゆに、一彩が控えめに天ぷらをつける。そのままぱくりと天ぷらをかじり、一彩はにこりと笑った。
    「美味しいね、つゆもいい塩梅だ」
    「安定した美味しさだよな」
    燐音はそう言いながら、漬物をつまんだ。白いご飯と一緒に食べれば、塩分が強いそれとご飯がよく合う。そのまま二人は会話をすることも無く、もくもくを定食を食べた。
    ファミリーレストランは混んでいて、家族連れや友人同士の笑い声が響いている。故郷ではありえなかったような喧騒に包まれながら、二人は静かに食事をすすめた。


    「ふぅ、食べたな」
    「そうだね、美味しかった」
    燐音はそう言いながら、定食についていたコーヒーを啜った。すっかりお腹はふくれて、燐音は今日が無事に終わったことにほっとした。お互いに今後の仕事や寮の話をしていると、ふと燐音のスマートフォンがなった。
    「おっと、電話だ。……、メルメル、どうした」

    そのまま燐音は一彩から距離をとるようにして会話を始めた。こそこそと話す燐音の目つきは真剣で、仕事の話をしているのだろう、と一彩は推測をつける。
    しばらくは大人しく待っていたのだが、長引く会話に一彩はすこしずつ奥底がムカムカしはじめた。
    久々に兄を独り占めできたのに。浮かび始めたその考えに、一彩の理性がグラグラと揺れだす。昔ならきちんと律することが出来たその感情は、今日一日で爆発しそうだった。それもこれも、年末のアルバイトのせいだ、と一彩は内心舌打ちした。
    いたずらな双子とやらかした事実を兄に知らされるとわかった時、一彩は頭から冷水を浴びたような気分だった。先生のお叱りを受けながら、兄が到着するまで気が気でなかった。嫌われたっておかしくない。だって今までの自分はこんなことなんてしたことなかったのだから。成績を維持して、仕事もちゃんとこなして、兄に良い印象を持ってもらうように頑張ってきた。それを一瞬で無に帰すような事態に、思わず自身を呪った。
    それでも嫌われたくないからと必死に謝れば、兄は「安心した」と笑ったから、一彩は訳が分からなくなって兄に迫ってしまった。その訳を聞いて一彩は気が抜けた。兄は一彩に思い出を沢山持って欲しかったから嬉しかった、らしい。一彩はその言葉に安心して、そして自分の一番は兄であると伝えようとしたが、それは上手く伝わらなかった。それを手助けするようにこそこそと耳打ちするひなたに、大丈夫だからと視線を送り、再び二人きりになってからぎゅうと抱き寄せた。ものは勢いだと、帰り道にもそれらしい行動をしてみたが、兄は特段期にした様子はなかった。

    結局何も伝わらず、こうしてファミリーレストランで夕食になっているのだが、それも電話がなってしまったことにより打ち切られている。一彩は長い仕事の電話に、肘をついて兄を見た。長引いている会話は、どうやら今度のライブについてのようだ。予算だ会場だなんだと話し込む兄の眉がどんどんとひそめられる。そのうちイラついたように上着を手にしたから、一彩は反射的に兄の足を蹴った。
    「ッあ?…あ、いや今弟と飯食ってて、…どうしたひい、」
    スマートフォンを離してこちらを向いたその瞳に、赤い髪の自分が映る。一彩は勢いのままに身を乗り出してその唇へキスをした。
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