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    torinokko09

    @torinokko09
    ♯♯一燐ワンドロシリーズはお題のみお借りしている形になります。奇数月と偶数月で繋がってますので、途中から読むと分かりにくいかもです。

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    POIPOI 42

    torinokko09

    DONE五月5週目「かわいさ」
    朝のまどろみがあなたにもやをかけてくれたから ぱちり。燐音は眠りから目を覚ました。頭上の時計は午前五時、いつもなら燐音が起床する時間だった。じんわりと汗をかいた体に不信感を覚えて、胸元をくすぐる感覚にあぁと思い出す。
     一彩が泊っているんだった。やけに熱い体温はこのせいか。燐音の胸元にしっかりとくっついて寝ている弟は、まだ起きる気配がない。もともと地方の仕事からそのまま燐音の部屋に来たのだから、疲れていて当然だろう。燐音もそれを理由に泊まらせた。ぐるりと首だけを回して窓を見る。カーテンの隙間から光が漏れていて、外はもう朝であることを告げていた。
    起きなくては。朝ごはんの支度をして、仕事の準備をせねばならない。燐音は焦っていた。つい先月、Crazy:Bとして大きな仕事が舞い込んできたのだ。現時点で知るのは燐音とHiMERUだけだった。今月末に行うライブにてファンにも知らされる『全国ツアー』の文字は、燐音たちにとっても寝耳に水の事態だった。なぜそんな話がCrazy:Bに持ち掛けられたのか、燐音はHiMERUと探らねばならなかった。いい話には何か裏があるものだ。ささいなことでも、それは知っておかなくてはならない。燐音は自分に舞い込む仕事の重さにため息をついた。
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    torinokko09

    DONE6月3週目「視線」
    またお題ほぼ無視してるんですがその、オチのなにそれが視線ってことでここはひとつおねがいします。
    まもりがみ「あった」
    一彩は自室の奥にしまい込んでいたダンボール箱から、古ぼけた木箱を取り出した。色あせた木彫りの彫刻が施されたそれを優しくなぞる。幼い頃、燐音が一彩へくれたものだ。あの頃は繊細な彫刻だと兄の才能を羨ましがったものだが、今になってみれば、年相応の不器用さが見て取れた。ベッドサイドに座り、ゆっくりと開ける。中から古い布を取り出して、一彩は懐かしい気持ちになった。

    燐音が故郷を出るまでずっと使っていたもの。ヘアバンドの大きさに畳まれたその布は、中に小さな焦げ付いた布片が縫い付けられている。華やかな着物を思わせる花模様の布片は、母親の形見だ。

    一彩を産んですぐ亡くなった母親は、朗らかな女性だったらしい。父は石仏のような人で物事を語らないが、その分母が話す。天城家はそうやって団欒をしていたのだと、兄から聞かされていた。何を聞いても答えてくれ、分からなければ調べようと兄の手を引く。家事も従者に混じってこなし、父のそばでまつりごとの手伝いをする。母が笑えば場が明るくなるし、あの父ですらうっすらと笑みを浮かべる。一彩は思い出せないくらいには父親の笑った顔を見た事がなかったから、きっとそれだけ素晴らしい人だったのだろう。父が心を許すほどに、素敵な女性だったのだ。
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