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    torinokko09

    @torinokko09
    ♯♯一燐ワンドロシリーズはお題のみお借りしている形になります。奇数月と偶数月で繋がってますので、途中から読むと分かりにくいかもです。

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    torinokko09

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    「夕焼けの境界線」
    去年の夏か秋かに診断メーカーのお題で書いたもの。もうメディアも埋もれたと思うのでちょっと改訂して再アップ

    ##一燐

    兄弟での仕事を終えた頃だった。外での撮影で、テーマは「兄弟の取り合いデート」だったか。一人の女性を取り合って、兄弟がデートバトル。内容は別に一から考えた訳では無いが、それぞれ案を出し合って決めたコースを撮影していった。

    『ほら、これは貴方によく似合いそうだ』
    『いやいや、かわいいアンタにはこっち♪』

    なんて吹き出しがつく予定の写真をパシャパシャと撮っていき、おおよそ半日かけて特集用の写真を集めていく。一通りの撮影を終えて、最後は夕日の綺麗な展望台で、手を『貴方』へと差し出す。何度かポーズを変え、OKのサインがでた燐音はふぅと息をついた。

    「お疲れさま、兄さん」
    「おう。おまえもおつかれ様」

     一彩ら手渡されたコーヒーを片手に、乾杯と軽く紙コップをあわせた。ほどよい温かさの甘いコーヒーを啜りながら、燐音は今日のことをゆっくり思い出した。
     兄弟の取り合いデート。女性からして、兄弟から言い寄られるのは嬉しいのだろうか、と燐音は疑問を抱いた。どちらを選んでもその後の付き合いは続くのに、この展開は泥沼すぎないか。深く考えてはならないのだろうか。女性誌はコラムを書いたりする際に読んだりするが、こんなことは今まで書いていなかった。燐音は首を傾げて、兄弟でモデルや俳優をやっている人もそんなにいなかったはずだから、こういった特集が組めるのがネタ切れせずにいいのかもしれないと考えを改めた。

    そんな燐音の様子を見て、一彩は声をかけた。

    「兄さん?疲れたならバスに戻ろう」
    「大丈夫っしょ」
    「何の考え事?」

    一彩は展望台のへりに手をつきながら、首を傾げて燐音を見つめた。大きな瞳は、青い透き通った海のようで、純粋そのものだ。燐音は、これがどうしても自分と同じ血でできたものとは思えなかった。夕焼けの光に照らされ、美しい美術品のようだ。
     この瞳が、昨夜は実の兄に対して情欲に燃えていたなど誰が想像するのだろう。燐音は、心配そうな顔をしている弟の頭をよしよしと撫でた。

    「どうでもいいことっしょ」
    「なんだろう。考えてみても?」
    「おーおー、すきにしろ」

     燐音は湯気が出なくなった真っ黒なコーヒーを見つめながら、自身を再び暗い思考の海へと落とした。
    きっかけはいつだったか。ささいなことだった気がする。酒の勢いか、それともライブ後のランナーズハイか。一夜の過ちを侵してからずぶずぶとつづく夜の関係は、しかし心地よいものだった。なにせ、燐音は実の弟に恋心を抱いてしまったのだから。いつからか、あの赤い髪に、青い瞳に、そして折れないまっすぐな意思に対してほの暗い感情を抱いていた。
     それに気づいた時、自身が恐ろしくなった。こんな誤った関係はよくない。いつか、いつかはこの関係を終わらせなくてはならない。この雑誌のように、将来は弟も恋人を作り、甘いひとときを過ごすのだろう。

      撮影時の弟を思い出す。優しげな顔つきでカメラを見つめているのを、燐音はずっと後ろで眺めていた。その瞳を自分だけに向けて欲しい。だけれど、それは叶えてはならないものだ。諦めるべきなのに、一彩から向けられる情欲に燃える瞳が、捨てるべき恋心を卑しく支えていた。忘れたいのに忘れられない。2人しかいない兄弟ならば、死ぬまでずっと縁は続くだろう。どれだけ細くしようとも、生まれた時から繋がったこの糸は切れることは無い。恋心を抱いてしまったこの身には、その糸が嫌で嫌でたまらなかった。やめられずに未だ続けている夜の関係のせいで恋を捨てることが出来ない。アイドルを諦めて一彩から隠れたところで、性懲りもせずまた追いかけてくるだろうから兄弟の縁も切れない。
    小さな頃からどこにいても弟には居場所がすぐばれた。里を出て、広い世界に身を投げてもあれは自分を見つけてしまった、と燐音は無意識にため息をついた。アイドル事務所なんていくらでもあるのに、そのなかでESという組織をみつけて自分の前に姿を表したその胆力には素直に感心したのを覚えている。

     燐音はずず、とコーヒーを啜った。こんな暗い気持ちはいつになったら捨てられるのだろう。
      明るく空を染める太陽の熱が、ゆっくりと地平線に近づきながら燐音の頬を刺す。燐音はまた重いため息をついた。

    「・・・フム」
    「ンだよ」
    「なにかしら良くないことを考えていたことはわかったよ」
    「とりとめもねーことだって言ってるっしょ」
    「いや、違うと思う。・・・僕は頼りにならない?」
    「は?」
    「4歳も下の僕では頼りにならないのかな、兄さん」

    こちらを向く一彩の瞳が真っ直ぐに燐音をつらぬいた。

    「小さな頃から、いつも兄さんがリードしてくれたね。こちらにでてきてやっと、兄さんに恩返しが出来ると思っていたんだけれど」
    「十分してくれてるよ、おまえは」
    「そうかな?ならば何故、兄さんはそんな顔をしているんだい」
    「どんな顔だよ」
    「寂しい顔だよ。僕まで辛くなる。今日のお仕事、兄さんとできるから楽しかったんだけれど。兄さんはそうじゃなかった?」
    「まさか。すごく楽しかったよ、まさかお前とアイドルできるなんてなァ」
    「本当?そうならよかったよ。ならば、原因は別にあるということだね」

    一彩はうん、と一人考え込む仕草をした。別に何も考えなくてもいいのに、と燐音は思ったが、そのまま弟の好きにさせた。

    「・・・昨夜のことかな。抑えたつもりだったのだけれど、きつかった?」
    「・・・いや、大丈夫っしょ」
    「動揺したということは、昨夜のことで間違いないということだね」
    「ちげぇって」
    「ならば、この関係についてかな。デートは兄さんとではなく、架空の女性としていたのだから」

    一彩はズバリと言い当てた。燐音は内心ドキリとしながらも、悟られないように平静を装った。

    「僕は今日一日ずっと考えていたんだ」
    「・・・何について」
    「兄さんに、誰かパートナーにしたい人ができたと言われたらどうしようって」
    「・・・」
    「今の関係を、終わらせたくないよ」

      伏せられた瞳は寂しいと訴えていた。
    燐音は小さく、そうかよ、と呟いた。夜の相手ならば自分でなくともよいはずだ。自分に固執するのは、小さい頃からの刷り込みだろう。この世界に出てきてまで、自分に執着するのはそれが当たり前になっているからだ。それがいつかなくなるまで。それまでは、都合のいい関係でいたい。しかし、それが弟にとってよくないものであることは確かだった。
      燐音は溜息をつきながら諭すように話した。

    「終わらねぇことはねぇよ。なんにでも終わりは来るんだ」
    「・・・」
    「やめよう、一彩」
    「・・・嫌だ」
    「一彩」

    燐音は咎めるように声を出した。夕焼けはとうとう空の境界線から下へと落ちようとしている。今が境目だ、と思った。どちらからはじまった関係かもう覚えていない。もしかしたら自分からだったのかもしれない。自分勝手な提案に、自虐のように燐音は笑った。

    「・・・兄さん、笑わないで」

    一彩の泣きそうな声に、燐音は思わず顔を上げた。一彩のほうへ顔を向けきる前に、頬にキスを落とされる。弟の瞳は切ない気持ちを隠してなどいなかった。

    「僕は、やっと両想いになれたと思ったのに」
    「・・・え、」
    「もうこのまま離れたくないよ」

    燐音は目を丸くして一彩を見た。その透き通った海の中に自分が写っている。いま、一彩は何と言ったか。
     一彩はやっと気づいたの、と言いたげに目を細めた。

    「兄さんのこと、愛してるんだよ」

    あははと笑いながら、一彩は燐音から目を逸らし落ちゆく夕日を眺めた。つられて燐音も水平線へと目を向ける。もう少しで太陽は完全に沈むだろう。赤と藍の混じった空はほの暗くなっていく。
    沈む世界とは反対に、燐音の心は明るく晴れ渡っていた。なんだ、同じ想いを抱いていたのか。自分のことばかりで、俺は何を見ていたんだろう。繋がった糸は赤かったのだ。
    燐音は愛の言葉に答えるべく、半身をぴったりと一彩にくっつけた。なぁ一彩、とこそこそ言えば、嬉しそうな瞳で弟はなぁに、と返してきた。

    「俺も、・・・」




    @@@


    「おー、でてんじゃん」
    そう言って燐音は事務所に届いていた検品用の雑誌をぱらぱらとめくった。同じソファに腰掛けていた要がひょいとのぞきこむ。
    「あぁ、兄弟デートなんでしたっけ」
    「取り合いデートな」
    中程にあった特集ページ。それぞれのちょっとしたインタビュー記事と、1日かけて撮影したデート写真。楽しそうに街を練り歩くページに、燐音は感心した。
    「やっぱセンスだよなぁこういうの」
    「プロの仕事ですから、変なものはだしませんよ。…おや」
    「あ?これ、」
    「なんや、仲がいいところも取られてるやんか」
    「桜河」
     ひょいとソファの背もたれから覗き込んだこはくが、きらきらと笑った。ニキも隣から覗き込み、その締めに笑い声を上げた。
    「あはは、この締めならやっぱ『兄弟』デートじゃないっすか」
    「そういうつもりはねぇよ」
    「そう見えますよ」

     デートの最後。ぴったりと肩を並べて夕日を眺める兄弟のスナップに、『やっぱり2人がいちばん!』の文字。

    燐音はその言葉のチョイスに笑いながら、一彩へ見せるべくスマートフォンを取り出した。





    ///

    綺麗な夕焼け空の下、切なそうにほっぺにキスをされ、聞いた事のない真剣な声で「もうこのまま離れたくない」と言われて、お互い同じ気持ちだったことに気付くとりのこの一燐

    shindanmaker

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