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    torinokko09

    @torinokko09
    ♯♯一燐ワンドロシリーズはお題のみお借りしている形になります。奇数月と偶数月で繋がってますので、途中から読むと分かりにくいかもです。

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    torinokko09

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    ワンドロ「ハート」
    頭をひねらせこねくり回したけど、素っ頓狂な話になってしまった

    ハッと目を覚ました時、視界に入ったのは真っ赤なカーペットだった。その上質な素材に、燐音は首を傾げる。自分は弟と一緒に寝たはずだ。それも旧館の誰もいない部屋で。ここはどこだ?誰に運ばれた?それに、何故自分はCrazy:Bの衣装を着ているんだ?

    状況を把握すべくきょろきょろとあたりを見渡そうと顔を上げた時、頭上から声がした。
    「やぁっとお目覚めなのォ?」
    「へ? 藍ちゃ・・・え?」
    赤いカーペットの先、まるで王座のような大きく豪華な椅子に、床までつきそうな長いマントを羽織った藍良がいた。その頭にはハートをイメージした王冠をつけている。頬杖をついてこちらを見下す様はまさに女王様と言った雰囲気だった。

    はて、なにかパロディ番組か? ドッキリか? 燐音は最近のALKALOIDの動向を思い出すが、特にそういった動きは見られなかった。それに、パロディにしろ何にしろ、このセットはできすぎている。大理石のような真っ白で荘厳な空間に、これでもかとハートの装飾が散りばめられていて、それはいささか不釣り合いでもあった。

    燐音が訝しげに当たりを見回していると、藍良はそれが気に入らなかったのか、持っていた杖で派手に床を鳴らした。
    「女王様のおれに向かって愛称で呼んだ上に、俺を無視する気!? ますますムカつくんだけどぉ!」
    「え、いやそういう訳じゃ、」
    「じゃあ何!!」
    「いやこれどういう企画・・・」
    「はぁ!?」

    「女王様の呼びつけを無視するような奴の話など聞く必要はありませんよ、藍良様」
    「えっ、め、メルメル・・・?」

    隣からすっと登場した燕尾服姿のHiMERUに、燐音は絶句した。燕尾服自体はシックなデザインだが、それをぶち壊すようにハートがあつらわれているのだ。挙句HiMERUの頬にもハートのペイントがある。普段のHiMERUなら「これはHiMERUではありません」と断るような姿に、燐音は言葉を失うしかなかった。一体どういう企画なんだ。

    混乱する燐音をよそに、HiMERUは「メルメル」と呼ばれたのが気に食わないらしく、眉に大袈裟に皺を寄せてこちらを睨んだ。

    「そやそや、ラブはん・・・、失礼、女王様の言う事聞かんやつなんか処刑でええやろ」
    HiMERUの後ろからヒールを鳴らしてでてきたこはくは、何故かダブルフェイスの衣装を纏っている。もちろんその以上にもハートが盛られていて、燐音はおかしなメンバーの格好に困惑した。

    「処刑したら肉で汚れるじゃん。ま、血が赤いのはいいんだけどォ」
    可愛らしい格好で、普段なら言わないような恐ろしいことを口にする藍良に、燐音は大人しくこの奇っ怪な芝居が終わるのを待つことにした。触らぬ神に祟りなし、ここは様子を見守るのがいいだろう、そう考えた燐音の背中にずどんと衝撃が走った。その重みには覚えがある。

    「んじゃ、僕食べてもいいっすか!?」
    「椎名、そんなものたべるところもありませんよ」
    「えぇ?」

    燐音が首をひねってみれば、そこに居たのは派手なピンクと紫のシマシマな服を纏い、ぴこぴこと耳としっぽを揺らしたニキがいた。その口からはヨダレがだらだらとでていて、ぼたぼたと燐音の髪を汚す。いつもと違う光のない瞳とかちかちと鳴る尖った歯に、燐音は思わず身震いした。
    本当にここはどこだ。ニキの特徴的な姿に、ここがアリスをテーマにした舞台だと言うのはわかったが、しかし目的も何も分からない。

    燐音はニキから逃げようともがいたが、ニキはきゃははと笑うばかり。とうとうその口が開き、燐音の鼻先まで近づいた時だった。


    「待って欲しいよ女王陛下!」
    「ヒロくん。それにたっつん先輩も」

    ばんっ、と扉を開いて大股でやって来たのは、ALKALOIDの衣装を着た一彩だった。しかしその衣装はスペードではなくハートで飾られている。その後ろに控えている巽は控えめにハートが散りばめられた神父服を身にまとっている。この世界はハートに支配されているらしいな、と今更ながら燐音はこの奇っ怪な世界にため息をついた。

    「兄さんの・・・『それ』の処分はぼくにまかせてほしい」
    「なぁに、いくらヒロくんのお兄さんだからって、許されないことがあるんだからね!」
    「確かに約束の時間に間に合わなかったのは兄の責任だ。しかし目の前で処刑されるのを黙って見てはいられないよ!」
    「もう、いつも甘いんだからなめられるんだよ!」

    「女王様」
    一彩共に遅れてやってきた巽が、優しく藍良へ語りかけた。
    「ここはお慈悲を。何やら事情がおありのようですし」

    そう言って巽は後ろに控えたマヨイの背中を押した。最近発表された、派手な自身の専用衣装から何故か白い耳がぴこぴこと生えているマヨイがこちらを見る。その目はうるうるとしていて、しかし意思がきちんと感じられた。
    ぎゅ、と大きな懐中時計を握りしめながら、マヨイはおずおずと口を開いた。

    「その、そちらのお方は私が困っているところを助けていただいたのです。」

    燐音はその言葉に先週のことを思い出した。扉の前でうろうろとしてた所へ声を掛けた記憶がある。何でも忘れ物をしたが誰かに鍵を掛けられてしまった、ここはESじゃないから自由に入れないし、などと言っていたか。ESだったら鍵ついてても入れんのかよ、と思いながら、燐音はピッキング・・・ちょっとしたイタズラをほどこしてドアを開けてやったのだ。
    燐音は芝居であろうと今の状況を助けようとしてくれるマヨイに感謝した。

    「具体的にはぁ?」
    「お頭をいつもの様にこっそりと、いやたまたま見かけた時に私うっかり足を踏み外してしまいまして。それで木に引っかかっていたところを助けていただいたのです・・・」
    「あ、足踏み外して木に引っかかるってどこにいたのマヨさん・・・」
    「あは、いや、えへへ、ふふ・・・」

    マヨイのおかしな言動に燐音は焦ったが、藍良女王様はしぶしぶ納得したらしい。はぁ、とひとつため息をついて、びっと杖で一彩を指した。

    「もう! じゃヒロくん、ちゅーして」
    「は?」

    燐音は耳を疑った。藍良女王様は、今なんと言ったか。

    「ウム、女王様の仰せのままに」

    まてまてまてまて、一彩、はやまるんじゃない。皆がいるんだぞ! 暴れだした燐音に藍良はきっと睨んで、「公開処刑じゃないだけマシでしょ」と言い放った。

    いやいやいやいや、公開処刑の方がマシだ!
    是非とも俺の命を絶ってくれ! ちゅーってなんだ、ちゅーって。そこは犯すとか殺すとか言うとこじゃないのか!
    一六歳の可愛い処罰に、燐音はどうつっこめばいいのかもう分からなかった。女王様の言葉を聞いてふわりと宙に浮いたニキは「まぁ骨皮だしなぁ」と呟きながらHiMERUたちの方へふらふらと離れていく。なにが骨皮だ。てめぇを剥ぎ取ってやる!

    かつかつとブーツが近づく音に、燐音はおそるおそる首をひねって一彩を見上げた。一彩は静かにこちらを見下げている。やがて自身の前まで来ると、縛られた燐音の体をゆっくりと仰向けへ戻した。

    「兄さん」
    「ひ、ひいろ、たのむから、」
    「だめだよ。これは処罰だから。マヨイさんを助けてくれたとはいえ、女王陛下の命に背くことは命を絶つことと同義だ。生きてるだけ感謝しなきゃ」
    「いや、おかしいだろ、俺っち時間に遅れただけっぽいの、に、」

    一彩の両手が燐音の耳をかすめるように床につく。ゆっくりと近づいてくる弟の顔に、燐音の心臓が口からでそうなくらいに激しく動いている。
    ちう、と優しい音がした。優しく触れた弟の舌が、その隙間に入り込もうとする。それを固く口を結んで拒むと、一彩は一度唇を離し、小声で「舌を入れさせて欲しいよ、女王様は満足しないから」と言った。
    そう言われたって恥ずかしいのは仕方ない。ここは女王様だけじゃなくて、皆がいるのだ。自分は兄で、Crazy:Bの暴君を演じているのだから、こんなことに屈したくない。というか弟とキスだなんて。
    一彩は口を開かない燐音に焦れたのか、燐音の耳を舐め始めた。耳孔にねじこまれる濡れた舌に、燐音は思わず腰をひくつかせる。甘く立てられた歯に声を上げると、一彩は耳から口を離した。そして再び降ってくる唇に燐音は、







    「うわぁぁぁあ!!!!」
    「っ、なんだい兄さん!」

    がばりと勢いよく身を起こした燐音に、一彩はびくりと体を緊張させた。はぁ、はぁ、と荒い息をはく燐音はしばらく耳と口を抑えてきょろきょろと神経質にあたりを伺っている。一彩は挙動不審な兄の様子に、とりあえず落ち着かせようと背中を撫でた。
    「っひ!?」
    「え、に、兄さん? 本当に何があったんだい」
    「あ、いや、ええと、あは、」

    燐音はあからさまに一彩から目をそむけ、あいまいに笑いながらベッドから降りた。いつもなら起きてもしばらくは二人でベッドの中で過ごすのに。

    一彩は昨晩のことを思い出すが、特別なにかおかしなことをしたつもりはなかった。いつものように兄を抱いて寝たはずである。きちんとすみずみまで愛したし、兄も自身を愛してくれた。変わらない想いに幸せを感じながら寝たのだが。

    「なにかへんな夢でもみたのかい」
    「へっ!? あ、そうだな、変な夢だった。すげぇ変な夢だった」
    「夢は話すとみなくなると言うらしいよ。是非とも僕に話してみてほしい」
    「いや無理。絶対無理」
    「そう言われると気になるよ」
    「いやまじで無理。記憶から消したからもう忘れた」
    「記憶とはそんなに早く消去できるものでは無いよ」

    一彩はそう言って先程柄そわそわと部屋の中を歩き回る兄の手を取った。安心させたくてしたことだったが、兄はぱんとその手を振り払った。
    「あ、ごめ、」
    「そんなに嫌な夢だったかい?」
    「う、その、・・・」
    「一人にした方がいい?」
    「いや、一人にしなくていい。・・・・・・ごめん、動揺してるだけだから。心配させてごめんな一彩」
    「こんな動揺する兄さんを見るのは初めてだよ。水を飲みに行こう。落ち着くかもしれない」

    一彩は兄の手を引いた。大人しくついてくる燐音に、とりあえずは朝ごはんを食べて日常に戻ってもらおうと考える。
    たどりついたキッチンでハート模様のマグカップに悲鳴をあげる兄の姿に、一彩はまたその頭脳をフル回転させる事になる。
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