一景 陽は黒衣に馴染まないから、そこばかりが影となる。
相澤はベンチに腰かけている。木造りのそれはすこしささくれていて、その隙間を蟻が這ってゆく。
組んだ足のさき、金属がてらりと鈍く輝いた。靴はベンチの下にあって、脱ぎ捨てたまま転がっている。
義足の継ぎ目には熱が溜まり、うしなったはずの指先がきりきりと痛む。膝のあたりで痛覚をとどめることは最近になって覚えた。頭はしんとしたまま、どこかが痺れたようになる。
金属の足をベンチの上でぶらぶらとさせる。きょうは盛大だなとひとごとのように眺めている、と、どこかで遠く鐘の音がした。戦のさなかにありながら、そうしたところばかり学問の場らしさをとどめているのがおかしい。いまにも生徒たちがあちらこちらから現れてきそうな、けれどあたりは白日のうちに静かだった。
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