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    はねた

    @hanezzo9

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    はねた

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    ファ環+オル相前提のようなそうでないような、ファットさんと相澤先生の話を書きました。
    相澤先生の足まわりが苦手な方はご注意下さい。

    #hrak
    lava
    #ファットガム
    fatGum
    #ファ環
    fahrenheitRing
    #オル相
    orbitalPhase

    一景 陽は黒衣に馴染まないから、そこばかりが影となる。
     相澤はベンチに腰かけている。木造りのそれはすこしささくれていて、その隙間を蟻が這ってゆく。
     組んだ足のさき、金属がてらりと鈍く輝いた。靴はベンチの下にあって、脱ぎ捨てたまま転がっている。
     義足の継ぎ目には熱が溜まり、うしなったはずの指先がきりきりと痛む。膝のあたりで痛覚をとどめることは最近になって覚えた。頭はしんとしたまま、どこかが痺れたようになる。
     金属の足をベンチの上でぶらぶらとさせる。きょうは盛大だなとひとごとのように眺めている、と、どこかで遠く鐘の音がした。戦のさなかにありながら、そうしたところばかり学問の場らしさをとどめているのがおかしい。いまにも生徒たちがあちらこちらから現れてきそうな、けれどあたりは白日のうちに静かだった。
     欠けた視野の向こう、ふいと低い声がした。
     見やるさき、そこに男が立っている。
     金の髪が陽を浴びて眩しい。普段よりもずいぶんと痩せた、姿は戦況の過酷さをあらわすというのにそのおもてには飄々とした笑みがある。
     こんにちはと西の訛りで男は言った。
    「通りすがりの旅の者です」
     知らない間柄でもないから相澤もおうと返事をする。旅というほど呑気なものでもないだろうに、男はポケットに両手をつっこみぶらぶらとちかづいてくる。
    「なんや、片目片足って日本昔ばなしに出てくるこわい山神さまみたいやな」
    「たたら神だな」
    「妖怪博士か」
    「わりとありがちな連想なんだよ」
     この姿になってしばらくして、生徒たちのいくらかからどこだかの山の神の話をされた。神様と一緒なんてかっこいいですねと、励ましの言葉を懸命に探しただろう子らを不謹慎だと咎める気はなかった。不器用ながらも込められた情、この男も子どもたちと同じなのかと思えばすこしおかしくなった。
     こちらの意を知ってか知らずか、ファットガムはふーんと鼻を鳴らす。
    「なんや、カシコなとこアピったろと思ったのに」
     カシコ、と鸚鵡返しにし、賢いということかとしばらくして気づく。西の言葉はわかるようでわからない。
    「まあ、なんか外国の絵にもあるやんな、足かたっぽ利かへんおっちゃんたちがいっぱい描いてあるやつ、『跛行者』とかって、あれも神さんの一種みたいなもんらしで」
    「それは知らん」
    「よっしゃ、先生も知らんこと知ってるって俺立派なカシコやん」
     にかりと笑み、そうしてファットガムはこちらの前に立つ。みあげても顔まで届かないことはわかっていたから、その足のさきを相澤は眺める。サポーターで保護された、その膝に目がいくようになったのも最近のことだった。
     ファットガムの影が黒ぐろと石畳のうえ丸まっている。日が高い。そろそろ昼飯の時間やなと呑気な声が頭の上から降ってくる。今日なに食おうかなと言う、そのついでのようにファットガムは言葉をひとつつけ加えた。
    「べつに死なれんで生きとるわけとちゃうやろし、神さまなんてならんくてええくない?」
     その顔を見あげる気はやはり起きなかった。明朗闊達なふりをして、この男はひとの機微にめっぽう聡い。かつてだれも手をさしのべなかった子どもは西にさらわれて、気づけばずいぶんと立派に育っていた。
     頭の隅にちらりとよぎるものを、けれど相澤は追わないことにする。
    「親切だな」
     そう言えば、ファットガムの笑う気配がした。
    「環泣かさんといてほしいなってそれだけや」
     あいつ身内の幅広いねんとぼやくように言うから、仕返しとばかり相澤は肩をすくめてみせる。
    「おまえの話だろ」
     まあせやねんけどな、という、そこにどのような表情があるのかは見ずともわかった。
    「俺の話や」
     俺こんなんやし、とファットガムは自分の腹をぽんぽんと撫でるようにする。
    「体重以外は重うならんようにしよと思っとってんけどな」
     困ったもんやでと言いつつ、ファットガムはその場にしゃがみこむ。大きな体が丸まって、金の瞳がこちらを見あげてくる。木々と日の匂いに混じって、やわらかなひとの気配が顕つ。
    「重うてかなわんわ」
     膝のうえに頬杖をついて、ファットガムはにいと笑みかけてくる。
    「先生もようけぶらさげとってたいへんやな。そんだけあったらちょっとくらい増えても変われへんやろし、ついでに俺のぶんも一口ひっつけといてや」
    「……素直に心配してるって言ったら覚えておいてやらんこともないがな」
    「そんなんおもんないやん」
     いやですー、と鼻歌まじりに言いつつファットガムは立ちあがる。ついでとばかりこちらの顔を覗きこんで、ひょいと口元をさししめしてくる。
    「先生あんまし笑わへんよな」
    「だから何だ」
    「いや、ヒーローはどんなときでも笑えって俺らの世代わりと刷り込みやん。かっこええなーってめっちゃ鉄則みたいなとこあるやん。なのにわりといま一番お膝元みたいな感じの先生がビタイチ笑わんのって、正妻の余裕かなって」
    「三十路手前ただの超肥満体になりたければいつでも言え、俺の個性は健在だ」
    「うわ、こっわ」
     あははと笑ってファットガムは踵を返す。俺職員室に用事あんねん、と言い置いて去ってゆく、その背を相澤は眺める。
     足の痛みは消えずに、けれどその熱のなかひそりと混じるものがある。一口が重いんだよと呟いた、その声は届くことはなく白日のうちにまぎれていった。
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