Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    NANO

    @bunnysmileplan1

    置き場
    もしくはデ④推しさんの名前でメディア検索するとだいたい出てくる。

    ⚠⌚裏🐼
    ⚠passは一話のキャプション

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🐼 🐼 🐼 🐼
    POIPOI 34

    NANO

    ☆quiet follow

    進撃の巨人パロ(二巻第九話・補給庫奪還作戦)
    D4とノバス、彼らがあの世界線にいたら…という自己満足。
    妄想。捏造。改変。

    心臓の音が聞こえる「貴様ら罪人は本来死刑に相当する塵以下の存在だ!」
    「その命をもって己の罪を償え!」
    「心臓を捧げよ!!」
     威勢のいい掛け声とともに大勢の人間が足を踏み鳴らす。
     あの時隣にいた連中のほとんどはもうこの世にいない。頭数が徐々に狭まって少数精鋭の班を形成していく。
    『罪人兵』 重罪を犯した者に課せられる刑のひとつが兵として巨人と戦うことだった。
     世間はその刑罰を悪人を淘汰できる手段として相応しいと思っているのかもしれないが、実際はその逆だ。
     絶対的な捕食者である巨人を相手に、最狂で最凶な悪人だけが生き残る。
     強ければ強いだけ生き残る。
     どんな生き方をしてきたかなんて関係ない。
     勝者しか生きることは許されない。
     この世界は残酷だ。
     
     
     巨人に壁を突破された大惨事。巨人を食い止めようと出陣した兵士達の多くは壮絶な戦死を遂げた。
     名もなき兵士達の命を代償にしながら、最重要任務である住民の避難は後衛部隊によりようやく完了。
     最前線で生き残っていたのはまだ実戦経験の少ない新兵や訓練兵ばかりで、目の当たりにした地獄の光景に誰もが満身創痍だった。そうして待ちに待った撤退命令が出たにも関わらず、彼らは一様に屋根の上で立ち往生していた。
     ガス切れだ。立体機動装置の要。ガスが無くてはどこにも逃げられない。
     頼みの綱の本部にはすでに巨人が群がり、数体は補給室に侵入している。
     八方塞がりとなり、補給班は戦意喪失。任務を放棄し、本部に籠城してしまった。
     見放された訓練兵達は絶望に直面しながらも、しかし足掻くことを止めなかった。
    「俺達は仲間に一人で戦わせろと学んだか!?」
     多くの犠牲を出しながら何とか本部まで強行突破した訓練兵達は、生き残っていた補給班とともに補給庫奪還を試みる。
     
     その生き残りの中に、一般兵とは異なる黒い隊服を着た者達がいた。
     
     
     補給室を彷徨う巨人は六体。どれも動きを見るに通常種。サイズも三~四メートル級で奇形もなく平均的な個体だが、武力に乏しい今の訓練兵達にとっては充分に脅威だった。
     巨人に破壊されていない階層に集った面々は作戦会議を始めている。本部内で見つかった物資はそう多くはない。憲兵団が保管していた鉄砲は本来巨人には効かない武器だ。
     言いようのない不安が立ち込める空気の中、訓練兵達は奇妙な静けさで装填作業を続ける。
    「鉄砲が巨人相手に役に立つのか…?」
    「無いよりはマシだと思いますよ」
     新兵からの不安げな疑問に、毅然と答えたのは阿久根燐童。罪人兵に属する彼は、この状況でも冷静そのものだった。
     黒い隊服を着た罪人兵達は調査兵団と並ぶほどの戦歴を持っている。三メートル級の巨人など今更経験値にもならない。
     しかし、本部を脱出しようにも、あの高い壁を登ろうにも、まずはガスを手に入れなければ何も始まらない。
    「この程度の火力でも、巨人の視界を奪うことは不可能ではありません」
     補給庫奪還に向けて阿久根が出した作戦はこうだ。
     銃撃態勢を整えた一団がリフトを使って補給庫の中央に降下。
     捕食に集まってくる巨人達の顔面に向けて発砲し、一時的にでも巨人の視界を奪う。
     そして発砲のタイミングに合わせて、天井に隠れていた精鋭陣が巨人の急所であるうなじに切りかかる。
     機動力がない現状、これは一回しか通用しない作戦だ。
     六人が六体の巨人を一撃で同時に仕留めなくてはならない。
     誰か一人でも取り逃せば、巨人に自由を許せば……全員死ぬだけだ。
     
    「能力的に成功率の高い人間がやるべきでしょう」
     阿久根の進行により選出されたのは以下六名。
     谷ケ崎伊吹
     有馬正弦
     時空院丞武
     阿久根燐童
     山田一郎
     波羅夷空却
    「たった六人に、この場にいる全員の命を預けることになりますが……」
     見取り図を示しながら作戦を伝えた阿久根は、周りに集まっている精鋭達へと視線を上げる。真っ先に頷いたのは一郎と空却だった。
    「どうせこのまま篭城しててもいつか死ぬんだ。だったら全力を尽くして、やれるだけやるしかねえよな」
    「全身全霊を捧げない者に勝機はなしってな。任せとけ!」
     二人は絶望に飲まれそうなこの状況でも目に強い光を宿していた。
     前向きにことを進めようとする若者の勢いに、嘲笑を含んだ声が水を差す。
    「おいおい正気かてめえら」
     訓練兵達の視線は一斉にその声の主に向けられる。批難に満ちた眼差しを一身に受けた罪人兵は、それでも態度を変えることなく射に構えて続けた。
    「俺たちがお前らの為に本当に命懸けで働くとは限らねぇーだろ。底辺どもがむしゃむしゃ喰われてるうちにとんずらかましたほうが生存率高そうだしなぁ?」
    『罪人兵第四班』多くの訓練兵が彼らの名を知っている。死刑よりも重い刑罰を科せられた犯罪者。世間から外れて生きる者。
     調査兵団とは打って変わって、罪人兵達はいくら巨人を倒しても名誉は得られず、ただその悪名だけが不気味に知れ渡るのだ。
     有馬は押し黙る訓練兵達にさらに現実を畳み掛ける。
    「そのリフトに乗ってる連中を俺らがわざわざ助けてやる意義があんのか? 任務を放棄して籠城してたような奴らもいんだろ? そんな腰抜け共はどうせ戦場に出てもまともに戦えずに喰われて終わんのがオチだ。だったら今ここで俺らの囮として喰われたほうがよっぽど未来のためになるんじゃねえの」
    「黙れよ」
     静まりかえった空間で凛と響く、低く凄んだ声。我慢ならないと声を上げたのは山田一郎だった。
    「俺達が兵士になったのはお前らの未来のためじゃない。人類の未来のためだ」
     まるでこの世の悪意すべてに宣戦布告するかのように、一歩前に出た一郎は速やかに抜いた刃の切っ先を有馬に向ける。
    「もしお前らが裏切ろうとしたらその時は、俺がお前らを殺す」
     沸々と沸き立つマグマのような一郎の憤りに、しかし有馬は動じず「へぇ」と片眉をあげる。
    「俺らを殺れる? お前が? ずいぶんな自信だなぁ。さすが調査兵団ご希望の死にたがりは威勢がいい」
    「この状況でどこの所属かなんて関係ないだろ。お前らが何の罪で兵士をやってるかも今は関係ない。全員等しくここに生き残った命だ。それに、…」
     一郎は自分の腰にある立体起動装置をコンと叩く。空っぽで乾いた音がした。
    「お前らだってガス切れなんだろ。いくら歴戦連勝の罪人兵だってガスがなきゃ壁は登れない。ここから生きて帰りたいなら全員で協力して戦うしかねえはずだ。疑心暗鬼を煽って何の意味があんだ。そんなくだらねえことをしてる暇は、俺たちにはねえんだよ」
     まさにぐうの音も出せないほどの正論だった。真っ当な正しさに不愉快に顔を歪ませる有馬を見限って、一郎は未だに決心がつかず怖気づいている仲間達を振り返る。
    「悪い。みんな、協力してくれ」
     襲撃を担当する六名以外はリフトで巨人の囮になる。失敗すればただ喰われて終わり。それは事実だ。この作戦には全員の命が懸かっている。その責任の重さを、一郎はよく分かっていた。
    「ここにいる誰一人も、俺は死なせたくない。必ず全員でここから生きて帰るんだ」
     心細く銃身を抱えている面々に、一郎は一人ひとりを見渡して心の底から言う。
    「全員で帰ろうぜ。胸張って先輩達に「俺らだってやれるんだ」って言ってやろうぜ」
     正義。人望。熱意。すべて持っている強い人間の言葉だ。揺るがない光は沈んでいた弱気な心に微かな希望を灯す。
     やれるだけやろう。その熱は徐々に広がって、今この場にいる全員を奮い立たせていた。
     
     
     作戦は決まった。
     一方的に言い負かされたような形だが、罪人兵達にはもう何も言い返すことはない。士気が高まった訓練兵達をどこか冷めた位置から眺めるだけだ。
    「……くそが」
     こっちは完全に悪役だ。忌々しげに呟く有馬に、時空院は軽く笑って肩をすくめる。
    「ここは大人しく彼らに従いましょう」
     鉄砲の装填とリフトの準備に勤しむ訓練兵達の様子を横目に、罪人兵達は任された襲撃に向けて刃の調整を始める。
    「良い配役にしましたね」
     燐童のそばに立った時空院はスキットルを大きく傾けて中身を飲み干す。あぁと恍惚に喉を鳴らすが飲んだのはウイスキーではなくガムシロップだ。
     慢性的な物資不足の中、甘味料は貴重品。彼のミッション報酬はいつもこれに決まっていた。
    「僕はより成功率の高い人間をと進言したまでですよ」
     とんだ狸だ。とぼけて小首を傾げる燐童に、時空院はにやんと口元を歪ませる。
    「実際あのサイズの巨人ならば我々だけでも充分に対処できます。ですがその後、この環境下で罪人のレッテルを持つ我々が穏便にガスを分けていただくことは難しい。そこで作戦に山田一郎と波羅夷空却を加えることで、ああして無法者の罪人兵でも制御できる人間がいるから命を預けても安心だと思わせることができる。そもそもの作戦立案者はその罪人兵だというのに……」
     手のひらの上と知らずに踊らされる青少年達を可哀想にと嘆いてみせる時空院の微笑みは、少しも慈悲が感じられない。燐童はその不気味な笑みに付き合って、やれやれと白状する。
    「集団を引っ張る役回りは僕らには向きません。適材適所というやつです。案の定有馬さんが噛みついてくれて助かりました」
     聞こえていた有馬はあからさまに機嫌悪く舌を打つが、燐童は意に返さずに鼻で笑った。
    「だって見てくださいよ。さっきの一件であっという間に集団の中心は彼ですよ」
     そう言って、集団の中にいる一郎を軽く顎で指す。作業している面々に声をかけて回る一郎は、四人にはどこか遠い世界の主人公のように見えた。
    「谷ケ崎さん」
     谷ケ崎伊吹はこの本部に到着してからずっと、ただじっと山田一郎の挙動を目で追っていた。他は一切目に入らないのか、燐童の呼びかけにも応じない。
     無意識に爪を噛んでいる谷ケ崎の視界に、燐童は腰を折って入り込む。ようやく目が合った。人当たりよく微笑みかければ、爪を痛めつける悪癖は治まった。
    「谷ケ崎さん、間違っても今は山田一郎のうなじを狙ってはいけませんよ」
    「……分かってる」
     
     
     リフトの用意と装填が整ったと号令がかかり、襲撃陣も持ち場へと移動を開始する。
     時折外から巨人の足音や振動が響くが、まだこの建物を潰すには至らないようだ。
     両手に刃を持った六名は階段を下りていく。先頭を行く一郎の隣には空劫が陣取って、罪人兵達が近づけないように警戒しているようだった。これは良くない傾向だと燐童は釘を刺す。
    「互いに協力する以上、成功したら僕らにも補給庫のガスを等しく分けてもらいますよ」
    「もちろんだ」
     一郎はそう頷いてから、最後尾をぽてぽてと気だるげについてくる谷ケ崎にも視線を向けた。
    「それでいいよな?」
     先程から一言も発さずに話を聞いているだけの彼には班長の腕章がついている。特に指揮を執ったりしているようには見えないが、……実力で得た称号なのだろうか。
     だとしたらその称号は「罪状の重さ」なのか「巨人を倒した数」なのか……一郎には知る由もない。
    「……分かった」
     利害の確認さえも無視されるのかと思ったが、少し独特のタイミングで返事があった。
     じっと一郎を見据える白眼は不気味なほど真っ直ぐで、まるで静かに銃口を向けられているような気分だった。

    ――……

     言い知れぬ緊張感の中、リフトに乗り込んだ一団は補給室内を慎重に偵察する。
     巨人の数は六体のままだった。増えてはいない。
     ここまできたらやるしかない。このまま作戦を続行する!
    「落ち着け…!まだ十分に引きつけるんだ…!」
     一歩、また一歩と巨人達はリフトへ近づいてくる。巨人が足を踏み込む度にその振動が地面を揺らし、建物を揺らす。
     訓練兵達は体を芯から震わせる恐怖に懸命に耐えてその時を待った。限界まで迫った巨人達の顔面へ、その無慈悲な眼孔へ、銃口をぴたりと揃える。
     不自然な角度で首を曲げて近づく巨人のうめき声を、人間が放つ銃声が許さなかった。
    「撃て!!」
     一斉に引き金を引いた。四方に向けられた大勢の銃身から花火のように火花が散って、命中する散弾は巨人達の顔を粉々に破壊する。
     その発砲音と同時に、天井に隠れていた六名は梁の上を駆けて思いっきり宙へと飛び出す。それぞれが最も力を発揮できる体勢で巨人の急所目掛けて刃を振るい落とす。

     勝負は一瞬だった。

    「っう…!」
     燐童が担当した巨人は六体の巨人の中で一番肉付きが良かった。叩き込むように振り落とした刃がその肉に入った瞬間、燐童はすぐに察した。
    (ダメだ…っ)
     小柄な燐童ではいくら体重を乗せた一太刀でも巨人のうなじを抉りきれず、急所を捉えることが出来なかった。むしろ厚い肉に刃が捕らわれてバランスを崩される。
     それぞれが巨人を仕留めて無事に着地する中で、燐童はガン!と強い衝撃で肩から地面に落下する。出来る限り受け身はとったつもりだが、筋肉の内側に響くような鈍い痛みが走った。
     倒れたままではいられない。勢いよく落ちた身体を転がして何とか体勢を立て直す。刃は半分から折れてしまっていたが、即座に持ち手を握り直して敵に低く身構える。
    これは巨人を相手にした動きではなく、対人戦闘の基本だった。意識せずとも身体が勝手に動いていた。
    「!」
     しかし負傷した巨人は自身を襲撃した燐童には見向きもせず、目の前の空間を探るように闇雲に手を振り回していた。知能が低い巨人は触れたものを反射的にぐしゃりと握る。それは散弾を撃ち尽くした銃身だった。
     不意に銃を掴まれた訓練兵の一人が、そのまま引きづられるようにリフトから転落してしまう。極度の緊張から身体が固まっていて、銃を手放せなかったのだ。
     不安定な着地をしていた燐童のことは、咄嗟に有馬が首根っこを掴んで柱の影に回収していた。乱暴に引き寄せて身を隠させる。
     目を潰され、背中に深手を負った巨人は白い蒸気のような煙を上げて瞬く間に傷を修復していく。人間から奪い取った銃は糸くずのように投げ捨てて、蜘蛛みたいに腹這いになって頭から訓練兵に突進していく。
    「うわあああああ!!」
     腰を抜かした訓練兵に、バックリと大きく口を開けた巨人の顔面が容赦なく迫る。粘ついた唾液の音までハッキリと聞こえる距離だった。
    「!?」
     その瞬間、巨人と訓練兵の間に飛び込んでいく影があった。自分のターゲットを仕留めて着地してすぐの、現場に最も近い位置にいた谷ケ崎だ。
    「谷ケ崎さん…!」
     燐童は信じられないと声を上げる。
     即座に「あのバカが」と舌を打つ有馬が威力の高い前装式銃をホルダーから抜き、銃口を巨人に向けた。谷ケ崎が駆け出した瞬間には時空院も刃を構えてカバーに入る態勢をとっていた。が、次に視界に入った人影を見て、二人はそれ以上の援護はしなかった。
     谷ケ崎と同時に動いたもう一人の兵士。這いつくばって突進する巨人の背に飛びかかった山田一郎が、そのうなじを刃で捉えていた。
     うなじに致命傷を受けた巨人は、同時に顔面にも大きな損傷を負っていた。谷ケ崎が振るった刃が巨人の下顎を綺麗に削ぎ落としていたのだ。
     顎を失った巨人は人間を間近にしても最後の最後で噛むことが出来ず、最期の捕食は叶わなかった。
    「…………」
    「…………」
     絶命した巨人はじゅわじゅわと音を立てて蒸散していく。吹き上がる蒸気と戦闘で舞った粉塵の中で、谷ケ崎と一郎の視線は交差した。
     交わされる言葉はない。共闘したとは思えないほど、互いに鋭い眼差しだった。やけに緊迫した二人の空気を感じながらも、時空院は穏やかに声を掛ける。
    「伊吹、怪我は?」
    「……問題ない」
     一郎をまるで家族の仇のように射抜いていた悪意のある眼差しは、そこでようやくふと和らぐ。もう一郎に興味はないのか、「燐童、大丈夫か」と柱の影へ仲間の無事を確認に行く。
    「てめぇマジで直感で動くのやめろや」とギリギリと間近に迫って凄む有馬に叱られる谷ケ崎の姿は、罪人というよりは世話の焼ける弟のようだった。
    「全体、仕留めたぞ!」
     空却がリフトに向かって晴れやかに声をあげた。
     危うくはあったが、とにかく作戦成功だ。
     訓練兵と罪人兵は誰一人犠牲を出さずに、巨人から補給庫を奪還した。
     リフトから固唾を飲んでいた若い訓練兵達はこれで脱出できるぞと一斉に歓声をあげる。
     しかし喜んでいる暇はない。建物の外にはまだまだ巨人が彷徨いているのだ。
    「おい何浮かれてやがる、さっさと補給作業に移行しろ!」
     厳しい有馬の声が空気を締めた。訓練兵達はその兵長のような一喝にヒッと背筋を伸ばす。慌ててリフトを降りてくる少年少女達の様子に、有馬はやれやれと息をついていた。だからガキは嫌いなんだよ。


     訓練兵達が続々とガスの補給作業を進めていく中、罪人兵達四人は燐童に先導されて倉庫の奥に集まっていた。
    「…おや?」
    「んだよ、あったんじゃねぇーか」
    「四本か……」
     積みあがった物資の陰にひっそりと置かれていた木箱。開けると中には使われていない立体起動装置のガスが四セット眠っていた。
    「これしか見つからなかったんですよ。とっとと逃げても良かったんですが、どうせなら群がった巨人を掃除してからのほうがラクだったでしょう」
     悪びれもせず、てへっと愛くるしく笑って見せる燐童に、三人はじとりと目を据わらせる。こういう時の一言は有馬が担当だ。
    「だったら失敗してんじゃねえよ」
    「さあ!僕らも脱出しましょう!」
    「おいコラなに誤魔化してんだ」
     ぺしりと頭を軽く叩かれても、全く痛くはない。手加減されている。結局甘やかしている有馬の隣で、時空院はやけに整った綺麗な笑顔で小首を傾げた。
    「いっそのこと腕の一本くらい折れていたら良かったのでは?」
     門外漢の診断ではあるが、あの落下の衝撃も骨には異常がなかったようだ。無駄な心配をさせるなという意図の言葉遊び。からかい半分の緩い空気が流れていた。
    「ー…おい待てよ!」
     装備を整え、四人も脱出へと動こうとした時、背後から呼び止められた。振り返る前から声で分かっていた、山田一郎だ。背後には空劫も控えている。
    「なんだよ」と有馬が溜息混じりに問いかけても、一郎の力強い目は谷ケ崎を捉えている。
     どうやら用があるのは谷ケ崎に対してだけらしい。お呼びでないと察した三人は身を引いて、その場を谷ケ崎に譲った。


     何の用だと大人しく話を待つ谷ケ崎に、一郎は今更になって言葉に迷ってしまう。
    「……お前、なんで庇ったんだ…?」
     一郎にとっては、何の関わりもない訓練兵一人のために動いた谷ケ崎の行動が不可解だった。
    「?……別に」
     返ってくるのは要領を得ない単語のみ。納得できずに強い口調で詰め寄ってしまう。
    「~俺がカバーに入らなかったら、お前も殺られてたんだぞ…!?」
    「…………」
     そこからの奇妙な沈黙に、周囲で控える三人も不思議に思って谷ケ崎を見やる。何を思案しているのか、谷ケ崎はただ静かに一郎の表情を見つめていた。
     じりじりと焦れったく返事が待たれる中、ようやく真っ直ぐに答えを口にする。

    「俺はそうは思わない」

     それは、どういう意味だ? 
     一郎は微かに眉を寄せる。「お前の手を借りるまでもなかった」という意味なのか……? それにしてはあまりにも敵意のない声色だ。あんなに終始不穏な目でこちらの挙動を監視していたくせに……。お前は一体何者なんだ。
    「は?……意味が分かんねえよ」
    「別に分からなくていい。…行くぞ」
     困惑している一郎にもう答えが返ってくることはなかった。やり取りを遮断した谷ケ崎は、静観していた三人に声をかけて去っていった。



    「あいつら、自分達の分だけガス確保してやがったみてぇーだな」
    「……あぁ」
     全員のガスが補給できたのは、彼らのおかげだ。多くの命が罪人兵に救われたなんて、きっと町の人間達は誰も信じないだろう。
     去っていく谷ケ崎の背を神妙に見つめている一郎の表情に、空却はふむと首を傾げる。
    「一郎、あいつと何かあったんか」
    「いや、正直何も身に覚えがねぇーんだよ……」
     それにしてはあの白眼はずいぶん一郎に執着していた。一郎が覚えていないだけで、きっと何かあったに違いない。
    「どうする? 追うか?」
     空却の問いに一郎は少し名残惜しく谷ケ崎の背から視線を外した。彼らとは反対の経路を向いて、陽射しへと歩き始める。
    「補給班の奴らは戦闘に慣れてるわけじゃない。俺たちは出来る限り皆の援護をしていこう」
    「しんがりってわけだな。りょーかい」
     ニカッと笑った空却が一郎に片手を上げて拳を見せる。たったそれだけの仕草で、張り詰めていた一郎にはほっと柔らかい笑みが戻った。二人は信頼を込めた笑みで互いの拳をぶつけあう。
    「拙僧の命、親友を共に…ってな」


     こうして生き残った訓練兵達は無事に壁を登って帰還した。
     もう誰も助からないと大人達に見放されていたにも関わらず、自力で現状を打破し生きて帰ってきた。
    「ほんまよう帰ってきた…!子供らの援護には行かへんって命令が出てな、左馬刻が指揮官様を殴り飛ばす一歩手前やったんやで」
    「余計なこと言うんじゃねえよ」
     一郎と空却を迎えたのは先輩の碧棺左馬刻と白膠木簓だ。
     簓の尻に軽く蹴りを入れてから、一郎と空却の前に立った左馬刻は手厳しい上官の空気を放つ。
    「無茶しやがって……だがまぁ、」
     厳しさの中にも優しさが滲むその眼差しは一郎と空却をしっかりと見つめてから、フッと誇らしく笑った。
    「よくやった」
     まだ幼さが残る少年兵二人の頭に、左馬刻はぐしゃりと手のひらを乗せる。うんうんと同意して頷く簓も微笑んで二人を見守っていた。
     唯一信頼できる大人達から与えられるこの手の大きさが、その温かさが、今の二人にとって何よりも大きなものだった。

    ――……

    「結局、どういう意味だったんです?」
     時空院からの前触れのない問いに、谷ケ崎は目を瞬く。
    「?何の話だ」
    「あの時、山田一郎に「そうは思わない」と答えた真意です」
     あぁとようやく思い当たった。ずいぶん昔の話だ。壁の中で罪人兵として活動していた頃のこと。
     時空院の疑問はどうやら有馬や燐童にもあったもののようで、二人も視線こそ向けてはこないがこの会話に耳を傾けているようだった。
     目の前に広がるのはとてつもなく広く明るい景色だ。
     四人は微かに砂が混じったそよ風に吹かれている。鼻の奥にずんと残る強い潮の匂い。どこまでも続いているかのような壮観な塩水の大地。キラキラと太陽の光が反射する水面に目を細めながら、谷ケ崎はいつもよりずっと穏やかな声で答えた。
    「……例えば山田一郎がカバーに入らなくても、あの場にはお前らもいた」

     俺はもう知っている。

    「三人いれば、誰かが殺れただろ」

     思いもよらない言葉に、全員が微かに息を飲んで目を見開く。思わず視線が谷ケ崎に集まった。けれど当の本人は当然のような顔をして目の前の景色を眺めている。そのいつも通りの表情に、それぞれが敵わないと息をつく。
     どこか誇らしげに微笑んだり、わざとらしくそっぽを向いたり、そっとその背を手で支えたり。
     谷ケ崎の主張に賛同は返ってこない。けれど、否定もされはしなかった。残酷な世界でずっと抱え続けてきた一人の孤独はいつの間にか集まり、四人になっていた。誰一人欠けることなく、ずいぶん遠くまで来た。失ってばかりだった人生の結果としては上出来だ。

     しみじみとした空気を切り替えて、燐童は「さて、」と全員を振り返る。
    「ここからどうしましょうか」
    「行くあてはありませんねぇ」
    「はっ、そんなもんハナっからねえだろ俺らには」
     浜辺を寄せては返す波音。壁の中にいたら決して耳にしなかっただろう。今こうして肌で感じる外の世界には、もう正義と悪に境界線はない。
     三人の長閑なやり取りを聞きながら、谷ケ崎はゆっくりと目を閉じた。
    (このまま……)
    このまま世界が滅んだとしても、手に入れたこの絆はどうか幻ではないようにと願った。


    「谷ケ崎さん、起きてください」
     どこか遠くから燐童の声が聞こえる。目が覚める気配がする。
     ……そう、これは夢だ。
     寝る前に見た深夜アニメのせいでこんな夢を見ているんだ。
     目蓋を開けたらきっとそこは見知らぬ家のソファーの上。眠っている俺を燐童が覗き込んでいて、丞武はキッチンで手に入れたコンデンスミルクに目を輝かせ、有馬は窓辺で煙草を吹かしているのだろう。
    「そういえば変な夢を見たんですよ、僕らがものすごく巨大な人間と戦ってる夢で」
    「おや奇遇ですね、私もそんな内容の夢を見ましたよ」
    「夜中にあんなアニメなんか流してるからだろうが。夢見悪ぃ」
     三人の長閑なやり取りを聞きながら、谷ケ崎はゆっくりと目を開けた。
    「おはようございます、もう出発の時間ですよ」
    「朝食にホットケーキでも焼きましょうか」
    「んな時間ねぇっつってんだろうがよ」
     燐童。丞武。有馬。それぞれがまさに想像どおりの様子で、谷ケ崎の口元はふと柔く緩む。確かに少し物騒な夢だった。けれど不思議と心は穏やかだ。
     たとえそこがどんなに残酷な世界でも、四人でいるならその景色は悪くない。


    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    NANO

    DOODLE⚔ステ帰チョ編、情熱√からの二次創作
    え、魔王と鬼の共闘胸熱すぎん???
    絶対互いにその力量認め合ってるやん····でも憎しみ合ってしまったがために素直に仲良くはもうなれないやん·····でも絶対に互いに···っていうか信長様は顕如のこと好きじゃん····顕如と戦いたかったのに離脱されて「ヤツの無念が乗った刃、貴様には重すぎる」って信玄にわざわざマウント取るのなんなん???もう、仲良くしな????
    犬も食わない■ただのらくがき。願望。知識ゼロ。私が書きたいから書いただけ。なんも知らんけど、とにかくあのステ魔王は絶対に顕如さんが好き。
    今思い返すと孫一編でも孫一のこと気にかけて戰場にいる顕如に「今のお前とは戦わない」的なこと言ってたもん。好きじゃん。




    暴動は沈静化し、諸悪の根源であった毛利元就の軍勢は引いていった。
    被害を受けた民の保護や犠牲となった命を弔うのは顕如を筆頭に彼を慕う者達だった。

    集う門徒達に指示を出していた顕如は現れた信長の姿に手を止める。その様子で周囲を囲う門徒達も一斉に信長に気づき 総毛立つ。その中心で顕如が静かに錫杖を上げれば、それだけで門徒達はすぅと身を引いていった。
    信長は背後に従えていた光秀をその場に留め、単身ゆっくりと進み出る。その表情や姿勢に敵意はない。意図を汲んだ顕如も同じくゆっくりと自陣から進み出た。
    2213

    recommended works