永遠と刹那の狭間で:4.別れ4.別れ
富士山の頂上で龍脈を整えること。
それはあっさりと終わった。むしろ何も起こらなくてびっくりするくらいだった。
あえて言うなら自分の身体が浮くといった不思議な現象は起こったが、危険を感じることは一切起こらなかった。
今すぐの平穏は無理でも、少し先の平和に近づける。
そう七緒は信じることにした。
「じゃあ、みなさん、お世話になりました」
山頂付近の火口に現れた龍穴。
急ぐ必要はないかもしれないが、龍脈が整った今、いつ閉じてもおかしくはない。
七緒は五月、そして幸村とともに龍穴に飛び込むことにした。
「真田殿、息災でな」
同じ八葉とはいえつかえているものの関係上、幸村と意見がぶつかることがあった長政も、皮肉げな表情を見せながらもこのような言葉をかけてくれる。
一方、七緒はひとりの仲間の存在が気になった。
「ほら、大和も行こう」
龍穴に入る気がないのか、見送りする側である武蔵の隣に立っている。
このままでは大和が令和の世に帰れなくなる!
そう思って七緒はいつものように大和の腕をつかんで引っ張った。しかし、彼はびくともしない。それは男性であるというだけではなく、彼の気持ちの強さによる気がした。
七緒は大和を見上げると彼から思いがけない言葉が出てきた。
「俺、こっちに残るわ」
「ええー!?」
冗談かと思った。だけど、冗談を言えるような状況ではないことはわかる。
そして、いつもの淡々とした表情の中に堅い意思を宿した瞳があることに気がつく。
「ちょ、ちょっと聞いていないんだけど」
「だって今、決めたから」
「そんなあっさりと」
「でも、前から考えていたことだから」
ふたりの間に風が通り抜け、砂埃が舞う。
砂塵が目に入ったのか違和感を覚え目をつぶる七緒に優しい声が降り注ぐ。
「ま、何とかするから、心配するなって。その代わり幸村がいるから、問題ないだろ」
トレードってやつな。
大和はあっさりそう言い放つ。
幼なじみとの別れにしてはあまりに急なもの。
だけど、そんなところが大和っぽいのかもしれない。
すると、背後から五月が呼ぶ声が聞こえてきた。
「七緒!」
五月の声に反応すると龍穴が先ほどより小さくなっていた。
このままでは自分も令和の世に帰れなくなってしまう!
そのことに気づいたのだろう。幸村が七緒の手を掴み、龍穴に導いてくれる。
「では、みなさん、ありがとうございました」
想像以上に慌ただしい別れ。
だけど、愛する人とのこれからの生活に期待と不安でいっぱいな七緒は別れの余韻を満喫する間もなく龍穴をくぐり抜けたのであった。