Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    kanamochiko

    @kanamochiko
    もちこのポイピク倉庫
    書きかけはここに投げれば良いと聞いた。もしかしたらちゃんと書くかもしれない。メッセージやスタンプ貰えるととても喜ぶ(あと自分向けのメモ帳と吐き出しです)

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 😘 👍 💕 🍖
    POIPOI 16

    kanamochiko

    ☆quiet follow

    【声が聞こえる】
    現代AU竜仁
    ※土地情報分からないのでフィクションだよ

    竜三という男は実に心根の優しい男だ。みてくれこそ粗暴で人を剣呑な気持ちにさせるところがあるが、実際に関わっているとそうでもないことに誰もが気づく。その言動は不器用だが人の機敏に聡く気遣いができるし、子供や動物、お年寄りにも優しい。
    一度その人となりに触れれば自然と皆竜三のことを信頼する。何よりその隣にいることがとても俺を安心させた。

    「仁……?」
    「ああ、悪い」

    知らぬ間に物思いに耽ってしまい、竜三が話しかけていることに気が付かなかった。一言謝ると、「大丈夫か?」と聞かれる。
    竜三はこういうことに腹を立てたりはしないのだ。昔から俺は興味のあること、思いついたことに夢中になって周りが見えなくなる節がある。そんな俺に飽きもせずついてまわり、見守ってくれていたことを思うと、こいつの懐の深さが伺えるというものだ。
    「あ、竜三。コンビニに寄ろう、新商品があったはずだ」
    休日デートの帰り道、道すがらに見かけたコンビニに寄ることを提案する。手元のスーパーの袋をちらと確認しつつも、竜三は返事も聞かず先走る俺の後をついて来てくれた。

    僅かに増えた荷物を手に帰宅する。
    明日は日曜日。特に何をして過ごす予定もないが、家で静かに過ごす時間もまた心地よいことには変わりない。
    食事の用意を始めた竜三の背中を眺めつつ、俺は取り込んだ洗濯物に手をつけた。
    竜三はどうにも几帳面さにかける面がある。些細なことも器用にこなす癖に洗濯物だけは妙に手際が悪くなるのが少し可愛いなどと思う。だからいつも家事の割り振りはこうなるのだ。

    「……いい時代になったものだな」
    「?そうだな?」

    手早く洗濯物を片付け、用意された夕飯に手を合わせた所で竜三はぽつりと呟くようにいった。
    どこか悲しげなその声色が気になり、そっと竜三を見ると、その視線はどこか遠いところを見るようにテレビに向かって注がれていた。いつも通りの穏やかな食卓、栄養バランスまで考えられた一汁三菜の献立をちらと確認し俺は疑問符を浮かべた。
    竜三は怪訝な顔をする俺を軽く笑って、口の中の白米を咀嚼しながらまたテレビに視線を戻した。
    夕飯時のテレビからは賑やかな笑い声が流れ、若い女性タレントが舌鼓をうちながらその魅力を伝えていた。

    よく考えれば、竜三とは本当に長い時間を過ごしてきたものだ。幼少の頃より幼馴染として育ち、共に悪戯をして、いつだって傍にいた。性格があうとかそういう理由ではなかっただろう。寧ろそれは真逆で何度も喧嘩したし取っ組みあうことすらあった。それでもただその隣が心地よくて、何時しか離れ難い存在となっていたのだから不思議だ。惹かれあい、今も共にいることは必然か。
    ひょんな事からお互いの気持ちを知ってしまった俺達は当たり前のようにこれからの事を話し合った。

    「仁……」

    どこか不安げで落ち着かな気な竜三を引き摺るように家に連れていき、親の承諾を得たのはいいものの、頑固な伯父の反対を押し切って半場駆け落ちのようにこの地まで辿り着いた。ここ、"対馬"の地はなぜだか酷く居心地がよく、肌に馴染んだ。
    島に降り立ったときの暖かな風が全身を包む感覚は今でも忘れられない。来るべくしてきた、なぜだかそんなことを感じる程度には心地よく感じられた。
    これからどうしようか、僅かな不安が心を掠めた。けれども、きっと竜三が隣にいる限りは大丈夫だろうと。



    そういえば、あの竜三が酷く俺を拒んだ時期がある。
    この地に居を構えて幾日かした時、目覚めた寝床に竜三の姿がなく、慌てて着の身着のまま外にとび出た俺が見つけた竜三は顔面蒼白で、俺の顔を見るなりその場に崩れ落ちてしまった。腹を押さえ込み呻くものだから、「どうした、何があった」と尋ねたものの、頑なに口を閉ざし何も教えてはくれなかった。口を一文字に結び唇を震わせるその様子があまりにも苦しげで結局その後も追求できぬまま月日だけが過ぎていった。
    本当に様子がおかしかったのは一瞬だけで、次の日には竜三はけろりと何事もなかったように過ごしていたが、口数少なく背を向けて眠る竜三の背中ははっきりと俺の事を拒絶していた。正確に言えば、俺との接し方が分かりかねている、といった感じだろうか。
    しかしそんな日々は竜三の、「悪かったな」の一言で突然終わった。ぽかんとして、口をもごもごさせてはつぐみ、また開いて、閉じて、一人まごつく俺の百面相に竜三は乾いた笑いを漏らす。

    「なんだよ」
    「いや、竜三、……え、と」
    「……大丈夫だよ、悪かったな」

    どのような心境の変化があったのだろうか。こいつは肝心なところを教えない節がある。それでも目の前にいる竜三は見慣れた笑顔で笑っていて、それだけで自然と気持ちが落ち着き俺の頬も弛んだ。

    「ふふっ」
    「なんだよ」

    戯けるように肩を竦める竜三の姿はなんだか久しぶりで愛しくて、右手をそっと添えると、竜三の両手もまた俺の顔を包み込んだ。そして静かに唇を重ねる。薄く覗く視界には愛しい恋人の顔。小さく息を漏らし竜三の首に手を回し身を寄せると重なりはより深くなって俺を天にも登る気にさせた。
    暫くの間互いを確かめ合うように口付けて、身を離す。そしてそのままなし崩しに久しぶりに交わった。竜三が俺を呼ぶのがあまりに嬉しく、深い幸せに溺れるように気を失ったが、それでもあの時の竜三の背中と凍りつく様な表情は、澱となって今も俺の心の奥に姿を潜めていた。




    そうして月日が流れ幾度目かの秋を迎えた頃、いつものように同じ寝床で目を覚ました竜三がぽつりとほんとうに小さな声で呟いた言葉がある。

    「俺にはお前だけでいいよ……」

    その言葉の意味は分からなかった。ただ、何か嫌な夢でも見たのだろうかと思い、
    「俺もだ」
    と囁き返すと、竜三の大きな掌が俺の視界を塞ぎ、竜三の顔は見えなくなった。ただ、その手が微かに震えていたことが俺は何故か悲しく感じた。
    きっと、お前は何かに怯えているのだなーー
    掌で塞がれたまま瞼を静かに閉じて、その手を静かに包む。そしてそのまま静かに身を横たえた。少しざらついたその手の温かな闇に感じいるようにほぅ、と小さく息を吐けば、その手は静かに俺の頭を撫ぜた。
    その朝は、暖かいのに何処か寂しい、夕暮れの様な不思議な朝であった。



    俺たちの住む小さな古民家には、和室があって小さくはあるが縁側がついている。竜三はそこでぼおっと過ごすのが気に入りのようで、今日も自分の膝に頬杖をついて静かに目前の塀の片隅を見つめていた。
    俺がそれにそっと寄り添うように隣に座ると、無言で腰に手が回される。体をぴったりと触れさせて一心地つく。二人の間には穏やかな時間が流れていた。
    するとどこからともなく、子供たちのはしゃぐ声が聞こえてくる。そういえばもうすぐ下校時間か、と近くにある小学校のことを思いだした。楽しげで賑やかな笑い声は不思議と心を安らぎへと誘ってくれる。
    竜三もそうだったようで、こっそりと覗き見た横顔はいつもより穏やかなそれであった。

    「大丈夫だ」

    唇の動きで、そっと呟く。
    二人でいればきっといつまでも大丈夫なのだ。
    何気なく思い浮かんだその言葉は、俺の心に深く染み渡った。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭🙏❤❤❤❤❤❤😭😭👏💕🙏💯😭😭😭🙏🙏🙏💖💖💖💖😭💖🙏😭😭😭👏👏👏💞💞😭😭😭🙏🙏🙏👏👏👏💴😭💘🙏💘😭💖💯💴🙏😭😭😭😭
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works