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    感想文。自分語り大いにあります。
    完全なる趣味です。

    タイトル「推し燃ゆ」

    推し燃ゆ、を読んで 先日「推し燃ゆ」を読んだ。2021年10月25日のことだった。ひとまず、この文章はこの本についての感想文なのだから、一言感想を言いたいと思う。

     辛かった。ただそれだけだった。

     この本はどうしようもなく苦しむ一人の少女の話であり、私の話ための話でもあり、そして大切な人のいるあなたのための作品でもある。そして、この作品はとても胸に深い傷を残すかもしれない作品でもある。しかしその傷がなんなのか気がついた時、きっと自然に涙が流れるだろう作品でもある。

     2020年9月。私がこの本を購入した時だ。発売当初から様々な場所で話題をうんでいた今作だが、実はこの本の作者である、宇佐美りんさん(以下宇佐美りんと記す)は前作も、とても話題になっていた。もちろん、素晴らしいという意味で。
     その前作だが、宇佐美りんさんのデビュー作であり三島由紀夫賞も獲得した作品である。
     題名は「かか」。娘のうーたんとその母親のかかの話だ。(これもまた心にくるものがあるのだが、これは後日またお話させて欲しい。)
     宇佐美りんという作家はまだ作家としては若い年齢に入るのだが、本当に深い文章を書く作家であり。そして、家族の話を書くのがとてもうまい作家だと思う。今作も家族の描写が入っていた。

     さて、話を戻そう。今回、お話をさせていただく推し燃ゆというお話だが、これは主人公が推しているアイドルがファンの顔を殴ったという報道により、炎上することから始まる。そこから様々なことがあり、主人公が少しずつ壊れていくのだが。
     今作において、キーワードとなるのは「推し」「家族」「普通とは?」の三つだ。この三つが絡み合って解れて取れなくなったことがある人は、きっと私と同じように彼女と共に傷つくと思う。


     以下ネタバレを含む可能性があるため、注意をして欲しい。


     ①ひとまず、キーワードを解き明かすことから始めたいと思う。
     一つ目のキーワードは「推し」なのだが。
     突然だが、私には「推し」がいる。そして、その推しを彼女と同じように解釈をしているし、イベントがあれば足を運ぶし、なにかに取り上げられていれば録画をして何度も見るし、グッズも買う。ただ、彼女と違うのはそれがアイドルなのか漫画のキャラクターなのか、だろうか。
     アイドルの終わりは引退だと今作では描かれていたけれど、漫画の終わりは連載の終わりだ。ここの共通するところは、キャラクターもアイドルも私の目の前から消えるだけで、死にはしないことだろう。彼らは私たちの知らないところで生き続ける。
     時々、それはいいことな気がすることはある。自分が見えないだけで、彼らは辛いことを乗り越えながら、とびきりの幸せを抱えて生きていくのだろうから。
     ただ、それは同時にこれから彼らに起こる辛さに私たちは一緒に苦しむことは出来ないし、彼らに舞い込んできた幸せに一緒に喜ぶことも出来ない。彼の手助けは出来ない。推しとそのファンという関係だったからこそできたことが、出来ない。推しは私の知らない、推しとファンという関係も何も無い他人になる。なんと、なんと辛いことだろうか。彼らの人生に私たちは干渉も出来なければ見守ることも出来ないのだから。
     彼女は作中でも語られたように、リアコでもガチ恋でも夢女子でもなかった。だからこそ、彼女は推しの結婚に、引退に、動揺したんだと思う。彼女はファンとして彼を解釈してきたけれど、彼女以上に推しを見つめ続け、理解していく存在ができたことは彼女にとってどんな気持ちだったのだろうか。怒りではなかったと思う。でも悲しさでもなくて、悔しさでもなくて。それはむなしさにも似てて。でもきっと違う。そのくらい彼女は満たされていたし、飢えていたし、苦しんでいた。
     きっと私はまた彼女を小説の中でしか知らないから完全に理解なんかできないのだろう。人を思う時、人のことを考える時いつもこの課題にぶつかる。彼女も推しのことを考える度に、大切な人を理解したいと思う度に、大切な人を大切にしたいと思う度に、この壁にぶつかったのだと思うと胸が痛くなった。


     ②二つ目のキーワードは「家族」というものだ。
     私は現在夫と妹と猫の、二人と一匹の家族がいる。しかし、両親や兄たちとは小学校を卒業した後から寮を利用してたこともあり、両親とは十二年しか一緒に住んでいない。だから、私はあまり家族という関係に詳しくない。そんな私だからこそ、彼女を取り巻く家族という関係によけい苦しみを感じたのだと思う。
     彼女の家族は思慮深く、正しい人たちだと感じた。誰よりも彼女の幸せを願っていたし、何一つ間違いのあることを言っていなかったように思えた。それでも、彼女はその家族との生活に嫌気がさしていた。私も、こんなところにいては息ができないだろうと思った。
     正しさは正しさでしかない。正しさは世界を平和にはするかもしれないけれど、誰かの心を平和にする訳では無い。世界はいつも正しくないし、正しさを貫けば幸せになれる訳では無い。そして、人間はいつも正しくあることは出来ない。正義も正しさもひとつしかないわけではないから。
     彼女の家族はとても器用で強くてすごく優れた人達だったのだと思う。実際に彼女の母親はアメリカに行くことを、好きではない祖母のために諦めた。彼女の姉も彼女に叱りつけるだけでその怒りを沈めた。彼女の父親はアメリカで懸命に働き、そして学校を中退した彼女にも冷静に諭していた。
     彼女の家族は大人だった。だから、子供である彼女を責めたのだと思う。彼女は確かにもうすぐ大人になるべき年齢になるし、家族たちの行動はやはり間違ってなかったと思う。けれど、それは大人になった私だからこそわかるからで、子供の私はまるで理解できなかったと思う。子供は大人ではないから、大人の正しさを理解できないから。彼女は少しだけ子供だっただけで。それは良くないことだと彼女の家族は判断したようだったけれど、私はどうも彼女を責められなかった。私も子供のままなところが沢山あるからだった。
     一番近い他人が家族だと、誰かが言った。言い得て妙だと、今の私は思う。誰かと共に暮らしているのに、誰かと共に一緒に生きているはずなのに、それは個々でしかない。けれども、個々だと断定するには距離が近すぎる。だからこそ、思春期という多感な時期の彼女は、家族からの優しさに息が詰まって仕方ないのだろう。
     彼女が恵まれていたのか、どうなのか。私には判断はつかないけれど、それでもその時の彼女は苦しんでいた。だから私も、苦しくなった。


     ③最後のキーワードは「普通とは?」である。
     作中、彼女は自分のことを「普通ではない」と言った。私もそう思う。彼女は普通ではなかった。
     では、何が普通なのだろうか。普通が平均値ではないことは、ある程度の人生を送ってきた人間なら、きっとわかってくれると思う。私も、私の人生は普通では無いと思う。けれど、私みたいな人生を送る人はいないとも思わない。 周りのあの子も、その子も私のことを普通に幸せそうだと言った。私は否定はしなかった。
     普通は確かに存在する。平均値でも、基準点が決められてるわけでもなんでもないけれど、存在する。普通とは、誰かが決めた妥協点だ。
     彼女は、彼女が決めた妥当に達していない事実に普通じゃないという言葉を使った。彼女の家族は彼女がまだ妥当な位置にいると、妥当な位置に戻れると思ったから彼女の普通じゃないを否定した。多分、ただそれだけの事で。それだけの事が言葉にならなかったから、彼女は苦しんだのだと思った。



     推し燃ゆ、を読んで今私の中に残るものは、苦しさだった。私の一番好きな作品が連載を終えたあの日をこの作品はどことなく連想させる。あの時の感動と情熱と苦しさと悲しみと、それから少しだけの寂しさ。喪失感がめぐり、ご飯が美味しくなくて。いつもならどんな事があっても推しを見れば元気になれたのに、元気がない理由が推しなのだから逆効果もいいところで。多分、彼女も同じような立場だったのだと思う。
     今作は多分何度も何度も読み返すと思う。新しく何かを好きになって、大切にしたい誰かができて、それらが私の元から旅立っていく度に、読み返すのだと思う。それはそう遠くない未来かもしれないし、何十年とあとなのかもしれない。それでも私は、この作品から受けた苦しみと、少しだけの優しさを持って。
     今日も誰かを応援したいと思った。
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