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    左@萌え垢

    @hidarikikimoe
    お絵描き初心者のおじいちゃんです。御歳は20歳より上です。

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    左@萌え垢

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    太敦です。敦君が小虎化しています。

    #文スト
    takingACommunistStrike
    #太敦
    taetun

    そうして彼はミャウと鳴いた『彼が朝起きたら小虎になっていたので、ここに置いておきます』

     よろしくお願いいたします。自宅の扉に貼られた短い書置きには、そう書かれていた。それは女性らしくも達筆な字で、泉鏡花の書いたものであることを私は察した。
     そういえば、彼女とはまだ連絡先を交換していなかったか。私はそう思いながら、足元のそれを眺める。それは通販の段ボール箱に入れられており、暖の代わりか新聞紙が1枚上に乗せられていた。ミャウミャウと鳴く謎の段ボールの新聞紙をそうっと捲ってみれば、金色のくりくりとした小さな瞳が此方を見ていた。
     私の能力をもってすれば、一秒とかからず解決する問題だ。彼女もそれを解っていたから、私に彼を預けたのだろう。私であれば、彼の虎化は触るだけで、元の人間の姿に戻すことができる。そう、これは実に簡単な問題だ。

     みゃう、みゃう。ほーら、エノコログサだよ敦君。この時期、エノコログサ、通称猫じゃらしは大勢繁殖している。私は適当にそれを摘み取り、自室の中で彼と遊んでいた。
     何を考えたのか、私は小虎と化した彼を家の中に招き入れていた。慎重に慎重に、決して彼に触れることがないように、段ボール箱の端を持って。彼を自宅に招き入れた。

     彼、もとい敦君は頭脳まで、小虎化しているのか、その扱いはそこら辺の子猫と代わりがなかった。敦君は私の畳で爪を研ぐ真似をし、バリバリにしたかと思えば、今度は柱を登ろうとし、柱に真っ直ぐな白い線を痕にする。そして、みゃうみゃうと鳴きながら走り回る。ここは果たしてペット可物件だっただろうか。ふと、私はそんなことを考える。そして、のんびりと彼を観察しながら、ペットボトルの茶を優雅に飲んでいた。
     それにしても今日は暑い。気づくと、私はいつもの上着を着たままだったことに気が付いた。そりゃあ、暑いわけだ。私は上着を脱ぎつい、いつもの癖でそこらへんに放ってしまった。小虎がそれを見逃すはずもなく、彼は今度は私の上着に近づいた。
     すんすん、すんすん、かぷり。彼は私の上着を入念に嗅いだ後、『コレは安全だチェッカー』なるものが降りたのか、今度は私の上着で遊び始めた。

    「ぷっ、あはは!」

     彼は腕の部分がトンネルだとでも思ったのか、ずんずんと潜り込み、やがて袖の部分からひょっこり顔を出した。その姿はまるで、ふかふかの芋虫だ。私は虫を好まないが、彼なら大歓迎だ。

    「そんな君が好きだよ、敦君」

     きっと、この言葉だって今言ったところで、理解されることも記憶されることもないだろう。私が内に秘めている言葉。気づかないふりをし続けている言葉。今は、今だけは本人を前に口にすることを許してほしい。私は一体いつから彼に惹かれてしまったのだか。共に心中する相手として夢想するようになったのはいつからか。――それは、私にもわからない。

    「あっ、敦君駄目だよ!」

     いつの間にか私の袖の包帯が緩んでいて、彼はそれに惹かれてしまったらしい。彼は狩りのポーズをし、尻尾をふりふりとしたかと思うと、私が止める間もなく、私に向かって飛びかかった。

    ――しゅぱん。

     擬音にしたらそんな音だろうか。人間失格はきちんと発動した。けれどもこれは――

    ――私と敦君は唇に接吻をしていた。

     それも、敦君が私を押し倒す形で。私は目を見開いた。けれど、元の姿に戻った彼はもっと目を見開いていた。敦君は状況を理解すると、顔を真っ赤にし、押し倒した私を尻目に玄関扉から逃げていった。

    「あぁ、やっぱり心中するなら君とキスをしながらがいい」

     けれど、そんな自殺方法なんて存在するのだろうか。だけど、その答えを見つけるよりも先に、彼と共にあることを先ずは許してもらわなくては。私はそうして畳で大笑いするのだった。

    「ミャウ」

     よろしくお願いいたします。扉にはいよいよもって、それだけのメモ用紙が残されていた。私は段ボール箱を抱えながら、君もあの味が忘れられなくなってしまったのかい? そう、問いかけた。
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