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    kiri_nori

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    kiri_nori

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    誕生日の翌日の話。
    お題はメル燐ワンウィークドロライさんよりお借りしてます。

    ##メル燐

    HiMERUの誕生日 プレゼントでもらった本を読もうかと手を伸ばしかけたところでノックの音が聞こえた。同室の二人はそれぞれ仕事とサークルで今はいない。さて、誰だろうか。扉に向かいそこを開ければ立っていたのは天城だった。
    「メルメルおはよ~って閉めンなよ」
     閉めようとしていた扉が天城の手で止められる。寮の部屋にまで訪ねてくるとは珍しい。そう思ったが、やけに機嫌が良さそうなので変に絡まれるのも面倒だと見なかった振りをしたかったけれどそうもいかないらしい。このまま扉を挟んで攻防したところで部屋の前で騒がれる可能性の方が高い。ため息を一つ吐いて扉を開けた。
    「……どうぞ」
    「おっ邪魔しま~す! って、やっぱ部屋によって雰囲気も違うのなァ」
    「それはそうでしょう。しかし天城、部屋にまで来るなんて何か用事でも?」
    「あ~、かなっちから今日は朝から流星隊で撮影があるって聞いてて、日和ちゃんも、今からプリティ5でカフェに行く予定だね!って言ってたからさァ。メルメル今一人じゃんって気付いただけっしょ」
     HiMERUが一人だと知っていたうえで来たことは分かりましたが、答えになっていません。そう言葉を発する前に、部屋を軽く見渡した天城は「これがメルメルのベッド?」と訊いておきながらこちらの返事も待たずにベッドに腰掛けた。
    「せめてHiMERUの返事くらい待ったらどうなのですか」
    「え、俺っち間違えてた?」
    「いえ、そこがHiMERUのベッドなのは正解ですけど」
    「きゃはは、それなら問題は無いっしょ!」
     勝手にベッドに座るなと言いたいところだけれど、本当に、不思議と天城の機嫌が良くそちらに意識を割かれてしまう。普段であればパチンコで勝ってきたのだろうと考えているところだが、こんな朝から行って帰ってきたとは考えにくい。まず、開店しているかも微妙な時間だ。昨日だってHiMERUの誕生日パーティーにずっといてそんな隙もなかったはずだ。そして何より気になるのは扉の前に立っていた瞬間から右手を背中に隠して、何を持っているか見せないようにしていることである。
     すると天城がキョロキョロと何かを探す素振りをした。
    「天城の興味を引くような面白い物はありませんよ」
    「そうじゃなくてさァ、メルメルが昨日つけてたクマのぬいぐるみってどこにあンの?」
    「……ここにありますけど」
     天城が何の話をしたいのか分からないまま、ベッド横のサイドボードに置いてあったぬいぐるみを手に取った。天城が座った場所からは本に隠れて丁度見えなかったのだろう。
    「おっ、これがメルメルのぬいぐるみかァ」
    「昨日も見たでしょう」
    「それはそうだけどォ。今は特別なんだって」
     一体どういう意味なのか。訝しむ視線を向ければ天城は左手でベッドを数回叩いた。隣に座れということだろう。そもそも今座っている場所は天城ではなくHiMERUのベッドなのですが。……右手に隠している物を暴いてやろうか。ふとそんな考えが頭を過ぎりつつも素直に天城の左側に座った。妙に楽しそうに笑っている天城に毒気を抜かれたとも言える。
     座ったことで天城と視線の位置が同じになった。そういえば部屋に入れてから初めて正面から目を見た気がする。声色と言動こそ楽しそうだったが、それだけじゃなくてこれは緊張しているのか?
     そのことを問うべく口を開こうとした瞬間に天城の右手が動いた。目で追う前に唇に何かが押しつけられる。柔らかいがどこか硬さもあるそれの正体はすぐ分かった。満足したのかゆっくりと離れていくそれは天城が誕生日にもらって大事にしていたクマのぬいぐるみだった。しっかりと天城の名前も入っている。
    「へへっ、奪っちゃったァ」
     瞬きをした後に天城の行動の意味を理解する。ただ、単純に押しつけられた訳ではなくて、場所が場所だ。自然と指で自分の唇を触っていた。キスはしないと言っていた天城が直接ではなくとも行動を起こした。その事実に気付いた途端に首の後ろが妙に熱くなってしまったが、天城だって耳が赤いのが見えている。ああ、きっと、お互いさまなのか。
     天城が照れたように小さく笑う。
    「俺っちからのもう一つの一日遅れのプレゼントってことで、メルメルも奪っていいんだけどなァ」
     ぬいぐるみ片手に左手で自らの唇を指差すその姿に、俺は勢いよく自分が持っていたクマのぬいぐるみを天城の唇に押し付けた。このためにぬいぐるみの場所を探していたのかと気付いたのはもう少しばかり後である。
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