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    kiri_nori

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    メル燐。ズ!!の時間軸から翌年の夏の話。

    ##メル燐

    「……天城?」
     仕事の帰りに近道だからとタイムストリートを通り抜けようとすれば見覚えのある赤髪の男がブラブラと歩いているのが見えた。意識して声をかけようとする前に口から自然と名前が零れ落ちる。その声が届いたのだろう。その男はこちらを見ると、とっくに馴染んでしまった名前でHiMERUを呼んだ。
    「メルメルじゃん。なに、今帰りィ?」
    「そうですけど、あなたこそ何をやっているのですか」
     別にこの辺りで天城を見かけること自体はおかしくない。もう少し歩けば天城の行きつけにしているパチンコ店だってある。時間があるならばそこに向かえばいいのに、特に目的も無さそうに歩いていることが気になったのだ。しかも今日みたいに暑い日中に。
    「……散歩?」
     それが本当の答えではないことはすぐ分かった。そもそも自分自身の行動なのに疑問形にする意味がないだろう。小さく息を吐いて、深めに被っていた帽子を少し押し上げて天城の方に近付いていく。
     むわりとした夏の熱気に、雲一つ見えず日差しが降り注いでいる空模様。太陽に照らされて遠くを見ればアスファルトが揺れている。そんな状況の外で目的が無さそうにしている天城を無視することはできなかった。……天城の状態を確認する前から名前を呼んでしまっていた時点でこれは言い訳にしかならないのだけれど。
     近付いてみればどうやら顔色は悪くないようだった。顔色以外にもおかしなところは見えず、会う直前までどこか店の中にでもいたのかもしれない。とりあえず安心はした。それでもこのまま外にいることは許容できない。
     近くに寄れば天城はHiMERUの顔を見て何やら嬉しそうに笑っていた。別に元気がないように見えるわけではないが、この男はギリギリまで体調不良を隠そうとすることがある。どちらにしても炎天下の中で外にいて良いわけはないだろう。
     悩むことなく今被っている帽子を取ると押し付けるように天城の頭に無理矢理被せた。突然取るとやはり日差しが眩しく、少し目を細めてしまう。
    「メルメル何やってンの!?」
     目を丸くした後に自分が被せられた帽子を外して返そうとする天城の腕を掴んだ。ここで返されたら押し付けた意味がないじゃないか。
    「いいですから。それは天城が被っていてください」
    「いや、だっていつも紫外線とか日焼けがどうとか言ってンのはメルメルっしょ?」
    「そうですね。正直今も気になってはいますよ」
    「じゃあおめェが被ってろよ」
    「まあ、後悔はしていませんが」
     にこりとこれ以上の反論は受け付けないという風に笑顔を浮かべれば、天城は大きくため息を吐いて腕から力を抜いた。少なくとも押し付けた帽子は被ったままでいてくれるらしい。
     先ほど言った通り、帽子を無理矢理被せたことに後悔はしていない。していないが、暑いものは暑い。天城の腕を掴んだままだったことを手のひらから伝わる熱で思い出してそのまま歩き出すことにした。……こちらの熱は許容範囲内だろう。
    「メルメル? わざわざ手を引くなんてこのあっつい中俺っちをどこに連れて行こうとしてるわけェ?」
    「寮に帰ります。もちろん、せっかくHiMERUの帽子を貸してあげたんですから天城も一緒に帰るのですよ。特に急な仕事とかはありませんよね?」
    「ないけどォ」
     声から微妙に不満げな空気をにじみ出しているが、直接言ってこないため気付かない振りをした。手を振り払わないのだから天城だって寮に帰ることに不満はあるが嫌ではないのだろう。
     数歩ばかり進んだところでふと最初に訊きたかったことを思い出した。
    「そういえば、本当はこんなところで何をやっていたのですか。散歩だなんて嘘ならもっとそれらしいものにしてください」
    「別にそこまで嘘ってわけでもなかったんだけどなァ」
     へらりと天城が笑う。帽子を深めに被せたせいだろうか。瞳がよく見えなくて失敗したなと思ってしまった。
    「俺っちも何の予定もなくブラブラしてたわけじゃないんだぜ? 夕方くらいまでパチンコ打ってようと思って向かったンだけどさァ」
     なんだ、本当に向かっていたのか。けれど、太陽が上にある今の時間帯はどう考えたところで夕方なんかじゃない。
     続きの言葉を待っていると何故か天城の視線を感じた。
    「……店に入る直前でメルメルが来たときのこと思い出しちまって」
     歩いていた足を止めてしまう。そんなHiMERUにつられてか一歩先で天城も足を止めた。
     天城が思い出した。何を? HiMERUが来たことを思い出したと言った。話の流れからしてパチンコ店にだろうか。でも、わざわざその店にまで行った記憶なんて一度しか……。一度しか行ってない? それなら天城が思い出したのなんて一つしかないじゃないか。
     天城の正面に回り込んで帽子を瞳が隠れない範囲で少しだけ押し上げた。
    「昨年の夏のことですね?」
     HiMERUが目を合わせてそう問いかけると、スッと横に視線を逸らされてしまう。この動きは正解を言われて照れくさいのだといつの間にか分かるようになっていた。
    「……やっぱ今のナシ! 俺っちにも散歩したいときはあンだよ!」
     強引に話を終わらせると天城は先に歩き出した。唐突な言葉に一瞬呆気に取られてしまったが、振り払われはしなかった腕で半ば引っ張られるようになりながら天城の隣に並ぶ。少し早足になっている天城に合わせるようにこちらも歩く速度を上げた。あんなことを言われて話を終わらせられるわけがないだろう。
    「HiMERU相手にあのように雑な切り上げ方が通じると思っているのですか。いえ、HiMERUじゃなくてもさすがにごまかされないと思うのです」
    「メルメルならそんな俺っちの気持ちを汲んで話が終わったことにしてくれねェ?」
    「続きが気になるので無理です」
     分かりやすく天城がため息を吐いた。寮に着くまで無言を貫かれようと諦めるつもりはない。天城の会話の内容を予測できているわけではないが、他に人がいると話しにくくなる内容だろう。だから多分天城も気付いているはずだ。今喋った方が後で面倒にならないということに。
    「今回は話すまで諦めませんが、話すなら今の方が楽だと思いますよ」
     駄目押しとばかりに天城の背を押す言葉を選ぶ。どうすべきか迷っているみたいに息を飲む音が聞こえた。
     しかし、都合が悪くなると逃げたりするのに今日は逃げる気配がない。もしかして腕を掴んでいるからだろうか。天城ならこれくらいどうとでも出来るはずなのに。帽子を貸しているせいもあるかもしれない。まあ、どちらにせよ逃げないのならこちらとしても好都合だ。
    「…………」
    「え?」
     小さい声だったため上手く聞き取れず聞き返してしまう。
    「お前とこうしてもう一度夏が過ごせるなんてあの時は思ってもなかったンだよ!!!」
     投げ捨てるように言われたその言葉の意味を理解すると同時に、この暑さとは別の理由で赤くなっている天城の顔が見えた。
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