夕方「ぉおうっ!これが女王様が見る景色、ってヤツっスか?女王様と言うよりは、王様になった気分ス!」
「おいおい、はしゃいであんまり身を乗り出すなよ。落っこちるぞ?」
放課後、ラギーはトレイに連れられてハーツ寮の屋上へやってきていた。
傾きかけた日の光が眩しい。
「へええ……。ここから見る夕日はこんな感じなんすねえ……」
ラギーは眩しそうに、瞼に手をかざした。
「サバナ寮から見える夕日は、どんな感じなんだ?」
言いながら、トレイはラギーの隣に立つとさりげなく腰に腕を回す。
「どんなも何も……。そうっスねえ、考えた事ないなぁ。ただ……」
「ただ?」
「ばあちゃんの作る晩飯の匂いがするような気がするっス。あ~、腹減った……」
「はは……。ラギーらしいなあ」
トレイがクスクス笑っていると、
「大体、トレイさんがタルトを作りすぎたって誘うから、ここまでついて来たってのに、お預けなんスもん。そりゃあ腹も減りますよ」
ラギーが憮然とした顔で言い返した。
「じゃあ、タルト以外のものも用意するよ」
トレイは困ったように笑う。
「やりっ!なるべく腹に溜まるもので。あ、余ったのは持ち帰るんで、沢山作って貰って構わないっスよ?シシシ……」
嬉しそうに笑うラギーに
「沢山作るんなら、ラギーが手伝ってくれれば、もっと早く食事にありつけると思うぞ」
トレイはニヤリと笑って畳み掛けた。
「ぐ……。仕方……ないスねぇ」
何やらしてやられた、と思ってしまうのは気のせいだろうか、と。
ラギーが考えている間に、
「ケークサレ、っていう甘くないケーキがあってな。試しに作ってみたかったんだ。助かるよ」
上機嫌にトレイは言って、ラギーの耳にそっと口付けた。
「わわっ!不意打ちはやめて下さいって!」
「ハハ……。悪い悪い……」
「ぜってー、悪いとか思ってない口調っスよねぇ?それ!」
「んー?そんな事はないぞ?」
ラギーの剣幕を他所に、飄々とした呈でトレイは寮の入口へ戻っていく。
ラギーは置いていかれないように、慌ててその背中を追った。