誘い方モストロラウンジの営業時間も終わり、後片付けを終えたラギーがそろそろ自分の寮へ戻ろうとした時、アズールから呼び止められた。
「あの、すっかり忘れていましたが……。これは貴方が持っていて下さいませんか?」
そう言われて何の脈絡もなくラギーが渡されたのは、アズールの部屋の鍵だったものだから正直言って面食らった。
「はっ?!えっ?!」
驚きの声を上げてから、ラギーはその後の言葉が続けられなくなってしまう。
と言うのも、アズールが少し頬を赤く染めて俯いてしまったのを見てしまったからである。
「……やはり、ご迷惑でしたか」
しおらしく小さな溜め息をつくアズールに、
「いやっ!迷惑だなんてっ!んな事ないっス!貰えるモンなら何でもありがたく頂くっスよ!」
と、ラギーは慌てて返す。
途端、にんまりと笑顔になったアズールに、ラギーは「しまった」と額に手をあてた。
「そんで?対価は何なんスか?」
「対価だなんて、人聞きの悪い。僕はただ、恋人との時間を僕の部屋でゆっくりと過ごすという権利を、他でもない貴方に差し上げたかっただけですよ」
優雅な仕草で、アズールはラギーを手招きした。
「はぁ~」
大袈裟な溜め息をつくと、ラギーも負けずに不敵に笑う。
「全く……。素直じゃないんスから。もう少し俺と一緒にいたい、って言ってくれりゃあ、夜食を食べるくらいの時間なら喜んで付き合うのに」
「そっ!そんなあからさまな誘い方!恥ずかしくて出来ませんよ!」
顔を真っ赤にして大声を出すアズールに、自分の部屋の鍵を無防備に渡してくる誘い方も充分恥ずかしい気がする……とラギーは思ったが、言わないでおく事にして、
「んじゃ、アズール君の部屋でルームサービス、といきますか」
と、その赤くなった頬に軽く唇で触れた。