劣青石(大縹) あなたへの感情を思い出して、数える。自分のものなのに、開け方を知らなかった引き出しを開けて、探す。探さずともそれは、痛いほどに見えているし、その棚に手を突っ込めば簡単に掴めそうだ。
「……ねーさん」
ソファで眠るなんて、珍しい。
腰掛けた姿勢は崩さずに、背もたれに首まで預けて、少し顔を上向きに傾けて眠っている。読みかけだったらしい本は、栞紐を挟んだページがそのまま、膝の上で捲られるのを待っているままでいる。放置されている本をそっと取り上げて閉じて、ついでに表紙を盗み見て(なんか難しそうな本だった)テーブルへと置いておく。2人掛けのソファではあるけれど、横に座ったら起きてしまうだろうか。あまり寝付きのよくない彼女の眠りを、少しでも阻んでしまうのは憚られた。立ったまま、どうしたらいいかもわからずに、とりあえず彼女の顔にかかっている黒髪を弾いた。
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