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    インド映画のファイブスター物語パロシリーズ、バーフバリ編。もし、デーヴァセーナ「女王」とアマレンドラが結婚したら?でもデーヴァセーナは出てきません。そしてアンチ王政!

    王位継承権「母上、アマレンドラはクンタラ国のデーヴァセーナ女王と婚約いたしました」
     長い、長い旅から帰還したマヒシュマティ王国の王子、アマレンドラ・バーフバリは着替えるよりも先に育ての母に婚約の報告をした。
     突然の報告に驚愕したのは玉座に腰掛けるシヴァガミだけでなく、王子の帰還ということで集まっていた従兄弟のバラーラデーヴァ含む臣下たちも息を呑んだ。今回の旅は育ての母が決めたことだが、ろくな報告も寄越さず、いったいどこで何をしているのかわからず安否不明だったというのに、この結末。似たもの親子のふたりは眉間の皺を深めながらも続きを促した。
    「あれは半年前のことです。クンタラ国の外れで騎士崩れの野盗がのさばっていると聞き、騎士ならばと退治に向かったところ……あの方に出会ったのです」
     婚約者との出会いを思い出し、アマレンドラはぽっと頬を赤らめた。
    「誠に、美しいというのはあの方のことを言うのでしょうね。野盗たちはいかにも高貴なセイラーを狙って襲ったのですが、飛び出してきたのは純白のGTM。そうです、クンタラ国のアハメスでございました! 野盗たちをあっという間に蹴散らし、コックピットから出てきたデーヴァセーナの美しさといったら! 十数機をほとんどひとりで相手していたというのに汗ひとつかかず、涼しげな顔で逮捕者の移動や破損したGTMの回収などを指示しており
    、はぁ……アマレンドラの一目惚れでございました……」
     アマレンドラは大きくため息をつく。デーヴァセーナとの奇跡的な出会いと、会えない時間を嘆いてのため息だった。
     相手は騎士崩れといえど、一時期は名声を誇っていた傭兵団から成る野盗だった。それでも、デーヴァセーナは冷静に一機一機を確実に倒していった。戦闘の最中であっても仲間との連携を常に気がけ、味方のGTMで集中的に狙われる者があればすかさず女王自らが助け舟を出した。
     デーヴァセーナという優秀な指揮官と、臆病だがそれゆえに小さな危機を見逃さないホスト・ファティマ、クマラがいたからこそ野盗退治はクンタラ軍に大きな損害を与えることなく終えることができた。そして、アマレンドラの出番といえば、戦場を駆けるアハメスに見惚れてうっとり見つめるだけで、主人に代わり、カッタッパがマグナパレスを操縦して逃亡者を片付けたくらいだった。
     その後、彼女にぞっこん惚れ込んだアマレンドラは残党処理中にもかかわらずデーヴァセーナにのこのこ近づいて行き、ただの愚鈍な野良騎士ですので雇ってください! と申し込んだ。
     ニコニコと呑気な顔のアマレンドラを一目見たデーヴァセーナは、彼の正体にすぐ気づいた。直接会ったことはなくても隣国の王子の顔はもちろん把握しており、なおかつ主人の側で青い顔でおろおろとしているファティマがカッタッパだということも、装甲を変えたマヒシュマティ王国筆頭GTMのマグナパレスにも気づいた。
     愚鈍な野良騎士のふりをしてデーヴァセーナに近づくというアマレンドラの作戦は失敗したけれど、ふたりはいつしか惹かれ合い、婚約へと至った。
    「これが私とデーヴァセーナの馴れ初めです。はぁ……なんてロマンチックなんでしょうか。星団中のどのロマンス映画よりもこれは素敵な出会いです」
     赤い顔でテレテレとデーヴァセーナのことを思い出してぽや〜んほや〜んとしている主人とは対照的に、パートナーのカッタッパは育ての母に当たる現マヒシュマティ国女王のシヴァガミのこめかみに青い筋がしっかり浮かび上がっているのを見逃さなかった。しかし、アマレンドラのパートナーになってから振り回されてばかりのカッタッパが主人に忠告しても聞いてもらえないことはわかりきっており、嵐がやってくるのを待つような気分だった。
    「何、馬鹿なことを……」
     シヴァガミは怒鳴るのを堪え、絞り出すように言った。
     彼女とビッジャラデーヴァは親に決められた結婚だった。マヒシュマティ王家の血筋から相応しいものを選び出して適切な組み合せがシヴァガミとビッジャラデーヴァだったというだけの結婚。そのせいで夫婦仲は険悪であり、アマレンドラには自分のような思いをして欲しくないと願い旅に送り出した。旅先で想い人と出会ったのであれば、祝福しようと決めて育て子の帰りを待っていたのだった。
     祝福したかった。彼女も大切な我が子の幸せを祝いたかった。
     しかし、敵国であるクンタラの女王を選ぶなどという愚行をシヴァガミは許すことができなかった。
    「わかっているのですか! クンタラとは過去何度も戦争を行ってきた敵国! その女王との結婚? ではアマレンドラ、あなたはこの国を捨てるのですか!」
     一度怒鳴り始めると止まらなかった。
     いつもは寛大な為政者であるシヴァガミも愛する子の結婚という問題には冷静でいられない。
    「母上……私はデーヴァセーナを愛しているから共にありたい。そして、クンタラとマヒシュマティの平和の道標となりたいのです。国を捨てるなどと、言わないでください……」
     まさか、育ての親であるシヴァガミに結婚を反対されるとは思わなかった。実の母ではないが、その乳で育ててくれた、アマレンドラを愛してくれる家族に反対されるとは思わなかった。
     確かに、クンタラとマヒシュマティの国交は穏やかなものではない。今は表面的に同盟を結ぶ仲ではあるが、いつこの平和状態が崩れてもおかしくない程度の緊張感は漂っている。
     だからこそ、アマレンドラは平和を望む。過去を克服し、共に歩む未来のためにアマレンドラはクンタラへと婿入りすることを覚悟していた。愛する母に反対されようとも、デーヴァセーナを諦める気などなかった。
    「女王と結婚するとならば、アマレンドラ、あなたはこの国での王位継承権を失うのですよ」
     シヴァガミの言葉に内心ほくそ笑んだのがバラーラデーヴァだった。ヴィクラマデーヴァの血を汲む従兄弟のアマレンドラ・バーフバリは現在のところ、マヒシュマティ王国の王位継承一位だ。母に何かあれば次の王はアマレンドラと決まっている。
     バラーラデーヴァにとって王位は渇求してやまないものだ。現在の君主は彼の母であるシヴァガミ。しかし、バラーラデーヴァの王位継承権はアマレンドラよりも下だった。
     まだ王子の身であるのにアマレンドラは前国王のパートナーであるカッタッパも、王国筆頭GTMであるマグナパレスも所有している。バラーラデーヴァにないもの、全てを持っていた。
     アマレンドラに対し、何も負けていないとバラーラデーヴァは自負している。なのに、マヒシュマティ国王のGTMであるマグナパレスに乗ることすらできない。
     あの、黄金の電気騎士。国王でありガーランドでもあったヴィクラマデーヴァが心血かけて作り上げたGTMの最高傑作。性能は段違いであり、秘蔵のハー閃1014エンジンを両脚に一基ずつ搭載され、三段折りのバスターランチャー・ラピデアカノンを装備するなど王騎として別格。マヒシュマティ王国軍標準GTMのブランデンBとの性能は比べものにならない。
     しかし、マグナパレスはヴィクラマデーヴァが製作した個人所有のGTM。幾多の戦場でヴィクラマデーヴァが操作するマグナパレスは輝かしい戦果をあげていた。王が乗る黄金のGTM。これ以上の象徴はない。いつしか、マグナパレスはマヒシュマティ国王の象徴となった。
     そして、所有していたヴィクラマデーヴァが亡くなった後、マグナパレスは実の息子であるアマレンドラに贈られた。
     戦場でマグナパレスを見るたびにバラーラデーヴァは憎くて仕方なかった。あれは個人蔵のGTMとはいえ、民から見たらマグナパレスこそが国王のGTMだった。マグナパレスを操作する者こそが王だと誰もが囁いていた。
     あれを見るたび、バラーラデーヴァは王位から遠ざかっていくような気がした。あれを見るたび、お前は国王にはなれないと言われている気がした。
     だからこそ、姑息とも言える手段でカーラケーヤ族との戦争で族長を撃った。アマレンドラがあれ以上に王らしくなるのを防ぐため、自分こそがマヒシュマティ国王にふさわしいと示すための行為だった。
     それでも国内ではアマレンドラの人気は衰えることなく、厄介払いと思って送り出した数年の旅の間も国民は彼を忘れることはなかった。
    「落ち着いてください、母上。結婚は個人の自由に任せればよいのです」
     思わぬバラーラデーヴァの言葉にアマレンドラはぱっと顔を明るくさせたが、声の主の思惑は姑息なものだった。
    「お前も言うのか、バラー」
    「はい。バーフは言い出したら聞かぬ男。反対すればするほど諦めが悪くなる。ですから、後先考えぬ駆け落ちなどされて王家の汚点となるくらいならば、祝福してクンタラ国に送り出せばよいのです」
     実の息子にも諭され、国母シヴァガミは額に手をかかげた。
     確かにバラーラデーヴァの言う通りであった。為政者としても軍師としても賢いアマレンドラだが、頑固であることは確実に義兄のヴィクラマデーヴァ譲りであった。
     最大の心残りは、天塩にかけて育てたバラーラデーヴァとアマレンドラのふたりで国を繁栄に導いてほしいという願いだった。どちらも賢く強力な騎士であり、欠点などない完璧な我が子たち。自分の後は、ふたりに国を任せたい。それが、母の願いだった。
    「お願いです、母上。この結婚が祝福されたものであってほしいのです」
     アマレンドラに懇願され、シヴァガミは揺らぐ。
     とはいえ、前々から頭を悩ませていた問題が解決するかもしれないとも考えた。完璧な我が子たちだが、バラーラデーヴァがアマレンドラを疎んでいることをシヴァガミは見抜いていた。ヴィクラマデーヴァの生き写しのようなアマレンドラに国民は熱狂し、その男が王位継承一位だというコンプレックスを母は気づいていた。
     アマレンドラも愛する子だが、バラーラデーヴァこそ血をわけた我が子だった。名声を浴びるのはアマレンドラばかり、という状況を少しでも改善しようと彼だけを長期の旅に出したものの、アマレンドラの人気は陰りを知らなかった。
     我が子らが共に国を繁栄させて欲しいという願いを簡単に捨てることはできないものの、今回の出来事は転機だ。クンタラ国女王のデーヴァセーナに婿入りすれば、アマレンドラはマヒシュマティ王国の継承権を失う。
     マヒシュマティ王国の未来を見定め、シヴァガミは決意した。
    「わかりました。アマレンドラ、あなたは願い通りデーヴァセーナ女王の夫となるのです。しかし、それによりマヒシュマティ王国の継承権は失われます。それでもよいのですか?」
     母の言葉にバラーラデーヴァは笑いを堪えるのに必死だった。こうも簡単にライバルが失せてくれるとは思っていなかった。バカな男だ。たかが女王との結婚のため、王位継承権を捨てるなど、バカな男だ。
     いずれ、アマレンドラを暗殺せねば王位は望めぬと考えていたバラーラデーヴァにとって最も幸運な話だった。
    「ええ、覚悟はしております。しかし、王位継承権を捨てたとしても、アマレンドラは母上の子です。そのことを決して忘れません……」
     ようやく、アマレンドラはシヴァガミに近づき膝をついた。
    「我が子よ……いずれ生まれる子にはマヘンドラと名をおつけ。お前が去れば、この王宮も寂しくなるであろう……」
     母は我が子の頭を撫でた。クンタラへ婿入りすればアマレンドラと会う機会も減る。嵐のように玉座の間に駆け込んできては、新しく始まった公共事業の現場を見てきたけれどあれでは民を疲弊させるばかり、自分が考えたシステムを使えば効率はよくなるし工賃をもっと上げるべきとまくし立てるマヘンドラを見ることはなくなるだろう。
     手のひらにおさまってしまうほど小さかった我が子の頭を撫でる。
     アマレンドラ・バーフバリがクンタラへ婿入りするのはまだ先の話。それでも、シヴァガミにとっては百歳まで育て上げた大切な我が子との間に残された時間はあまりにも少なかった。
     親子の後ろで、もうひとりの王位継承者は考えごとに忙しかった。個人騎とはいえ、アマレンドラのマグナパレスをマヒシュマティに置いていかせ、可能であればカッタッパも……と企む。
     婚約というめでたい出来事だとしても、マヒシュマティ王家という策略にまみれた家の中ではめでたいだけではすまなかった。それがマヒシュマティ王国だった。
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