ぜんぶつたわればいいのに 雨竜が帰宅すると、家の中は静寂に包まれていた。兄である戴天は、家にいると今朝言っていた。できればゆっくりと休日を過ごして欲しかったが、仕事に行ってしまったのかと思いながら雨竜がリビングの電気を付けて、目を見開く。
戴天がソファーでうたた寝をしている、非常に珍しい光景だった。音を立てないように近づくと、普段着の和装を身につけていることから外出はしていないようだが、机に広げられた書類や置かれているノートパソコンから仕事をしていたのだろうということは容易に想像できた。
投げ出されている手にそっと自分の手の甲を触れさせると、かなり冷えているようだった。部屋の中もひんやりとしていて、エアコンを入れようと雨竜は立ち上がる。そして歩き出したときに、かすかに戴天の声が聞こえる。
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