細工は流々 集中を切らさないように、だがなるべく急いで。
正確に、精密に、美しく。
最初から最後まで気が抜けないのは音楽に通じるところもある、なんて余計な事を考えてる場合ではない。息を整えて、指先に全感覚を集中させる。
この半円形の土台にどんな装飾を施すか、どの順番で取り掛かるか。参考になりそうなサイトを検索したり、記憶をたどってみたり。デザインを考えている時間はいつだって心が躍る。
そうして滑らかに整えられた表面に大小さまざまなパーツを順に埋めていく作業は、難しくもあるがとても楽しい。
最後の一片を乗せたら、ぐるりと回して全体のバランスを確認する。
「っはー! できた。うんうん、我ながら最高だな!」
思い描いた通りの仕上がりについ声が大きくなってしまう。
すぐそばで作業を見守っていた朝日奈のポニーテールがぴょこんと揺れるのが見えた。
「わあ、惟世くんすごい! こんなのも出来ちゃうなんて、ホント器用だねえ」
「ふふーん。俺の手にかかればざっとこんなもんだ」
褒められるのは単純に嬉しい。
朝日奈にいいところを見せたくて、隠れて練習した甲斐があったというものだ。
「……でもなあ、なんか物足りなくないか? やっぱ金箔も欲しくなるな」
「ふふ、言うと思った。でも金箔だと折角の細かい飾りが隠れちゃうからダメ」
確かに朝日奈の言う通りかも知れない。
細心の注意を払って施した細工が台無しになるのは避けたい。今日のところは金粉で我慢するしかなさそうだ。工芸に使うものと間違えないように、確か食器棚で保管してあるはず。
さっそく取りに行こうと腰を浮かしたところで、ぎゅっと服の裾を掴んで引き留められた。
「待って。気持ちはわかるけど、大事なこと忘れてない?」
「ん? 何のことだ?」
「今日のおやつは『菓子パンでお手軽ケーキ』なんだよ。こんなすごいデコレーションした上に金粉まで乗せるのはおかしいでしょ」
言われてみれば確かに。スポンジにいちごクリームを挟んだ菓子パンを土台に使えば、ホイップクリームやフルーツで飾りつけるだけで立派なケーキになる、というのが元々のレシピだった。
「スマン。細工を始めると止まらなくて、つい」