Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    さみぱん

    はじめての二次創作

    ☆quiet follow Yell with Emoji 🐈 🐱 💖 🎉
    POIPOI 39

    さみぱん

    ☆quiet follow

    2025.6.15~16星明かりの交響曲第5楽章展示

    笹塚さんが消えた話
    不穏な感じで始まりましたが、ふたを開けてみれば通常運転でした😘

    初出:2025.6.16

    #スタオケ
    ##笹唯

    Re:set ──笹塚さんが消えた。

     送ったマインが未読のまま放置され、電話も全然通じない。そんな事ならこれまでに幾度となくあった。何なら日常茶飯事と言ってもいいくらいだ。原因のほとんどを占めるのは、作曲や編曲作業に没頭している場合。寝食を忘れるくらいなのだから、マインなんて見る筈もない。それが何日も続くと一応心配なので、仁科さんから頼まれて様子を見に行ったことも数えきれない。
     今回もいつも通りだと思っていた。


     連絡がつかなくなってから三日目。笹塚さんのマンションに向かうと、ちょうど仁科さんがエントランスから出てくるのが見えた。どうやら電話中だったようでこちらには気づかず、声を掛ける前にタクシーに乗り込んでしまった。
     仁科さんが出入りしているなら心配ない。ツアーの評判が良かったから、きっとネオフィ関連の案件がたくさん来て、仕事が立て込んでいるのに違いない。邪魔をするくらいなら顔を出すのは止めにしておこう。外から笹塚さんの部屋の辺りを見上げるだけにして、その日は帰路についた。
     いま思えば、何も気にせず上がり込んでしまえばよかった。


     それから三日経っても四日経ってもメッセージの横に既読の表示が付くことはなかった。スクロールして確認すると、笹塚さんからの発信は音声通話がほとんどでメッセは数えるほどしかない。一番直近はツアーが明けた翌日。泊まりに行くから帰宅時間を教えろというものだった。
     あの日は駅で待ち合わせして、買い物してから帰って、久しぶりにお酒を飲んだ。ふたりの時間を過ごせるのが嬉しくて、いつもよりかなり夜更かししてしまった。忙しいスケジュールを縫って逢いに来てくれたんだと、それだけで幸せな気分だった。
     次の日少し寝坊してしまい、起きたときにはもう笹塚さんは出かけた後で。いくつかスタンプをやり取りしたあと、午後に送ったメッセージが未読のままで現在に至る。
     思い返しても特に変わった様子はなかったし、たった一週間連絡が取れないだけで気にし過ぎだとは思うけれど。何だか嫌な感触が背中にべっとりと張り付いたみたいに気持ちが悪い。


     悪い予感ほど的中するとはよく言うもので。
     合鍵を握りしめて向かった笹塚さんの部屋に、笹塚さんの姿はなかった。リビングにも、作業部屋にも、寝室にもお風呂にもどこにも。見慣れた部屋の様子に違和感はない。でも、いつもは出しっぱなしのコントラバスが珍しくケースに仕舞われていたり、ゴミ箱が全部空っぽだったり、乾燥機に洗濯物が残っていなかったり。ちょっとコンビニへ出ていると言う感じではなく、まるで何日も留守にしているみたいに生活感がない。
     しんと静まり返った部屋にアクアリウムのエアレーションの音だけが響いていて、黄色い小魚が気ままに泳ぐ姿を見るともなしに眺めてしまう。
     ……いや、何かがおかしい。この完璧な箱庭を、あの笹塚さんが何日も放置するなんて考えられない。


     何か手掛かりがあるはずともう一度部屋の隅々まで探索していると、玄関の方から物音がするのに気づいた。笹塚さんが帰ってきたのかも、と廊下に続くドアを勢いよく開けると、洗面所から現れたのは仁科さんだった。
     普段と変わらない態度に少し安心しつつ、笹塚さんではなかったことにしょんぼりと眉が下がるのを止められない。
    「あれ、唯ちゃんどうしたの?」
     笹塚さんと連絡が取れなくて心配で様子を見に来たと伝えると、何故か仁科さんが頭を抱えてしまった。
    「……ごめん。てっきり君のところに居ると思ってたからさ」
     仁科さんの説明によると、この一週間の笹塚さんのスケジュールはオフに設定してあったそうで。その間アジトを空けるからと熱帯魚のエサやりを頼まれたのだという。三日に一度、今日はジムの帰りに寄ったらしい。
     だとすればもしこの間仁科さんを見かけた日に上がり込んでいたとしても、笹塚さんには会えなかったということになる。
     一体どこに行ってしまったのだろう。
    「明日には戻ってくるはずだから心配ないよ」
     そう言われても気休めにしか聞こえなくて。あの嫌な感触がちっとも消えてくれない。
     慣れた手つきで魚にエサをやる仁科さんを眺めていても仕方ない。笹塚さんの行きそうな所なんて心当たりはないけれど、何か行動しないと始まらない。
     勢いをつけてソファから立ち上がったところで突然スマホが震えた。画面に表示された名前を見て思わず取り落としそうになる。
    「さ、ささづかさん⁈」
    『あんた、今日何時に帰る?』
    「なんじって。笹塚さんこそどこで何やってるんですか!」
    『……声デカい。さっき新横浜に着いたとこだけど』


     慌てて自宅へ戻ると、マンション前の花壇に笹塚さんが座り込んでいた。
    「腹減った。何か食わして」
     一週間ぶりの笹塚さんの顔は、いつもと変わらないように見えて何となく元気がない印象を受けた。ただお腹が減っているのが理由なら、ここに来るまでに何だってあると思うけど。
    「さっきの電話で食べたいもの教えてくれれば買ってきたのに」
    「別に何でもいい。あんたの作った飯が食いたい」
     とりあえず冷蔵庫の有り合わせのもので親子丼ぽいものが完成した。鶏肉は冷凍唐揚げしかなかったから味は微妙な気がするけど。
     無言でもぐもぐと平らげていた笹塚さんは、やっと人心地ついたという表情でごちそうさまと手を合わせると、そのまま食器を流しへ運んでいくのでびっくりしてしまう。本物の笹塚さんだよね、これ。
    「なに?」
    「あのなんだか別人みたいっていうか何というか……」
    「なにそれ。まあ色々リセットできたからな」
     笹塚さんが落ち着いたところで、聞きたかったことを聞いてみた。どこへ行っていたのか、どうして連絡が取れなくなったのか。
    「知り合いに誘われて断食体験に行ってた。ついでにデジタルデトックスも」
     以前一緒に仕事をしたゲーム会社のプログラマーさんが、大きな仕事が終わるといつも断食に行って心身ともにリセットするのだ、と聞いて興味が湧き連れて行ってもらったのだそう。全く食事を摂らない手法を取るところもあるけど、そこは一日一食だから初心者にも無理なくできるらしい。
     昼間はお寺の庭を眺めながら作曲をしていたそうだ。五線譜に鉛筆で書くのも気分転換になって良かったって。
     何だか楽しく過ごしていたみたいで腹が立ってきた。あんなに心配して損した気分。それなのに。
    「精進料理も悪くなかったけど。やっぱあんたの飯じゃないとダメみたいだ」
     こんな殺し文句を言うなんてズルいよ。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ☺☺☺
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works