日付が変わったら 日付が変わるまであと三十分。さっきから欠伸が止まらなくて涙も出てくる始末だけれど、あとちょっとの辛抱だ。折角なら一番におめでとうって言いたいもの。
あーあ、明日がお休みなら良かったのに。そしたら電車に飛び乗って逢いに行くのに。急に行ったらどんな顔をするかな。びっくりした顔も見たいけど、喜んでくれると嬉しいな。それから、ぎゅって抱きしめて大好きって伝えたい。
あと十五分……そろそろ電話してみようかな。アラームもセットしたし、いつもみたいに話して日付が変わったらそのままお祝いを言おう。
『お……もしもし。唯、どうかしたか?』
呼び出し音が鳴るかならないかですぐに繋がった通話は、電波が悪いみたいでなんだか聞こえにくい。ざわざわと雑音のようなものも入っているし。
「遅くにごめんね。ちょっと声が聞きたくなって」
『……あー、スマン。電車……みたいだから…でかけ直──』
プツプツと途切れた声が続いた後、通話も切れてしまった。どうしよう、もう一度かけてみようかな。でも電車って聞こえたような気がするし、移動中なら迷惑だよね。今頃帰りなのだろうか、大学生は忙しいね。
迷っているうちに日付が変わってしまっては元も子もない。マインのメッセージを送るとすぐに既読になり、やはり電車に乗っているらしいことがわかった。最寄り駅に着いたら電話するから待っていて欲しいとも書いてある。
あと五分なのに。でも零時ちょうどにメッセージするより、時間は過ぎたとしても電話で、声で伝える方がよっぽど良い。
気がつけば時計の針はてっぺんを通り越して、長い針がそろそろ真下を向きそう。つまりあれからもう三十分近く経過していることになる。しかも最後に送ったメッセージは未読のまま。
ダメだ、まぶたが重くていうことを聞かない。冷たい水でも飲みに行こう。部屋を出てキッチンへ向かう途中で着信音が鳴った。
『──っ、電話できなく、てスマン。まだ、起きてられるか?』
電話から聞こえてくる声は、さっきよりずっとクリアに聞こえるのに何故か途切れ途切れで、何だか息遣いが荒い。たとえば電話しながら走ってるみたいな。
ラウンジの灯りを一つだけつけて、ペットボトルの水を抱えたまま息遣いに耳を澄ませると、寒空に浮かぶ白い息さえ見える気がした。
「うん。声聞いたら眠いの吹っ飛んじゃった。惟世くん、こんな遅くに何してるの?」
『思ったより遅く、なったからな。駅から走ってる。もうすぐ、着くぞ』
本当に走ってた。それなら家に着いてから電話してくれても良かったのに。そしたら落ち着いてお誕生日おめでとうって言えばいい。そのつもりだったのに。
「お、いたいた。間に合ったな」
何故か耳元と同時に背後からも声が聞こえて、振り返ると額に汗を光らせた惟世くんが立っていた。なんで?
「風呂に浸かってて、そういえば明日誕生日だなと思ったらムショーに唯に逢いたくなってだな。気づいたら駅に向かってた。あー…、もしかして、メーワクだったか?」
迷惑だなんてそんなことあるわけないよ。逢いに行きたいと思っていたら来てくれるなんて、これは夢なのかな?
この際夢でもいいや。頭を搔く惟世くんに体当たりするように抱きついてみる。大好きなひとがすぐそばにいて、お誕生日おめでとうの気持ちを直接伝えられる。なんて幸せなんだろう。
「俺もうれしいぞ。一番に祝ってくれてありがとな」
ーーーmemo
1/20終電目指して乗ったとしたら
金沢発21:03新幹線かがやき518号─東京着23:32
東京発23:47東海道本線─横浜着00:14
横浜発00:24京浜東北・根岸線─石川町着00:31