夜道は手を繋いで 惟世くんと並んで帰るとき。いつも車道の方を歩いてくれるの優しいなと思っていた。別に守られたい願望があるわけじゃないけど、何となく嬉しくなってお礼を言ったら、予想外の答えが返ってきて笑い過ぎて怒られた。
ガードレールのない歩道の場合、車道と反対側は街路樹だったり植え込みがある事が多いみたいで。植物が生えている場所にはすなわち土があり、それなりに草も生えている。あとは側溝の脇に雑草が生い茂っているのもよく見る。
要するに、草むらから虫が飛び出てくる可能性がより低い方を選ぶと、自然と車道側を歩くことになる、というのが理由なのだそう。
「この間なんて、細い葉っぱが落ちてるなと思ったらぴょんと跳ねてさ……思い出しただけでも背筋がゾオっとする」
特徴からするとショウリョウバッタだったらしい。まあ、葉っぱが急に跳ねたらびっくりするのは分かるけどね。緑色の他に茶色のもいるしね。
「だって怖いものは怖いんだって! そんなに笑われるとさすがの俺も傷つくぞ。そりゃあキケンな方を朝日奈に歩かせてたのは悪いと思うが」
全然危なくないから大丈夫だし。いや、大丈夫なはずだったのだ。
「うふふ、ホントに美味しかったねぇ」
金沢で地元のお寿司屋さんに連れて行ってもらった帰り。満腹のわたしは少し、じゃなくてかなり浮かれていた。お魚はもちろん新鮮だし茶碗蒸しにフルーツまで、全部美味しいものしか出てこないなんて、こんな幸せなかなかないでしょ。
「ほら、唯。足元気をつけろよ、近道するぞ」
ふわふわした足取りで近道だという石段を上っていく。足元に気をつけるよう言われて素直に視線を落とした。その視界の隅、草むらで陰になっているところ。
いま、いまなにか…にょろっとしたものが!
「お、カナヘビだな」
「ヘビ⁈」
「いやいや、あいつはヘビじゃなくてトカゲだが……もしかしてヘビ苦手なのか?」
「う……」
いやなタイミングで虫嫌いの惟世くんを笑ってしまったことを思い出した。正直に言うべきか、もう姿は見えなくなったし黙っておこうか。
「大丈夫だ! あれは警戒心が強くてすぐ逃げていくし、噛みついたりしない。まだ怖いんなら手繋いでやろう」
こんなにも惟世くんの『大丈夫』が心強く思えたことはない。ギュッと繋がれた大きな手がとても頼もしくて、ありがたい。
「でも、俺が近道しようなんて言ったからだよな。怖い思いさせてゴメンな」
どこまでも優しくて器の大きいひとだ。もう大丈夫と返事をして、繋いだ手をきゅっと握り返した。