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    さみぱん

    はじめての二次創作

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    さみぱん

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    ラザルスでの夏休みの課題についてのインタビューその3
    笹塚さんの結果と、仁科さんの顛末について

    8章と笹塚キャラスト4話読了後をお勧めします
    初出:2021.8.22

    ##笹塚
    ##仁科
    ##夏休み
    #スタオケ

    夏休みの課題3【笹塚創、仁科諒介】「すみません、笹塚さんですか?」
    「…あんた、誰?」
    「はじめまして!おれ、陸上部1年の高橋です!よろしくお願いします!」
     何だこの声と身長が無駄にでかい奴は。
    「何か用?」
    「あっ、あの!夏休みになると走り高跳びしにくる方がいるって部の先輩から聞いてて。陸上部じゃないのにすごい跳ぶって!おれも高跳びが専門なんです。先輩たちからは自信無くすからやめとけって言われたんですけど、それでも佐々木先生に手伝わせてほしいってお願いしたら、今日だっていうので準備して待ってましたっ!」
     声がでかい上によく喋る1年だ。うるさいな。そういえば佐々木先生の姿が見えない。あの先生は顔に似合わずニコニコ見守っているだけだから、集中できていい。それでいて一度助言を求めれば、陸上のことなら何でも的確にアドバイスをくれる。
    「ふーん。先生は?」
    「それが、ぎっくり腰で寝込んでるそうです。それでおれ、先生の代わりにはなりませんけど、勉強させてもらいたくて…」
    「わかった。けど手伝いなら必要ない」
    「あ、でもバーの設定とか…」
    「いらない」
    「へ?記録取るんですよね?」
     相手をするのが面倒になってきた。何故いちいち知らないやつに説明する必要がある?時間の無駄だ。邪魔だな。
    「どいて」
     あたふたしている1年には構わず準備運動を始める。イメージトレーニングはしてきた。先週から縄跳びも毎日跳んだ。もう少し走り込みの時間を取れればよかったが、トップスピードを上げてもあまり意味はないので、今から少し走ってみて調整すればいいだろう。


     走り高跳びをやる日が今年も来た。1年の時に課題の内容を決める際、簡単に数値化できる特技といえばこれしか思いつかず、作曲にかける時間を削るのが惜しくて安易に決めてしまったのが運の尽き。その時はただ、考える時間も取り組みにかける時間も節約できて一石二鳥、と思った自分が憎らしい。やめたはずの高跳びを、それも記録に挑戦などという馬鹿げた課題を設定するなんてどうかしていた。
     しかし時間の節約という観点ではある意味正解ではあった。他人と競うことに興味はないが、自分の記録に向き合うだけということで何とか妥協した結果、今年も同じ課題で面倒事をやり過ごすことが出来る。
     実のところ、表向きに最終目標として掲げてある【自分の身長を跳ぶ】というのは嘘だ。設定値自体は嘘ではないが、181センチというのは自分と同じ高さ、つまり仁科の身長のことを指している。
     コンビを組んでいる相方の頭を跳び越えたいといえば聞こえは悪いが、笹塚には必要な事だった。跳ぶこと自体は嫌いではない。しかしただの記録というたいして面白くもない事に挑戦するのは苦痛だ。それでもバーの横に仁科が居る、あいつが見ていると仮定すれば幾分気が晴れる。
     そう、バーの横に仁科が──
    「ん?……仁科?」
    「おっ、やってるやってる。笹塚、お疲れ」
     記録のことを考えるのが嫌で脳内で設定した映像かと思ったが、どうやら幻でもないらしい。何故か本物の仁科が現れた。
    「何してんだお前。どこか出かけるんじゃなかったのか」
    「それが、予約してた便欠航でさ。今日いっぱい再開の目途も立たずキャンセル待ちもなし、ってことで取りやめにした。台風から低気圧に変わったのに勢力増すとか意味わかんないよ。で、全オフなんて久しぶりだし、そういえば笹塚が跳んでるところ見たことなかったから応援に来たんだけど、邪魔だった?」
     いや邪魔ではない。というより俄然やる気が出てきた。
    「丁度いい。そこ立ってて」
     先刻からうろちょろしている1年が目を丸くしている。チャラい見た目の仁科と俺が親しげに話すのが信じられないといった表情だ。誰もが見た目で判断する。こいつの社交性にはもちろん助けられている。仁科の良さはそういった事だけじゃないんだが、言ってもわからない奴が多すぎる。尤も、俺と仁科が音楽ユニットを組んでいるなんて知る者が学内に居るとも思えないが。
    「あんた。バーの設定してくれ。181」
    「あっ、ハイわかりました!!」
     歩数で距離を測り助走の確認をする。去年より2度くらい内寄りに変更して、ここからタン・タ・ターンでジャンプ。腕を伸ばし手のひらを上に。空が見える。イメージ通りだ。
    「あのー、笹塚さん。いきなりこんな高くていいんでしょうか…」
    「問題ない。今日は跳べる」
    「ちょっと笹塚、危ないだろ。1年ぶりなのに何で今まで跳んだことない高さにするわけ?」
    「仁科は、そこ。動かないでくれ」


     今年も例年通り、試技は一日10本、三日で最大30本跳ぶので終わりのつもりだった。少なくともそれ以上時間をかける必要性を感じなかったし、それだけあれば徐々に高さを上げていっても跳ぶ自信があった。
     でも今年は最初から181センチでいく。仁科の姿を見た瞬間そう決めた。
    「うわぁ、すげえ」
     1回目の試技で難なくクリアした。さすが仁科だ。いや跳んだのは俺なんだが、仁科が来てくれたおかげだ。あいつの存在はいつも俺を自由にしてくれる。仁科といれば何でもできる気がしてくる。仁科のおかげで早く終わった。早く帰って今の気分を曲にしたい。
    「さて帰るか」
    「へ?まだ1本跳んだだけじゃないの?」
    「目標達成したから終わり」
    「なんで?もっと跳べそうだったけど」
    「そうですよ!あと2センチ、いや5センチはいけますよ!」
    「高く跳ぶのが目的じゃないからな」
     これで高跳びとは本当にお別れだ。今のところ、あの日見た空を超える事ができるのは、たぶん仁科のヴァイオリンと奏でるネオンフィッシュの音楽だけだろう。でも、久しぶりに気持ちのいい空が見られた。
     こうして笹塚の3年分の課題は呆気なく終了した──。

     ──*──*──*──*──*──*──*──*──

     笹塚が跳ぶのを初めて見た。意外と遅い助走、力強い踏み切りからの軽やかな跳躍。すっと伸びた腕に続き、弧を描きながら軽々とバーを超えていくしなやかな肉体。ちょうどマットに落ちる瞬間に目が合った。あいつは笑っていた。偶に見せる不敵な笑みではなく無邪気な子供のような笑顔。
     最初に笹塚から走り高跳びをすると聞いた時は耳を疑った。胸板が厚く体重も俺より重そうながっしりした体型の笹塚が宙を舞うのが想像出来なかった。
     それがどうだ、いつも静かに機械に向かって音の海を泳いでいるあの背中とは正反対に躍動する姿。天は笹塚に何物を与えれば気が済むのだろう。そんな卑屈な考えを吹き飛ばすあの笑顔。仁科のおかげだと言う信じ難い言葉が心に刺さった。俺はまだここに、笹塚のそばに居ていいらしい。たとえ頭の上を軽々と飛び越されたとしても尚、そうありたいと願う。


     問題は自分の課題だ。今年は自分で動かないと何も始まらないのだから。一緒にアジトに帰ってきた笹塚は、シャワーの音をさせていたあと姿を見せない。どうやらそのまま作業部屋に籠ったらしい。今のうちに計画を練り直さなくては。
     事前に検索で見つけてブックマークしておいた動画をいくつか再生してみる。おそらく横浜市内のどこか、炎天下の路上で演奏している映像がある。横浜と札幌では気温も湿度も格段に違うと思われ、札幌でも例年以上に暑いのに、野外で楽器を弾くとか気が知れない。普段箱でしか演奏してない自分にとっては、それだけでもハードルが高く感じてしまう。
     でも、やはり目を引くのはあのコンミスの笑顔だ。あんなに楽しそうにヴァイオリンを弾くひとを他に見たことがない。オーケストラで路上ライブをしようと考えるくらいだから、もう本当にヴァイオリンが、音楽が好きでたまらないというのが表に出てきてしまうのかも知れない。
     『目標達成したから終わり。高く跳ぶのが目的ではない』そうあいつは言った。どうしてそんなに簡単に割り切れるのだろう。もし自分なら。できることの少ない自分なら、もっと縋ってしまい諦めがつくまで途方もない時間を過ごしてしまいそうだ。笹塚は強いな。やりたい事がはっきりしているし、その手段にも迷いがない。
     ああそうか、あのコンミスの表情に惹かれてやまない訳がわかった気がする。どこか笹塚に似ているんだ。俺にはない真っ直ぐで迷いのない情熱を持ったひと。先刻の無邪気な笹塚の笑顔が心を捉えて離さない。あれを守りたい、なんて傲慢なことは言わない。ただ近くで、願わくは一番近くで見ていたい。だから笹塚が自由に活動する為に、笹塚が才能を最大限に発揮できる場所を作るために、できることは何でもしようと思う。今までも、これからも。


     笹塚の手伝いをしていた1年生の彼。身長がある割に記録が伸びないのを悩んでいたそうだ。部員でもなければ面識もなかった笹塚に助言を頼んでいた。
    「あの!笹塚さん、本当にもう帰っちゃうんですか?1回だけでいいので、おれが跳ぶところ見ていただけないでしょうか!!」
    「ああ、世話になったしな。じゃあ1回だけ」
    「お願いします!」
     笹塚の指摘は端的だった。助走のスピードと脚力が合ってないのだと言う。
    「10メートル走り込み1日10本、縄跳び1000回。それと風呂上がりに柔軟。あと、足先まで神経を使え。上体がバー越えて空が見えたタイミングだ」
    「ハイ!わかりました!ありがとうございましたっ!!」
     深々と礼をして俺たちを見送ってくれた彼は、必死に自らの成長のために努力しようとしていた。
     俺もなりふり構っている場合じゃないな。使える手段は何でも使ってやれるだけのことをやればいい。浜松の音楽祭に誘ってくれたあの人に連絡して、それからめぼしいホールの関係者を当たってみるとしよう。


    「なぁ笹塚、お前オーケストラで弾いたことある?実はトラの話があるんだけど…」
     仁科の挑戦は相方を巻き込んで動き始めた──。
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    Replies from the creator

    さみぱん

    DONEスタオケ版フリーライトへの参加作品です
    https://twitter.com/samipan_now/status/1528016739367198720
    いぶちこさん(@ibuchi_co)の、めちゃくちゃ可愛くて笹唯ちゃんも桜も満開なイラストにSSをつけさせて頂きました!

    少し不思議な体験をした笹塚さんのお話。
    頭の中でどんな音が鳴っているのか聞いてみたいです。
    初出:2022.5.21
    まぶしい音『それでね、今日────』
     電話の向こうの朝日奈の声が耳に心地いい。
     札幌と横浜、離れて過ごす日があると、小一時間ほど通話するのが日課になっている。最初はどちらからともなくかけ合っていたのが、最近は、もうあとは寝るだけの状態になった朝日奈がかけてくる、というのが定番になってきた。
     通話の途中で寝落ちて風邪でもひかれたら困るというのが当初の理由だったが、何より布団の中で話している時の、眠気に負けそうなふんわりした声のトーンが堪らない。
    『────。で、どっちがいいと思います?』
    「ん……なに?」
    『もう、また聞いてなかったでしょ』
     俺にとっては話の内容はどうでもよかった。朝日奈の声を聞いているだけで気分が晴れるし、何故か曲の構想もまとまってくる。雑音も雑念もいつの間にかシャットアウトされ、朝日奈の声しか感じられなくなっているのに、断片的な言葉しか意味を成して聞こえないのが不思議だ。
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