夜半にはまだ間がある時間を文机の前で過ごしていた芥川は、ようやく寝床を振り返った。すでに敷いてある布団の上では室生が仰向けに転がって本を読んでいる。折角遊びに来たというのに結局はそれぞれのやりたい事をしてい時間を芥川は居心地良く感じていた。
そちらを見ている芥川に、室生はいまだ気づいていない。浴衣の乱れた裾からまろび出た脛が白く見えた。並べた布団の間の青い畳が妙に寂しい。
「犀星」
ゆるりと近づいた芥川は彼の腰を両足で挟んでのし掛かった。驚いた顔の左右に手をついて上から眺める。本を取り落とした彼が茶色の睫毛を何度も瞬かせるのを見た。
さあ、次はどうしようかと芥川が考えようとする間もなく、自分の首の後ろに熱い体温を感じた。室生が腕を回したのだ。
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