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    ちょこ

    主に企画参加の交流小説、絵など投稿してます
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    アイドラ話
    燕くんと時雨先生の話

    学院の使われていない音楽室、ここでたまにピアノを弾く時雨だったが、最近は生徒である燕が来るようになった。彼が来てはリクエストの曲を弾いたりレッスンをしたり。そんな時雨にとって今までが非日常だったものが日常になりつつある頃、燕が何か小さな紙袋を時雨に差し出した。一瞬なんだろうか、と受け取る。
    「……先生に似合いそうだと、思いまして」
    燕がそう言ったのでそっと中身を見る、中には小さな箱が入っていた。その箱を手にして書いてある文字を見た。沈丁花と書かれた文字に可愛らしい花のデザイン、香水かと気づくには時間はかからなかった。まさか生徒から香水を贈られるとは思わず、チラリと燕を見る。
    「……。教師に香水を贈る生徒はお前くらいかもな」
    「……すみません……」
    「謝らなくていい。……相当悩んで考えた結果なんだろう? それを否定するなんて野暮だからな」
    一瞬燕が悩みながら香水を選んだのを想像してしまい少し微笑む。箱から香水を取り出す、箱のパッケージに描かれたデザインからして可愛らしい瓶に入れられてるのかと思っていたが、シンプルな四角の瓶だった。蓋をとり手首につけた、優しくも甘い香りが鼻に入る。この香りを似合うと思ったのか、と考えた。
    「……いい香りだな」
    「……やはりよく似合ってます」
    「……なんか気分がいい、ピアノ弾く。もちろん聴くだろう?」
    頭に浮かんだフレーズがどうしても弾きたくなりピアノの丸椅子に座る。燕はもう椅子に座っておりこちらを見ていた。それにしても、浮かんだフレーズをすぐに弾きたいなんて、と思いつつ鍵盤に優しく触れる。
    燕と別れ一人で歩いている時、そう言えば沈丁花はどんな花なのだろうかとスマホで調べた。スマホには一番遠くまで届く香りと言われている、と書かれていた。金木犀と同じ香木でそれら含めて三大香木に含まれると書かれている。そして花言葉を見た時ピタ、と動きを止めてしまった。沈丁花の花言葉は栄光、勝利。燕はこれを知って買ったのだろうか、その言葉の二つは自分には似合わない、前の自分だったら嫌味だろうかと気分を悪くしただろう。けれど、何故か胸の中がじんわりと暖かくなるような気がした。手首につけた香水が優しく鼻に入る。いい香りだ、と微笑みながら廊下を歩く。
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